著者
伊藤 武男 古本 宗充 鷺谷 威 堀川 信一郎 奥田 隆 松廣 健二郎 野村 晋一 横井 大輝 大間 俊樹 伊藤 和也
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

1.はじめに 琉球弧は東側の琉球海溝からフィリピン海プレートがユーラシアプレート(沖縄プレート)の下に沈み込み,西側からは背弧海盆が拡大していると考えられている.従来,背弧海盆のような拡大領域が付随するプレート収束帯の地殻は比較的高温で柔らかいと考えられており,このような地域でのプレート間の固着は弱いと思われていた.しかしながら,同様のテクトニクスを持つ場所で発生した2004年スマトラ・アンダマン海地震や2011年東北地方太平洋沖地震の発生は,すべての沈み込み帯でM9クラスの超巨大地震が発生する可能性を検討する必要があることを示している.そのため,測地学的・地形学・地質学的調査研究を含めた早急な琉球弧における巨大地震の発生の可能性の検討が必要である.2.奄美海台の衝突と喜界島の高速隆起 奄美大島・喜界島の東側の琉球海溝では,世界最大級の規模の奄美海台の衝突・潜り込みが進行しており、地殻を高速隆起させる.海岸段丘面から推定される喜界島付近の隆起速度は,2mm/yrの隆起速度を持っており,強いプレート間の固着の存在を示唆している.さらに,海岸段丘面から,大規模隆起イベントが1000年オーダーの間隔で繰り返している事を示しており,(超)巨大地震の可能性を示唆している.これらを裏付けるように,奄美大島近海で1911年にM8.0の地震が発生しており,それ以降M8クラスの地震は琉球弧では確認されていないが地震活動は活発である.3.GNSS観測と水準測量による喜界島の傾動と隆起速度 琉球海溝に直交して100kmを越える測線を設置する事ができる場所は喜界島・奄美大島・横当島の場所のみである.我々は横当島(無人島)にてGNSS観測を2013年10月から実施しており2014年6月にデータの回収を行った.横当島と奄美大島間のひずみ速度は-3.8×10-8 /yr程度であり,奄美大島と喜界島間の-2.5×10-8 /yrと比較すると,奄美大島と喜界島間とほぼ同じかあるいは,横当島と奄美大島間の方が短縮している可能性がある.しかしながら,観測期間がまだ短いため年周変化や横当島の火山活動の影響など考慮すべきことは多い.一方,喜界島内の傾動の方向と速度を測量する為に,喜界島内で水準測量を2014年の3月〜4月にかけて実施した.今回の水準測量の結果と1997年9月の水準測量結果と比較すると海溝軸側へ約10-7/yrの沈降が観測された. しかしながら,喜界島は海溝軸側へ傾きながら,年間2mm程度隆起しており,この地域の隆起のピークは喜界島よりも西側にあることが明らかになった.このことはプレート境界の深い場所(喜界島付近)まで固着している可能性を示唆しているが,喜界島と奄美大島の水平短縮速度では深い場所までの固着を説明する事は難しい.よって,奄美海台の沈み込み・潜り込みに伴うプレート境界の移動や海台の付加などを考慮する必要があると思われる.
著者
塩見 雅彦 田部井 隆雄 伊藤 武男 大久保 慎人
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

西南日本の地殻変動場は,フィリピン海プレートの斜め沈み込みによる弾性圧縮変形が支配的である.先行研究におけるGPS変位速度データの解析から,量的には小さいながらも,中央構造線(MTL)を境とする前弧スリバーのブロック運動と,MTL断層面の部分的固着による剪断変形が確認されている.地殻変動場の理解には,これらの定量化と分離が必要である.本研究では,南海トラフ・プレート境界面上の固着分布,前弧スリバーのブロック運動,MTL断層面上の固着分布の同時推定を試みた.推定にはマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いた.MCMC法は,マルコフ連鎖に基づく極めて多数の反復計算によりパラメータの事後確率分布を確率密度関数として求める手法で,パラメータが高次元であるようなモデルに対しても解を推定することができる.解析には,2004-2009年の期間の近畿から九州へ至る291点のGEONET最終座標解から算出した3次元 GPS変位速度に加え,MTLトラバース稠密GPS観測37点と海底地殻変動観測12点を加えた,合計340点の変位速度を使用する.この変位速度場を,グローバルプレートモデルMORVELを基に,アムールプレート準拠に変換する.深さ5-50 kmのプレート境界面を1000枚以上の三角形要素群で近似し,さらに四国西部から東部に至る長さ約250 kmのMTL断層面を,深さ下限15 km,傾斜角45度の56枚の三角形要素群で表現する.推定するモデルパラメータは,各断層面上のカップリング率と,アムールプレートに対する前弧スリバーのブロック運動のオイラーベクトルである.陸上のGPS変位速度のみから推定した結果をCASE-A,陸上データに海底地殻変動観測結果を加えたデータセットから推定した結果をCASE-Bとした.本研究の特色は,陸域から海域にわたる変位速度データを全て使用し,MCMC法を導入したことによって,前弧スリバーとその境界のより詳細な変動を議論した点にある.解析の結果,深さ15 km以浅のプレート境界面で,CASE-Bの方がAより大きなすべり欠損速度が推定された.CASE-Bではトラフ軸付近まで50 mm/yr以上の値が推定されたのに対し,CASE-Aでは30 mm/yr程であった.一方,15 km以深ではCASE-A,Bともに,類似したすべり欠損速度分布が得られた.土佐湾の深さ15-25 kmのプレート境界面上に50 mm/yrを超える最大すべり欠損速度が推定された.この領域は1946年南海地震(Mw8.1)の主破壊域とほぼ一致し,次の地震に向けてひずみを蓄積している状態であると解釈できる.25 kmより深部では,豊後水道(深さ30-40 km)を除いて,すべり欠損速度が急激に減衰する.豊後水道では,40-50 mm/yrのすべり欠損速度が推定された.この領域では,6-7年間隔で長期的スロースリップが発生し,1回あたり約300 mmの累積すべり量が見積もられている.発生間隔とすべり欠損速度を考慮すると,この領域に蓄積されたひずみは繰り返しスロースリップの発生により解放されていると考えられる.推定された前弧のブロック運動は反時計回りの回転を示し,アムールプレートに対する相対速度は約5-7 mm/yrであった.MTL断層面浅部の固着は一様ではなく,四国東部ではほぼ完全に固着しているのに対し,西部や中部では固着が弱い.MTL断層面の北傾斜構造と固着分布から,MTLの北側に剪断帯が形成されていることが示唆される.本研究により,プレート間固着による地殻の弾性変形やブロック運動を定量的に分離できただけでなく,従来は分離が困難であったMTL断層面の固着による影響も同時推定できたと言える.
著者
木股 文昭 伊藤 武男 田部井 隆雄 小川 康雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

2007年から頻繁に、インドネシアのスマトラ北部のアチェ州において、GPS観測とMT観測を実施し、2004年スマトラ超巨大地震の地震時の地殻変動と地震後の地殻変動、およびスマトラ断層周辺における地殻変動と比抵抗構造を検出・推定した。地震時の変動としてインド洋沿岸部で3mの南西方向への水平変動を、地震後の変動として同様に南西方向へ最大80cmに及ぶ水平変動と50cmに達する隆起を観測した。これらの変動から、2004年スマトラ地震の滑り分布を推定すると、主たる滑りが浅部ではプレート境界から上部に分岐した上部スラスト断層で発生していると推定された。これはニアス島において観測された1mに達する大きな隆起運動とよく一致する。また、地震後に観測された余効変動、とりわけアチェ州のインド洋沿岸で観測される隆起から、沿岸近くのプレート境界深部でafter slipが地震後に進行していると推定される。年間10cmを超える地殻変動のなかに、スマトラ断層の滑りに起因すると考える変動が見つかった。余効変動を簡単にモデル化で除去し断層での滑りを推定すると、アチェ州北部で深さ13kmあたりが固着し、浅部でクリープ運動が推定された。また断層周辺では低非抵抗域がMT観測から推定され、断層周辺で破壊が進行していることが明らかになった。