著者
塩見 雅彦 田部井 隆雄 伊藤 武男 大久保 慎人
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

西南日本の地殻変動場は,フィリピン海プレートの斜め沈み込みによる弾性圧縮変形が支配的である.先行研究におけるGPS変位速度データの解析から,量的には小さいながらも,中央構造線(MTL)を境とする前弧スリバーのブロック運動と,MTL断層面の部分的固着による剪断変形が確認されている.地殻変動場の理解には,これらの定量化と分離が必要である.本研究では,南海トラフ・プレート境界面上の固着分布,前弧スリバーのブロック運動,MTL断層面上の固着分布の同時推定を試みた.推定にはマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いた.MCMC法は,マルコフ連鎖に基づく極めて多数の反復計算によりパラメータの事後確率分布を確率密度関数として求める手法で,パラメータが高次元であるようなモデルに対しても解を推定することができる.解析には,2004-2009年の期間の近畿から九州へ至る291点のGEONET最終座標解から算出した3次元 GPS変位速度に加え,MTLトラバース稠密GPS観測37点と海底地殻変動観測12点を加えた,合計340点の変位速度を使用する.この変位速度場を,グローバルプレートモデルMORVELを基に,アムールプレート準拠に変換する.深さ5-50 kmのプレート境界面を1000枚以上の三角形要素群で近似し,さらに四国西部から東部に至る長さ約250 kmのMTL断層面を,深さ下限15 km,傾斜角45度の56枚の三角形要素群で表現する.推定するモデルパラメータは,各断層面上のカップリング率と,アムールプレートに対する前弧スリバーのブロック運動のオイラーベクトルである.陸上のGPS変位速度のみから推定した結果をCASE-A,陸上データに海底地殻変動観測結果を加えたデータセットから推定した結果をCASE-Bとした.本研究の特色は,陸域から海域にわたる変位速度データを全て使用し,MCMC法を導入したことによって,前弧スリバーとその境界のより詳細な変動を議論した点にある.解析の結果,深さ15 km以浅のプレート境界面で,CASE-Bの方がAより大きなすべり欠損速度が推定された.CASE-Bではトラフ軸付近まで50 mm/yr以上の値が推定されたのに対し,CASE-Aでは30 mm/yr程であった.一方,15 km以深ではCASE-A,Bともに,類似したすべり欠損速度分布が得られた.土佐湾の深さ15-25 kmのプレート境界面上に50 mm/yrを超える最大すべり欠損速度が推定された.この領域は1946年南海地震(Mw8.1)の主破壊域とほぼ一致し,次の地震に向けてひずみを蓄積している状態であると解釈できる.25 kmより深部では,豊後水道(深さ30-40 km)を除いて,すべり欠損速度が急激に減衰する.豊後水道では,40-50 mm/yrのすべり欠損速度が推定された.この領域では,6-7年間隔で長期的スロースリップが発生し,1回あたり約300 mmの累積すべり量が見積もられている.発生間隔とすべり欠損速度を考慮すると,この領域に蓄積されたひずみは繰り返しスロースリップの発生により解放されていると考えられる.推定された前弧のブロック運動は反時計回りの回転を示し,アムールプレートに対する相対速度は約5-7 mm/yrであった.MTL断層面浅部の固着は一様ではなく,四国東部ではほぼ完全に固着しているのに対し,西部や中部では固着が弱い.MTL断層面の北傾斜構造と固着分布から,MTLの北側に剪断帯が形成されていることが示唆される.本研究により,プレート間固着による地殻の弾性変形やブロック運動を定量的に分離できただけでなく,従来は分離が困難であったMTL断層面の固着による影響も同時推定できたと言える.
著者
渡部 豪 田部井 隆雄
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-10, 2004-08-25 (Released:2010-03-11)
参考文献数
23
被引用文献数
1 4

The Ryukyu Arc is a NE-SW trending island arc that connects southwest Japan and Taiwan. The Philippine Sea plate subducts at the Ryukyu Trench, the southeastern boundary of the Ryukyu Arc. While the plate model predicts a rather high subduction rate (60-80mm/yr), plate coupling has been estimated so small from the earthquake data. Another factor characterizing tectonic features of the region is an active backarc opening at the Okinawa Trough that forms the northwestern boundary of the region. Japanese nationwide continuous GPS array has illustrated a trenchward motion of the Ryukyu Arc. However, it is difficult to quantify the effects of the subduction and the backarc opening because there is little deployment of the GPS network in the direction perpendicular to the strikes of those two boundaries. To model tectonic movement of the region, at first we divide the region into four crustal blocks based on horizontal GPS velocities and geological conditions. As the first approximation, plate coupling is neglected. Crustal velocities predicted from the block motions are in good agreement with the observed ones with an average discrepancy of about 3mm/yr. Next, we introduce moment tensor data of shallow earthquakes to calculate crustal strain rates in several segments and further estimate spatial variation of the plate coupling. The results show that the estimated plate coupling is smaller than 10% in most segments except 50% in the northernmost part. We interpret that the plate coupling at the Ryukyu Trench is so small and the trench can behave as a free boundary. Thus if a backarc opening occurs at the Okinawa Trough, the Ryukyu Arc can easily move trenchward without significant internal deformation. However, detailed mechanism of the backarc opening remains still unknown and is an important problem to be resolved in the future.
著者
木股 文昭 伊藤 武男 田部井 隆雄 小川 康雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

2007年から頻繁に、インドネシアのスマトラ北部のアチェ州において、GPS観測とMT観測を実施し、2004年スマトラ超巨大地震の地震時の地殻変動と地震後の地殻変動、およびスマトラ断層周辺における地殻変動と比抵抗構造を検出・推定した。地震時の変動としてインド洋沿岸部で3mの南西方向への水平変動を、地震後の変動として同様に南西方向へ最大80cmに及ぶ水平変動と50cmに達する隆起を観測した。これらの変動から、2004年スマトラ地震の滑り分布を推定すると、主たる滑りが浅部ではプレート境界から上部に分岐した上部スラスト断層で発生していると推定された。これはニアス島において観測された1mに達する大きな隆起運動とよく一致する。また、地震後に観測された余効変動、とりわけアチェ州のインド洋沿岸で観測される隆起から、沿岸近くのプレート境界深部でafter slipが地震後に進行していると推定される。年間10cmを超える地殻変動のなかに、スマトラ断層の滑りに起因すると考える変動が見つかった。余効変動を簡単にモデル化で除去し断層での滑りを推定すると、アチェ州北部で深さ13kmあたりが固着し、浅部でクリープ運動が推定された。また断層周辺では低非抵抗域がMT観測から推定され、断層周辺で破壊が進行していることが明らかになった。
著者
加藤 照之 松島 健 田部井 隆雄 中田 節也 小竹 美子 宮崎 真一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

北マリアナ諸島のテクトニックな運動を明らかにするためのGPS観測と2003年5月に噴火活動を開始したアナタハン島の地質学的な調査を実施した.GPS観測は2003年1月,同年7月及び2004年5-6月に実施,以前の観測データとあわせて解析を実施した.今回は,1回のみ観測が実施されていた北方の3島を中心とした観測を実施した.西マリアナ海盆の背弧拡大の影響が明瞭に見て取れるものの,北方3島については,繰り返し観測の期間が短いせいか,必ずしも明瞭な背弧拡大の影響は見られない.アナタハン島噴火の調査は2003年7月及び2004年1月に実施した.2003年7月の調査では,噴火はプリーニ式噴火から水蒸気爆発に移行し,一旦形成された溶岩ドームが破壊されたことが分かった.2004年1月調査で計測した噴火口は,直径400m,深さ約80mであり,火口底には周囲から流れ込んだ土砂が厚く堆積し,間欠泉状に土砂放出が起きていた.2003年7月には最高摂氏300度であった火口の温度が2004年1月には約150度と減少し高温域も縮小した.カルデラ縁や外斜面には水蒸気爆発堆積物が厚く一面に堆積しているものの,大規模噴火を示す軽石流堆積物層等は認められない.このため,アナタハン島の山頂カルデラの成因は地下あるいは海底へのマグマ移動であると推定される.この噴火についての地殻変動を調査するためにGPS観測を強化することとなった.火口の西北西約7kmに位置する観測点では,連続観測を開始したほか,2004年1月には島の北東部に新たな連続観測点を設置して観測を行っている.2003年1月と7月の観測データの比較では,水平成分がほとんど変化せず沈降約21cmが観測された.観測された地殻変動は主に噴火によるマグマ移動によって引き起こされたと考えられ,マグマ溜まりが噴火口の直下よりも島の西端にある可能性を示している.
著者
安藤 雅孝 田部井 隆雄 渋谷 拓郎 大倉 敬宏 平原 和朗 鎌田 浩毅 石川 尚人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

[GPS観測]1.フィリピン諸島の南方の海域(モルッカ海)におけるプレート沈み込み様式を推定するために、インドネシア・スラウェシ島北東端のManadoとミンダナオ島中央のDavaoなど10カ所でGPS観測を行ない、これらの地域の変動速度を(傾斜角30度,固着域下限の深さ60km),南部では東傾斜モデル(傾斜角50度,固着域下限の深さ40km)が得られた。2.マコロード回廊周辺およびフィリピン断層沿いの14カ所でGPS観測を今年度も継続して行った。ユーラシアプレートに相対的な速度場を求めたところ、すべての観測点で西ないし北北西向きに5-9cm/yearの値が得られた。しかし、マコロード回廊の北側と南側ではユーラシアプレートに対する速度が系統的に異なり、マコロード回廊内および回廊の南側が、北側の地域に対して年間2cmの大きさで東ないし北東方向に変位していることが明らかになった。また、マコロード回廊内で2〜4×10E-7の南北ないし北北西-南南東方向の伸長成分が検出された。[地球年代学]フィリピン海溝での沈み込みの開始時期に制約を与えることを目的として,ルソン島ビコール半島の13の火山から37試料を採取し,そのK-Ar年代と化学組成の測定を行った.その結果,ビコール半島のフィリピン火山弧の活動は約7Maにまでさかのぼることが分かった.本研究のデータとSajona et al.(1993,1994)のデータをあわせてみると,沈み込みが北から南へ伝播したというモデルと調和的である.また,パラワンブロックの衝突時期が8-9Maと推定されていることと今回のデータは矛盾しない.[火山地質]1991年ピナツボ山噴火時に形成された火砕流堆積物に対して残留磁化の段階熱消磁実験を行った。結果、ある地点の試料は320-440℃まで温度領域で方向が類似する安定な磁化成分が検出された。これは、火砕流中央部が定着時に最大その温度まで上昇したこと示唆する。また、別の地点の試料のほとんどはマグネタイトのキュリー温度(580℃)までの温度領域で認められる類似した方向をもつ安定な一つの磁化成分を示した。このことは、その温度以上に最下部が上昇していた可能性を示す。