- 著者
-
佐々木 良子
- 出版者
- 京都工芸繊維大学
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
20世紀初頭の初期合成染料の利用に焦点を当て、京都工芸繊維大学美術工芸資料館所蔵品を中心にその技法を調査・研究した。旧来の天然染料に代替した合成染料の使用により、染色技術が大きな変貌を遂げた。合成染料導入における友禅染の技術革新の状況をこの時期に開発された種々の友禅染の技法を収蔵品から確認した。次に、20世紀初頭の染織品に用いられた初期合成染料について、微量分析手法を開発し、資料に用いられた合成染料の同定を試みた。合成染料の場合、化学構造が類似した数多くの染料が合成されている。また、単離精製されている場合と、よく似た性質の染料が混合物のままで市販されている場合がある。更に、同じ化学構造の染料でも製造会社によって異なる名前がつけられる場合や、同じ名前でもヨーロッパと日本では異なる染料を示す場合がある。従ってこれまで構築してきた天然染料の分光分析手法をそのまま適用する事は困難である。そこで、天然染料に於いても化学構造の類した染料同士の分析に用いてきた質量分析を初期合成染料の分析に適用した。宮内省の下命により、京都高等工藝学校が秩父宮殿下御成年式の式服を作成し、1922(大正11)年3月に上納した。当時染色加工を担当した色染科の担当者が書き残した『式服加工仕様書』(AN.2517-2)によると、ほとんどの資料は酸性染料を用いて染色し、幅だしや裏糊加工を行っている事が会った。この秩父宮殿下御成年式式服等の残り裂、試し織資料(AN.2520)から、紅地資料(AN.2520-1)を選び、裂地端より微量試料を採取し、染料を抽出、質量分析に供した。その結果、『式服加工仕様書』に記述のあるMethanil Yellow(acid yellow 36)及びPalatine Scarlet(現在は市販されていない)と同じ分子イオンM/Z 352及び435が観察された。