著者
佐村 俊和 林 初男 酒井 裕 相原 威
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.50-56, 2014-06-05 (Released:2014-07-31)
参考文献数
24

記憶に関与する脳の海馬にはCA3と呼ばれるリカレントネットワーク構造の領域が存在する.我々はCA3領域における指向性を持つ神経活動伝播が,海馬の時系列記憶形成機構の解明の鍵になると考えている.リカレントネットワークを用いた神経活動伝播に関する計算機シミュレーション結果より,抑制性結合の回路構造から推測される抑制(静的抑制構造)と活動中のネットワークに生じる抑制性結合の回路構造から推測されない抑制(動的抑制構造)の2つによって神経活動の伝播方向が制御されることを紹介する.また,これらの神経活動の伝播方向の制御機構とCA3領域との解剖学的な対応から,静的抑制構造と動的抑制構造によってCA3領域の神経活動伝播が制御されていることが示唆される.最後に,静的および動的抑制構造を生み出す抑制性介在細胞の軸索投射の異方性と偏りへの着目や,神経活動伝播に基づく海馬の時系列記憶形成機構の解明を目指す研究の必要性に関して議論する.