著者
小山 由美 田中 美郷 芦野 聡子 熊川 孝三 針谷 しげ子 浅野 公子
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.642-650, 2007-12-28 (Released:2010-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

1999年に田中は人工内耳適応児の言語指導法として, 伝統的な聴能訓練をベースにした方法とは異なるトップダウン方式を提唱した。この方法は補聴器活用に併せて手話と指文字を言語指導に導入し, 言語の意味論レベルの機能の発達を促し, これをベースにトップダウン方式で脳内にことば (speech) の聴覚的辞書を作ることを目的としている。2004年4月以降この方式で指導し, 人工内耳を装用させて2年以上経過を観察してきた17例のうち, 15例は人工内耳装用によって手話コミュニケーションが聴覚口話に自然に移行または移行しつつある。残り2例は聴神経発育不全や slow learner などの問題が関係してまだ満足な成果が得られていないが, このような問題を除けば, これまでの成績は手指法は注意深く導入する限り, 聴覚口話の発達を妨げないことを示している。
著者
佐藤 紀代子 杉内 智子 城本 修 杉尾 雄一郎 熊川 孝三
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.78-86, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
15

要旨: 音声コミュニケーションを用いた指導方法で療育を行った中等度・高度難聴群と重度難聴群の音声コミュニケーションの発達経過, および言語力の経緯を長期にわたって検討した。対象は, 指導を行った124例のうち生後5~6か月で補聴器装用を開始し, 聴覚以外に明らかな障害および聴力の変動・低下がなく, 中耳・内耳に異常を認めなかった6症例であった。本指導のねらいである5段階 (①発声模倣, ②単語模倣, ③2語連鎖模倣, ④肯定/否定意思選択, ⑤5W1Hの完成) における発達段階を比較, 検討した。結果, 重度群は平均2歳2か月で人工内耳手術を行ったが, 最終段階に到達するまでに中等度・高度群と比較すると1年4か月以上の遅滞がみられた。しかし, 10歳時の VIQ の結果は両群ともに同程度の結果となった。また, 健聴児の言語発達と比較すると, 明らかに聴覚障害が初期の音声コミュニケーションの発達に影響を及ぼすことが示された。聴覚障害児の音声コミュニケーションと言語の発達のために長期的な観察と個別化療育・医療が必要であることを示唆した。
著者
今井 直子 熊川 孝三 安達 のどか 浅沼 聡 大橋 博文 坂田 英明 山岨 達也 宇佐美 真一
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.352-359, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
18

【目的と方法】  先天性難聴の原因として最も頻度が高いのは GJB2 遺伝子変異であり,一般的に非進行性難聴を呈するとされる。今回我々は GJB2 変異97例について遺伝子型と難聴の進行の有無について検討した。【結果】  遺伝子型は従来アジア人に多いとされている235 delC が最も多く,欧米人に多い35 delG は認められなかった。当初からの重度難聴例を除いた41例のうち,1 年以上の間隔で聴力が 2 回以上測定されている症例は32例であった。明らかな難聴の進行例は 1 例,進行疑い例は 3 例であったが,遺伝子型の特定の傾向は認められなかった。【結論】  GJB2 変異においては難聴の進行は稀であり,進行性難聴を呈する特定の遺伝子型は指摘できなかった。しかし乳幼児では特に難聴の程度が言語発達に大きく影響を与えるため,GJB2 遺伝子変異例であっても稀に難聴が進行するということをふまえて注意深く難聴の経過を追う必要がある。
著者
熊川 孝三
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.809-815, 2015-06-20 (Released:2015-07-18)
参考文献数
15
被引用文献数
1
著者
田中 美郷 芦野 聡子 小山 由美 吉田 有子 針谷 しげ子 熊川 孝三 武田 英彦
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.153-162, 2013-04-28 (Released:2013-09-06)
参考文献数
10
被引用文献数
1

新生児聴覚スクリーニングで難聴が疑われ, 1歳頃より難聴が進行した自閉症スペクトラム障碍及び重度知的障碍を伴う難聴児に3歳11か月時人工内耳を装着させた。本児は聾学校へ入る前から手話を導入した言語教育を受けてきた。本児は現在12歳に達したが, 現在のコミュニケーションは聴覚的言語理解は発達しつつあるものの言語表出は専ら手話である。本児は一時期聴覚過敏症があって人工内耳を拒否するようになった。しかし現在はこれを克服して人工内耳を常用している。本児は社会生活を送る上で必要なskillを実体験を重ねて身に付けつつある。これには両親の熱意はもちろん, 地域社会のいろいろな分野の機関や人々の支援があった。両親は我々のアドバイスにも耳を傾けて, 各方面に働きかけてこの体制を築いてきた。この努力の成果として, 言語発達も含めて社会的経験も積んで本児になりに豊かに育ちつつある。
著者
田中 美郷 芦野 聡子 小山 由美 針谷 しげ子 熊川 孝三 浅野 公子
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.178-183, 2006-04-28 (Released:2010-08-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1

わが国でも子どもの人工内耳例が増加しているが, その評価はことばの知覚面の改善が中心で, 学校教育上最も重視されるべき言語の問題が等閑に付されてきた。人工内耳は難聴を治す方法ではないだけに, 言語を育てるためにはそのための方法論が必要である。我々は親子のコミュニケーションと情緒の安定を重視し, 人工内耳候補児には術前から補聴器活用に加えて手話や指文字などを導入して, 先ず言語発達を促し, 術後も手話や指文字を禁じることなく活用しながらトップダウン方式で聴覚活用に導く方式をとっている。2002年4月以降24名の重度難聴幼児に人工内耳を装着させ, その後の経過を含めて, この作業を行っていく上でのコーディネーターを中心としたチーム作り, 並びに人工内耳の適応基準について, 我々独自の方法論を述べた。

1 0 0 0 OA アブミ骨手術

著者
熊川 孝三
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.127-132, 2012 (Released:2012-11-09)
参考文献数
15
被引用文献数
1

基本手技を習得した中堅医師を対象に,より高度なアブミ骨手術手技を要する困難症例を中心に,注意点と対応する手技を解説した。難易度が高いものとしては,一側性耳硬化症の適応決定,外耳道狭小例の耳内法手術,顔面神経下垂例,狭小な卵円窓例,蝸牛型耳硬化症で出血が多い例,キヌタ骨壊死例およびloose wire syndromeを取り上げた。これらの困難症例を成功させるのに有用な専用器具の備えの重要性を述べた。キヌタ骨壊死などの合併症を起こしにくいとされる新しいピストンの紹介を行った。
著者
岩崎 聡 宇佐美 真一 髙橋 晴雄 東野 哲也 土井 勝美 佐藤 宏昭 熊川 孝三 内藤 泰 羽藤 直人 南 修司郎
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.149-155, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
8
被引用文献数
1

平成28年2月下旬に日本耳鼻咽喉科学会に登録している人工内耳実施施設109施設を対象に日本耳科学会人工聴覚器ワーキングループによるアンケート調査を実施した結果を報告する。85%の施設で平均聴力90dB未満の患者が人工内耳手術を希望されていた。48%の施設で一側の平均聴力90dB未満の患者に人工内耳手術を行っていた。82%の施設が1998年の適応基準の改訂が必要と考えていた。人工内耳手術を行った最も軽い術側の平均聴力レベルは91dB以上が20. 7%、81〜90dBが51. 7%、71〜 80dBが14. 9%であった。93%の施設で適応決定に語音明瞭度も重要と考えていた。67%の施設が両側人工内耳を実施したことがあった。本アンケート調査結果を踏まえて、成人人工内耳適応基準改訂が必要と考えられた。