- 著者
-
倉田 玲
- 出版者
- 立命館大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
日本国憲法第15条第3項には「成年者による普通選挙を保障する」と明記されているが,公職選挙法第11条第1項には「次に掲げる者は,選挙権及び被選挙権を有しない」として,第2号に「禁錮以上の刑に処せられその執行を終るまでの者」を,第3号に「禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)」が列記されており,ここに議会制民主主義の政治過程の根幹に関わる重大な憲法問題がある。この問題の本質を探るため,従来から日本の選挙法の理論と実務にモデルを提供してきたアメリカ合衆国の諸州における同種の問題の構造を実証的に検分してきた。現地の関連訴訟の書類など第1次資料を中心とした文書の収集と整理を進めたとともに,とりわけニュー・ジャージ州立ラトガース大学に設置されている2つの法科大学院の双方を訪問し,カムデン校の州憲法研究所とニューアーク校の憲法訴訟クリニックに属する研究者各位の協力を得て,裁判所に係属中の訴訟の関係者に対する聴取調査を含む現地調査を遂行したことにより,近年では市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づく人権委員会の報告書(2006年9月15日),欧州安全保障協力機構の民主制度人権事務所の報告書(2007年3月9日),あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約に基づく人種差別撤廃委員会の報告書(2008年3月5日)など国際機関の文書によっても抜本的な是正が勧告されるまでになった同国における重罪犯の選挙権剥奪が,州権基調の連邦制度を固有の背景としつつ,それを共有しない日本の法制度にも通底する根源的な問題として,破廉恥罪という古典的な概念の歴史的な沿革に由来する要素を核心部分に内包していること解明した。また,現在の世界各国に類例をみないほど広範囲にわたって峻厳な剥奪の実態が看取される合衆国の諸州においては,この種の制度を運用する選挙実務の次元でもマイノリティ集団に属する有権者に対して差別的な効果を及ぼしている重大な過誤が多発していることを検知し,この点についても分析した。