著者
藤長 かおる 伊藤 由希子 湯本 かほり 岩本 雅子 羽吹 幸 磯村 一弘
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:24359750)
巻号頁・発行日
no.18, pp.33-48, 2022-03

『いろどり 生活の日本語』は、主に就労目的で来日し日本で生活する人を対象とし、基礎的な日本語のコミュニケーション力を身につけるための教材として開発された。生活ですぐに役立つ日本語を身につけるために、①「JF 生活日本語 Can-do」を参照して生活場面に必要な課題遂行226項目を目標とし、②会話理解では日常生活で遭遇する可能性の高い口語表現を取り入れ、読解素材ではレアリアを活用する等、日本で生活する人にとっての真正性を重視した。③文法や語彙など言語知識の学習では、理解できればいい日本語と使える日本語を区別して考え、④自律学習をサポートするために「文法ノート」「漢字のことば」「日本の生活 TIPS」を設けた。また、『いろどり』は著作権フリーの教材としてウェブサイト上で公開することにより、各国教師による副教材の作成・共有が進み、日本国内・国外を問わず、教師同士の連携を促進する教材となっている。
著者
安達 祥子 笠井 陽介 熊野 七絵
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:24359750)
巻号頁・発行日
no.19, pp.15-30, 2023-03

「いろどり日本語オンラインコース」は、教材『いろどり生活の日本語』をオンラインコース化したもので、様々な制約により日本語学習の機会が得られない学習者が自学自習できるコースである。開発のコンセプトは、①生活場面で必要な日本語が学べる、②学習者が必要なところだけカスタマイズして学べる、③ストレスなく学べるの3点とし、これらを実現するため、動画や練習コンテンツの制作などを行った。また、コースサイトやページを、だれでも迷わず使えるようにデザインした。コンセプトが実現できているか確認するため分析を行ったところ、ユーザー属性から、想定していたユーザー層が利用していること、ユーザーの行動フロー分析やユーザーアンケートの回答から、それぞれのコンテンツがねらい通りに利用されていることが確認できた。また、ページの閲覧回数やアプリのインストール数から、動画や練習コンテンツのアプリが活用されていることもわかった。
著者
来嶋 洋美 柴原 智代 八田 直美 Hiromi KIJIMA Tomoyo SHIBAHARA Naomi HATTA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.10, pp.115-129, 2014

『まるごと 日本のことばと文化』は国際交流基金が開発中の相互理解のための日本語教科書である。本稿では『まるごと』が、日本語の運用力と異文化理解をどう捉え、教材化したかを述べた。まずJF日本語教育スタンダードで従来の日本語教育におけるレベル設定を見直し、これまで認識されていなかったA1レベルという熟達度を取り入れた。また、学習目標は具体的な言語行動の形(Can-do)で表わし、これによって運用力も評価する。次に日本語の教え方を見直し、学習活動を考える上では習得の認知的プロセスを参照し、言語インプットを重視した指導法を取り入れた。異文化理解能力を養うためには、知識、技能、態度の側面に働きかけた。さらに本稿では相互理解につなげるために『まるごと』で学習する談話の例についてもとりあげる。現在、海外で本書を試用している教師からは、学習者に聴解力がついてきた、積極的に話そうとするなど、肯定的な反応を得ている。
著者
中尾 有岐 セーントーンスック プラパー
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.13, pp.101-116, 2017

『あきこと友だち』は、タイ中等教育向けに作成された初級教科書である。本稿では2017年出版予定の改訂版について、その方針や改訂点、試用の結果などについて報告する。改訂版ではコミュニケーション能力向上を目指すことを基本方針とし、「どんなばめん?」という課の目標場面を示し、ターゲットの語彙や文型に気づかせる聴解練習を追加した。他には、何ができるようになったかを意識させるために、目標を具体的な説明に書き換えたり、Can-do チェックを設けたりした。さらに、学習者が個人やグループで推測や分析、調査などの考える練習を追加し、協働する機会を増やした。「どんなばめん?」の試用結果では、学習者からは「頭を使う練習だから面白い」、「語彙・文法がわかった」、教師からは「生徒の動機づけになる」、「使いやすい」、「導入の時間が節約できた」など肯定的な反応を得た。
著者
古内 綾子 三本 智哉 五十嵐 裕佳 八田 直美 エフィ ルシアナ
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.13, pp.87-100, 2017

筆者らは、インドネシアの日本語教育支援の一環として、2013年に発表された国家カリキュラム(以下、K2013)に準拠した高校教科書『にほんご☆キラキラ』(以下、本書)の開発を行ってきた。K2013では、将来、国内外で活躍する人材育成のために、教育文化省が定めた能力(コンピテンシー)の育成を目指しているが、教科・科目で取り上げられる知識や技能とともに、規律や協調性、創造性、責任感といった態度面のコンピテンシーの育成も目標とされている。本稿では、目的・目標と学習プロセス、学習評価の点からK2013を概観した上で、本書の概要を紹介し、その特徴である、態度面のコンピテンシーの育成と日本語学習の統合を目指したプロジェクトワークについて述べる。本書は、インドネシア人教師による試用を行っており、試用結果を踏まえた改善を行い、現在、出版の準備を進めている。今後の課題として、教師を対象としたワークショップの実施と、学習評価の方法の検討が挙げられる。
著者
川嶋 恵子 和栗 夏海 宮崎 玲子 田中 哲哉 三浦 多佳史 前田 純子 Keiko KAWASHIMA Natsumi WAGURI Reiko MIYAZAKI Tetsuya TANAKA Takashi MIURA Sumiko MAEDA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.11, pp.37-52, 2015

JF 日本語教育スタンダード準拠の海外の成人向け教科書『まるごと日本のことばと文化』の開発に合わせ、関西国際センターでは、この教科書を使って学ぶ学習者のためのサポートサイト「まるごと+(まるごとプラス)」を開発した。「『日本語を使ってできること』が増やせる」、「『リアリティ』のある練習ができる」、「大人が『楽しく使える』」の3つをキーコンセプトとして定め、課題遂行を意識した練習、異文化理解のための情報やきっかけを提供するサイトを目指すこととした。「まるごと+」は教科書の「入門A1」、「初級1 A2」の2つのレベルに対応した種々のコンテンツを提供しており、動画を使った会話練習や異文化理解のためのコンテンツを中心に、学習者や教師から好評を得ている。本稿では、「まるごと+」の開発方針とそれをどのように具現化したか、また、サイトの反響を報告する。
著者
羽吹 幸 長田 優子 磯村 一弘 Miyuki HABUKI Yuko NAGATA Kazuhiro ISOMURA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.9, pp.59-72, 2013

映像教材「エリンが挑戦!にほんごできます。」は、「日本語学習」と「文化理解」を目標とした映像素材を提供することを意図して制作された教材で、テレビ版、DVD教材、WEB版とメディアを変えて展開してきた。本稿では2010年から公開しているWEB版のアクセスログと2回のユーザー評価の結果を元に、WEB版「エリン」が世界の日本語学習者からどのように受け入れられたかを考察する。アクセスログによる利用状況では、継続的にページビュー数を増やし、かつ明確な目的を持ったユーザーに利用されている様子が伺える。2回のアンケート調査では非常に高い肯定的評価が得られた。特に、独学に適したコンテンツやインタラクティブな学習方法が評価されており、サイトの制作意図が効果的に活かされていることがわかった。今後は多言語化や画面仕様の改修によりサイトのユーザビリティを高め、さらに多くのユーザー獲得を目指していきたい。
著者
渋谷 実希 Miki SHIBUYA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.9, pp.109-120, 2013

本稿は、国際交流基金バンコク日本文化センターが2010年1月より2012年4月にかけて行ったJF日本語教育スタンダード導入施行の変遷とともに、具体的な作業の流れと作成物の内容を報告するものである。導入にあたり我々は、JF日本語教育スタンダードを、タイの中等教育機関の日本語教育の現場で問題となっている課題解決のために利用するという基本方針を立てた。そして、『あきこと友だち』という既存の教科書を使っての口頭コミュニケーション能力育成を目標に掲げた。その実現のため、Can-doでの目標設定、目標を達成するためのクラス活動、できたかどうかの評価という一連の流れにJF日本語教育スタンダードを取り入れた、教師のための参考書を作成した。また完成後は、タイ全国6か所で、これをどのように活用していくかの実践的な研修会を行った。現場に直接役立つ、教育支援のためのJFスタンダードの活用法として報告したい。
著者
松浦 依子 宮崎 玲子 福島 青史 Yoriko MATSUURA Reiko MIYAZAKI Seiji FUKUSHIMA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.8, pp.87-101, 2012

本稿ではハンガリーにおける日本語教育教科書『できる』の開発を例に、日本語教育における異文化間コミュニケーション能力の育成の方法とその教材化について一例を示す。ハンガリーの言語教育は欧州評議会の政策に影響を受けており、言語能力のみならず文化的な能力の育成も重要視されている。『できる』においては、Byram、Lázár といった欧州評議会の活動に参加している教育者のモデルを参照し、五つの異文化間能力の定義付けを行い、段階的に教育を行う方法をとった。実際の教材化に当たっては、異文化間能力養成を異なった機能を持つ教科書のコーナーに分散させることで、異文化間能力が静態的な知識に終わることなく、創造的で動態的な性格を持つように複合的なデザインを行った。しかし、異文化間コミュニケーション能力は言語使用者の行動として発現するため、教材の使い方についてより多くの注意が必要である。
著者
武田 素子 千葉 朋美
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.15, pp.39-54, 2019-03

国際交流基金が運営している日本語学習のためのプラットフォーム「JFにほんごeラーニングみなと」では、日本のことばと文化を総合的に学ぶ「まるごと日本語オンラインコース」を開講している。本稿では、初年度はA1のみであった「まるごと日本語オンラインコース」にA2のコースを追加するにあたり、ユーザーがいつでもオンライン上で気軽に受けることができ、自身の日本語能力にあったコースを選ぶための目安となるよう開発した「おすすめコース診断テスト」の開発過程について述べる。本テストは「もじとことば」「かいわとぶんぽう」「ちょうかい」「どっかい」の4セクションで構成され、問題はCEFRを参照し、各コースで扱われているCan-doから出題するのに相応しいものを選定しながら作成した。本テストの受験者7307名のデータを分析した結果、高い信頼性が得られ、ユーザーにとってコース選びの一助となり得ることがうかがえた。
著者
片桐 準二 ドルゴル スレン オユンゲレル ダワー 中西 令子 浮田 久美子 牧 久美子 Junji KATAGIRI DOLGOR Suren OYUNGEREL Davaa Reiko NAKANISHI Kumiko UKITA Kumiko MAKI
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.12, pp.57-72, 2016

モンゴルでは初中等段階の日本語学習者が全体の約7割を占めるに至っているが、初中等教育全体で統一したシラバスや教材がない。そこでモンゴル日本語教師会は「初中等教育機関向け日本語教科書作成プロジェクト」を実施し、モンゴル日本語教育スタンダードと共に教科書シリーズ『にほんご できるモン』を開発することとした。同スタンダードの理念は(1)社会の中で自分の考えを自由に表現し、相互理解するのに必要な外国語能力の育成、(2)子供たちが自分自身の力で学習を進めていく能力の育成であり、教科書にはプロフィシェンシー重視と自律学習支援の2つの特徴がある。新教科書を使用する教師とのやり取りから教科書が改善でき、学習者自身も話す能力の向上を感じているという報告を聞くが、一方で、教師には「書くことが学習である」という従来からのビリーフがあり、教科書が変わっても新しい教え方にならない等の課題が残っている。
著者
上野 一彦 大隅 敦子 Kazuhiko Ueno Atsuko Oosumi
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.4, pp.157-167, 2008-03-17

日本語能力試験は1994年度より障害を持つ受験者に対する特別措置を開始し、2006年度は95名がこの措置を利用している。中でもLD(学習障害)等と分類される学習障害や注意欠陥・多動障害、高機能自閉症に関する措置については、原則を立てつつ試行を重ねている段階である。 一方坂根(2000)によれば、既に日本語教育の現場でもLD(学習障害)等に相当する障害を持つ学習者を受け入れており、教師は「LD学習者の対応は、学習目標、LDの程度や症状の問題など、多くの要因が複雑にからみあうため、一律の対応をするのがよいのか」と懸念しているという。 本稿ではLD(学習障害)等の中核をなすと言われる発達性ディスレクシアに焦点を当て、専門家と実施主体が連携しながら、WAIS-Ⅲをはじめとする認知・記憶特性を理解し、特性に基づいた過去の措置を踏まえて特別措置審査を行っているさまを、実際の事例とともに紹介する。
著者
来嶋 洋美 柴原 智代 八田 直美 Hiromi KIJIMA Tomoyo SHIBAHARA Naomi HATTA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.8, pp.103-117, 2012

国際交流基金ではJF日本語教育スタンダードを教育現場でどう適用するか具現化すると同時に、海外拠点における日本語講座での使用のために、準拠教科書の開発に取り組んでいる。新しい教科書は相互理解のための日本語教育を実践するために、日本語だけでなく異文化理解の学びを取り入れる。学習対象は海外の成人学習者である。JFスタンダードに準拠するために、レベル設定、Can-doによる学習目標、トピック、異文化理解の学習、ポートフォリオを取り入れ、2011年5月には『まるごと-日本のことばと文化- 入門A1』試用版を刊行した。コミュニケーション言語活動中心の「活動編」と、言語能力(語彙、文型など)を中心にした「理解編」、そしてトピック別語彙集で構成される。活動編と理解編は各々主教材として開発したが、トピック構成が共通で、相互補完的にも使用できる。本稿ではその開発の枠組みと内容・構成について報告する。
著者
荒川 友幸 和栗 夏海 Tomoyuki ARAKAWA Natsumi WAGURI
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.3, pp.123-133, 2007

カザフスタンは、日本の文化的プレゼンスが希薄で、日本語の実際的需要が希少な状況ある。日本センターの初級クラスでは、日本事情・文化紹介を授業中に行うことも重視しているため、日本語の語学学習時間数が限られてくる。そこで、『みんなの日本語』の各文法項目を重要度・難易度・使用可能性を勘案して、授業中に扱う比重を変えた。例えば、14課はテ形が最重要項目であるので、練習Aの「2.左へまがってください」は授業中に定着、使用できるところまで練習するが、「4.てつだいましょうか」は紹介するだけある。海外の現場では、日本国内の学習者向けに開発された教科書が使用されてきた。しかし、学習時間数や期間、そして学習者を取り巻く日本語環境が大きく異なることから、海外の環境に適合した教科書の開発が待たれている。本稿は、その第一歩として位置づけることもできる。