著者
六車 由実
出版者
東北芸術工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

H19年度は下記の内容の調査・研究を行った。(1)事例の収集および基礎的データベースの作成人柱伝説およびその比較対象としての人身御供伝説、またそれに関係する伝説資料を、『日本昔話通観』『日本の伝説』『全国昔話資料集成』『日本昔話大成』『日本民俗学』『旅と伝説』『郷土研究』『民族学』の悉皆調査によりピックアップし、都道府県別に分類してファイリングした上で、各資料のナンバリングおよびa(人柱伝説)、b(人身御供伝説)、c(そのほかの関連伝説)に分類して、エクセルにて基礎的なデータベースを作成した。この際、資料の収集およびファイリング、ナンバリングには、院生1名および学生2名のアルバイトを使用した。(2)個々の事例についての資料収集および聞き書き調査上記の作業と並行して、H19年度においては、以下の地域に実際に行き、聞き書きを行うとともに、図書館等の郷土資料のなかから関連資料の収集を行った。・8月16日〜19日秋田県横手市増田の人柱伝説と増田の盆踊り・9月2日〜4日静岡県富士市松岡の護所神社に祀られる人柱・3月12日〜17日香川県高松市、丸亀市、琴平町、徳島県徳島市の人柱(3)これまでの調査・研究から見えてきた人柱伝説を考察する際の課題本調査を始める前の予想では、人柱伝説は人間が自然に対抗するために作り出した人神(守り神)であり、川神や水神などの自然神の存在が希薄化する一方で、人柱による人神への信仰が高まったと考えていた。しかし、今回調査した事例のなかには、水神やそれに値する川除大明神といった自然神と人柱を祀った神とが共存し、両者が補完的な関係に位置づけられているものがいくつかあった。人柱に立った者の霊が人神として祀られているというのは間違いではないだろうが、それまでの自然神との関係をより慎重に検討していく必要があろう。
著者
中村 生雄 岡部 隆志 佐藤 宏之 原田 信男 三浦 佑之 六車 由実 田口 洋美 松井 章 永松 敦
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、日本および隣接東アジア地域の狩猟民俗と動物供犠の幅広い事例収集を通じて、西洋近代率会において形成された「供犠」概念の相対化と批判的克服を行ない、東アジアにおける人と自然の対抗・親和の諸関係を明らかにすることを目的とした。言うまでもなく、狩猟と供犠は人が自然にたいして行なう暴力的な介入とその儀礼的な代償行為として人類史に普遍的であるが、その発現形態は環境・生業・宗教の相違にしたがって各様であり、今回はその課題を、北海道の擦文・オホーツク・アイヌ各文化における自然利用の考察、飛騨地方の熊猟の事例研究、沖縄におけるシマクサラシやハマエーグトゥといった動物供犠儀礼の実地調査などのほか、東アジアでの関連諸事例として、台湾・プユマ(卑南)族のハラアバカイ行事(邪気を払う行事)と猿刺し祭、中国雲南省弥勒県イ族の火祭の調査をとおして追求した。その結果明らかになったことは、日本本土においては古代の「供犠の文化」が急速に抑圧されて「供養の文化」に置き換わっていったのにたいして、沖縄および東アジアの諸地域においては一連の祭祀や儀礼のなかに「供犠の文化」の要素と「供養の文化」の要素とが並存したり融合して存在する事例が一般的であることであった。そして後者の理由としては、東アジアにおけるdomesticationのプロセスが西南アジアのそれに比して不徹底であったという事実に加え、成立宗教である仏教・儒教の死者祭祀儀礼や祖先観念が東アジアでは地域ごとに一様でない影響を及ぼし、そのため自己完結的な霊魂観や死後イメージが形成されにくかった点が明らかになった。またく狩猟民俗と動物供犠とに共通する「殺し」と「血」の倫理学的・象徴論的な解明、さらには、人間と自然とが出会うとき不可避的に出現する「暴力」の多面的な検証が不可欠であることが改めて確認された。