- 著者
-
兼子 峰明
友永 雅己
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement 第24回日本霊長類学会大会
- 巻号頁・発行日
- pp.98, 2008 (Released:2010-06-17)
霊長類の知覚や認識を調べる実験では、刺激呈示装置としてコンピューターディスプレイがしばしば用いられてきた。その入力装置としては、ボタン、ジョイスティックやタッチパネルスクリーンなどが利用されてきた。本研究では比較認知研究のための新たな入力装置としてトラックボールを導入し、チンパンジーにその操作法を訓練した。2頭のチンパンジーを対象として、トラックボールを用いて画面上のカーソルを定められた目標に定位する課題を行った。カーソルが目標から遠い位置にある時は素早く動かして、近づいたら頻繁に方向転換をする、つまり微調整を行うようになった。人がマウスを扱う上でも見られるようなこのような特徴は、チンパンジーがトラックボール操作に十分習熟したことを示す。この装置では課題遂行中のカーソルの運動が連続的に記録される。したがって、反応を点ではなく線でとらえることができる。見本合わせのような課題では、最終的な選択にいたるまでの認知プロセスに迫ることができるだろう。また、運動とその視覚的フィードバックの随伴性を簡単に操作することができることから、運動学習を調べる上で便利なツールともなるだろう。このように本装置の導入は、比較認知研究の新たな可能性を提供するものと考える。