著者
富原 一哉 小川 園子
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

女性は男性の2倍程度抑うつや不安などの情動障害に罹患しやすく,その発症にはエストロゲンなどの性腺ホルモンが深く関与すると考えられている。我々は,妊娠期に相当する高用量のエストロゲンの長期慢性投与がメスマウスの情動行動を亢進させることを確認した。さらには,ERαアゴニスト投与も高用量エストロゲン投与と同様にメスマウスの不安様行動が増大するが,ERβアゴニストの長期慢性投与は,逆に不安を抑制することも明らかとなった。今回得られた知見は,「マタニティー・ブルー」や「産後うつ」などの女性特有の感情障害の神経内分泌メカニズムの解明に大きく貢献するものと考えられる。
著者
大川 あゆみ 富原 一哉 オオカワ アユミ トミハラ カズヤ OKAWA Ayumi TOMIHARA Kazuya
出版者
鹿児島大学
雑誌
地域政策科学研究 (ISSN:13490699)
巻号頁・発行日
no.12, pp.69-89, 2015-03

Affective disorders are characterized by a significant dysfunction of controlling a person's emotional state ormood, inducing social maladjustment. Because women have approximately twice the risk for these disorders than men and the risk increases during peri-menstrual, pregnant, and menopausal periods, it is considered that gonadal hormones, such as estrogen and progesterone, are involved in women's vulnerability to the disorders. In this review, we focus on the risk factors of women's typical affective disorders and discuss the neuroendocrinological mechanisms regulating them. Many studies have provided evidence that the limbic system, including the amygdala and hippocampus, play an important role in regulating the emotional state, and that the GABAergic and monoaminergic neurotransmitter systems and Hypothalamic-Pituitary-Adrenal (HPA) axis are involved in the neurobiology of affective disorders. In addition, the brain areas involved in emotion are rich in estrogen receptors (ERs) and estrogens influence the functions of the neurotransmitter and neuroendocrine system. Especially, the distinct roles for two ER subtypes, ERα and ERβ, in HPA axis activity may be responsible for the development of women's vulnerability to affective disorders. Understanding this rucial mechanism will help provide a prophylactic and therapeutic preparation for women specific affective disorders.情動障害とは,情動機能がうまく働かず社会的な不適応が生じる障害であり,自殺との関連が高く,それらの疾患に対する施策やメカニズムの解明が求められている。また,その発症率は女性が男性の約2倍であり,月経関連症候群や産褥期精神障害など女性特有の情動関連障害も存在することから,女性は情動関連障害に対して脆弱性が高いと考えられている。そこで本論文では情動関連障害の発症要因とその神経内分泌メカニズムについて概観し,女性の情動関連障害への脆弱性に対するそれらの影響を考察することとした。 まず,女性の情動障害の発症要因としては,遺伝要因,女性特有のライフイベント,性腺ホルモンの関与などが考えられる。しかし,性腺ホルモンの影響は遺伝的要因の主要な発現経路の一つであり,女性特有のライフイベントも性腺ホルモンの変動時期と連動することから,エストロゲンやプロゲステロンといった性腺ホルモンを中心にしてこれらが相互作用していると考えることができる。 次に,女性の情動関連障害発症メカニズムを明らかにするために,性腺ホルモンと情動調節の神経解剖学的機構,神経化学的機構,ストレス反応の神経内分泌学的機構との関係を考察した。例えば,性腺ホルモンの投与は,扁桃体や海馬の構造や活性を変化させ,また,GABAやセロトニンなどの神経伝達物質の合成や受容体の発現を変化させることが示されている。さらに内分泌的ストレス反応を司る視床下部-下垂体前葉-副腎皮質系にも性腺ホルモンは影響を与え,ストレスに対するこの系の反応性を変容させる。このように性腺ホルモンが情動を司る脳・神経機構と強く関係することについては多くの報告がなされているが,その機序についての解明は未だ十分とはいえない。今後,これらの疾患の予防・治療に有効な知見を得るためにも,さらに情動調節を媒介する各要因とそのメカニズムの解明に注力していく必要があると考えられる。