著者
伊永 隆史 尾張 真則 竹内 豊英 内山 一美
出版者
首都大学東京
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

化学実験に用いる器具・装置類のダウンサイジングは、今日マイクロ〜ナノテクノロジーの一研究分野として世界的に重要性が認識されてきたマイクロ化学システムを利用し、ガラス実験器具・装置の微小モノづくりによる環境負荷最小化を目的に、サンプルの前処理,反応,分離,検出など実験室・研究室で行われている化学操作をすべてマイクロチップやマイクロリアクター上に構築するものである。化学操作をダウンサイジング化することにより、化学実験の小スケール化による合理的な環境負荷低減・リスク低減を、実験効率を大きく低下させないで実現可能な環境安全教育に適用することを目標として化学実験器具のダウンサイジングによる実験教育手法の開発を行った。大学等でHPLC装置・システムを研究実験に使用するところは多く、廃棄有機溶媒の環境に対する負荷削減を目的に検討したが、実験者に対する曝露リスクの低減効果を考えると、分離カラムのダウンサイジングはきわめて費用対効果は大きい。現在全国で稼働中のHPLCシステムをモノリス型カラムに置き換えることに対し抵抗感が無くなれば、HPLC稼働に伴う溶媒消費量を1/1000近くに低減できることがわかった。ダウンサイジングによる環境安全教育を標準化し、モノリス型カラムLC組み立て実験、化学工学スケールダウン実験、小スケール有機反応実験などのダウンサイジング化学実験事例を取り入れた実験指導教育が望まれることを認めた。中学・高校および大学一般教育・専門教育で行われる基盤的化学実験においては、適切な実験を経験する機会をできるだけ多く与えることが重要で、実験教育による環境負荷や曝露リスクの低減等の課題を解決できるダウンサイジング化学実験法の構築が有望であるため、実験効率を大きく低下させることなく、種々の実験テーマに適用可能なように標準規格化することが今後の課題である。
著者
宮下 賢 田中 諒 長谷川 丈二 中西 和樹 森岡 和大 曾 湖烈 加藤 俊吾 内山 一美 齊藤 和憲 渋川 雅美 中嶋 秀
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.469-478, 2018-08-05 (Released:2018-09-08)
参考文献数
29

相分離を伴うゾルゲル法を用いてマクロ多孔性のレゾルシノール─ホルムアルデヒドゲルを合成し,これを不活性雰囲気下で焼成してグラファイト化することによりカーボンモノリスを作製した.作製したカーボンモノリスを用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラムを試作し,金属-EDTA錯体の保持特性を検討したところ,カーボンモノリスカラムは多孔質グラファイトカーボン(PGC)カラムと同様に酸化還元能を有しており,Co(II)-EDTA錯体をCo(III)-EDTA錯体に酸化することが明らかになった.また,カーボンモノリスカラムを還元剤で処理すると,その酸化還元能が変化することも明らかになった.そこで,HPLCの分離選択性の向上を目的として,カーボンモノリスカラムを酸化還元ユニットとして2本のODSカラムの間に設置したオンライン酸化還元化学種変換HPLCシステムを構築し,これを用いてCo錯体を他の金属錯体から選択的に分離できることを示した.さらに,本システムを用いて銅合金中に含まれる微量コバルトを分離定量できることを実証した.
著者
今枝 一男 大沢 敬子 内山 一美
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.346-350, 1985-06-05
被引用文献数
1 3

薄層クロマトグラフプレート上に展開された試料を,かき取りや切り取りなどの操作を行うことなく定量する光掃引型光音響分析装置の改良を行った.光源の断続周波数は80 Hzとし,又簡単に自製できるロックインアンプを作製した.更に薄層プレート上に展開された物質の詳細な定量条件を検討した.スダンレッド7Bは50〜400 ngの範囲で光音響信号と直線関係となった.400 ng以上では信号の飽和傾向がみられた.スクアレンを展開後,硫酸:メタノール(1:3)を噴霧し加熱発色させたとき,光音響信号の平方根と試料量の対数との間に直線関係があった.正常なヒト前腕部から抽出した皮表脂質中のスクアレンの定量を行い良好な結果を得た.
著者
内山 一美
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.559-573, 2019-08-05 (Released:2019-09-05)
参考文献数
49

ピエゾ型インクジェットを用いたピコ〜サブナノリットルの微小液滴を用いた分析化学について著者らの報告を中心に述べる.インクジェットは吐出位置を制御することで,生成される微小液滴を任意の位置に送達するためのデジタルナノピペットとして活用できる.微小液滴をキャピラリー内に送達することで,微小反応場で抗原─抗体反応を行うことができ,免疫測定法の迅速・高感度化が可能になる.本稿では,著者らの研究成果であるキャピラリーを利用したイムノアッセイ法を紹介する.また,デジタルナノピペットにより,ポリマービーズの懸濁液を基板に吐出することで,規則配列3次元構造体を作製し,高感度イムノアッセイに応用した.インクジェットで形成させた微小液滴そのものを反応場として,分析化学に応用できることを示してきた.著者らが開発してきたオンラインデジタルPCRによるDNA分析及びインクジェットからの分散媒中に高分子プレポリマーを直接吐出する高分子微粒子の生成方法を概説した.
著者
西山 尚秀 陳 子林 中釜 達朗 内山 一美 保母 敏行
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1005-1009, 2003-11-05
被引用文献数
3 5

L-リシンアミドをキラルセレクターとし,配位子交換原理を利用した光学異性体分離用のモノリスカラムを開発したL-リシンアミドは2つのアミノ基を有するアミノ酸アミドであり,従来配位子交換のキラルセレクターとして用いられていない.本研究では分析対象試料にダンシルアミノ酸を用い,キャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)及びマイクロHPLC(μ-HPLC)での分離を検討した.CEC分離では,電気浸透流(EOF)が陰極から陽極に流れ,移動相のpHを小さくすると,従来のフェニルアラニンアミド等のキラルセレクターで修飾したカラムよりもEOFの速度が速くなることを見いだした.CECではμ-HPLCの約5倍の理論段数が得られ,その特性から高分離能であった.一方,μ-HPLCでは低圧力負荷で分離することが可能であった.本研究で開発したL-リシンアミドキラルモノリスカラムは光学異性体の分離において既報告のセレクターとは異なるEOFの性能を示すことを明らかにした.