著者
入谷 明 三宅 正史 内海 恭三 細井 美彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

一卵性多子生産は一つの受精卵から数多くの同一遺伝子構成の個体を複製するという点で、胚の効率生産のみならず、遺伝的検定材料としての利用面に貢献できるものと思われる。しかし胚発生の過程において細胞は増殖と分化を繰り返して個体に発生する。胚の単離割球が個体に分化発生するためには全能性(個体への発生能力)を保持しているか、人為的に賦与させる必要がある。マウス胚では2細胞期の胚ゲノムの活性化が起こり、4細胞期胚の個々の単離割球全てには個体への発生能力がみられていない。しかし羊では8細胞期胚の単一割球の発生能力が報告されている。本研究ではウシとヤギ胚の初期胚の単離割球の発生能を調べると共に、それらの1卵性多子生産を試みた。胎児部と胎盤部に発生する部分に分化した胚盤胞期胚を均等に2分離して1卵性双生児は容易に作出された。金属刃での顕微操作で90%以上の確立で分離され、ウシでは60%以上の受胎率と20対以上の産子が得られた。8細胞期由来2割球(2/8)からはヤギではウサギ卵管中で37%の胚盤胞が得られ、4個の移植から1頭の産子が得られた。ウシでは同様にして20%の胚盤胞が得られた。他にウシでは初期分割期胚の回収が困難なため体外受精由来胚が実験に供され、1/8割球と2/8割球の胚盤胞への発生能はウサギ卵管中で20%であった。ヤギやウシでの1/8〜と2/8細胞の胚盤胞への発生能が認められたので、2/8細胞に1/2〜1/4細胞又は1/8細胞を集合させて2/8細胞の胚盤胞期以後の発生能を改善しようとした。さらに1/8細胞に未受精除核卵母細胞を電気融合させて、受精卵を再構成させた。ヤギ及びウシとも体内受精発育卵及び体外受精発育卵を材料として、8細胞からの割球の単離、融合用の除核卵母細胞の調整、及びそれらの電気融合、再構成胚の胚盤胞期への発生能の検定など一連の基礎技術が開発され、ヤギ・ウシ胚とも胚盤胞が得られているので今後の一卵性8つ子の生産が期待させる。
著者
山田 雅保 内海 恭三 湯原 正高
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.39-47, 1978

幼若ラット過排卵卵を用いて,排卵卵母細胞をヒアルロニダーゼ・低温処理により,第2極体放出を抑制することによって,2倍体胚へ発育しうる活性卵を作出することを目的とし,さらにそれらの着床前における発育性を卵管in-vivo培養に続くin-vitro培養によって検討した. 卵令20-23時間卵において卵をヒアルロニダーゼ30-60分処理後5℃又は8℃のいずれかの低温にさらすことにより高率に第2極体放出抑制活性卵が得られ,そのほとんどは,"2前核"卵であった. 次に第2極体放出抑制活性卵作出に及ぼす卵令の影響について検討した結果,最適卵令20-23時間の結果とは異なり,卵令18時間では,活性化は誘起されなかった. 卵令26-27時間卵では,fragmentation卵と多核を有した卵が非常に多く観察された. この結果より卵令は活性化誘起に対し,Critical factorであることが示された. 本実験で得られた. "第2極体+1前核"卵は,2細胞期あたりで発育を停止したが,しかし,"2前核"卵は,桑実胚あるいは胚盤胞へ発育することがわかった. また,得られた単為発生胚盤胞の倍数性は40の染色体を持つ2倍体と判定された. 以上の結果より,ラット単為発生胚の着床前発育にとって,2倍体胚の重要性が示された。
著者
入谷 明 森 誠 東篠 英昭 山村 研一 山田 淳三 内海 恭三 辻 荘一
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

個体レベルで生体の機能との関連において遺伝子の発現機構を研究する手段として外来遺伝子を受精卵に導入する技術が開発されている。この技術を家畜家禽の受精卵に利用し、育種的改良技術への応用をも期待されるようになった。本研究では、外来遺伝子導入の為の発生学的手法の開発、遺伝子のクローニングとマッピング及び導入遺伝子による発現機構の解析を哺乳動物と家禽を用いて行なう。材料としての卵子の供給を円滑にする為に豚卵母細胞の冷却保存法を試みたが、20℃への感作でも発生能は著しく阻害された。牛や鶏の体外受精法によって、牛卵子では産仔まで発育することが、鶏卵子では精子の進入過程が詳細に明らかにされた。遺伝子導入実験の際の標識となる遺伝子の探索とクローニングが行なわれた。鳥類の性分化を司る遺伝子に焦点をあて、雌から雄への性転換を引き起こす因子の同定と発現を試みる為初期胚に精巣を移植した。その結果性腺は精巣に特有の構造を呈し、未分化性腺に作用して精巣化する未知の物質の存在が知られた。さらにラット肝臓のOTC遺伝子DNAをプローブとして鶏ヒナ肝臓DNAから2種のmRNAを得た。将来このOTC遺伝子を使って遺伝子導入制御機構の変異を解析する予定である。又、ラットを使ってアンギオテンシノーゲン遺伝子の多型の分析から3型の変化が第19染色体上にあることが同定されたので、今後の系統同定やモニタリングへの利用が期待される。ヒト成長ホルモン遺伝子DNAをプローブとしてヤギ下垂体よりcDNAを取り出し、MTプロモーターが置換された構造遺伝子を作り、マウス受精卵へ注入した。マウス卵子への遺伝子導入法を用いた発現機構の解析が、ヒトA-γ鎖とβ鎖の連結遺伝子とヒトプレアルブミン遺伝子で行なわれた。初期発生と成体ではγ遺伝子とβ遺伝子の発現時期が異なり、アルブミン構造遺伝子は肝臓や脳で特異的に発現した。