著者
荒井 清佳
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.13-30, 2020 (Released:2021-12-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1

多枝選択式問題については,知識の有無だけでなく,思考力等を測ることが求められている。センター試験の問題の中には,思考力を問う問題も出題されていると評価されているが,解答者はそれらの問題を実際に思考力を用いて問題を解いているのであろうか。 本研究では,センター試験(世界史)の過去問のうち,思考力を測る問題として評価されている問題を用いて,問題がどのように解答されているのかを明らかにするために二つの調査を行った。[調査1]では,選択式のアンケート調査を行った。[調査2]では,実際の解答過程の記述を収集し分析した。[調査1]と[調査2]を通じて,思考力を測る問題として想定されている問題が,実際に想定通りに問題文やグラフの内容をもとに推論を重ねて解答されていることが示された。また,知識問題であっても「知識・理解による判断」だけではなく,「知識・理解に基づく推測」により解答されていることも示された。
著者
若林 昌子 杉光 一成
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.19-35, 2016 (Released:2019-05-25)
参考文献数
21

試験問題公開の是非の判断については,特に公的試験においては様々な考えがあり,試験に関わる立場や試験に対する価値観の違いを考慮して議論されることはあまりなかった.本研究では,わが国の公的試験の例として,情報公開制度において試験問題を対象とした複数の事例について調査し,俯瞰して考察することにより,試験問題公開の判断基準を得ることを目的とした.その結果,次の5つの観点が得られた. 1) 過去の試験問題の公開を透明性確保の必要条件とするかどうか,(2) 将来の試験のために,過去の試験問題を再利用するかどうか,(3) 過去の試験問題を活用した試験対策を許容するかどうか,(4) 新しい試験問題を開発するための労力増加を受容するかどうか,(5) 過去の試験問題の情報を管理しているかどうか.これらの観点においては,試験に関わる立場や試験に対する価値観の違いによって判断が異なっていることから,試験問題公開の判断基準になると考えられた.
著者
山口 一大
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.103-131, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
101

本稿では,項目反応理論モデルのパラメタ推定法について,Psychometrika誌に発表された論文を主たる対象として,最近の展開を概観した。その結果,項目因子分析モデルや多次元因子分析モデルといった,因子数が多い状況で生じる計算量の困難に対処する様々な方法が提案されていた。具体的には,モンテカルロ積分法や,周辺尤度の近似の積極的な利用,最適化計算の工夫および機械学習領域で用いられている方法の導入が見られた。また,理論的な拡張として,サンプルサイズ・項目数を無限大にするという新しい漸近的状況が考察されていた。さらに,最尤推定・ベイズ推定の枠にはとどまらない方法の提案もなされていた。個人の潜在特性パラメタの推定に関しても,高い精度の信頼区間を保証する理論的な方法が提案されていた。
著者
北條 大樹
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.177-190, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
36

本研究では,教育アセスメント,特にCBTにおけるプロセスデータ(ログファイル)に関する研究を(1)プロセスデータとログファイルの定義と両者の違い,実務で使用されるプロセスデータの種類,(2)プロセスデータ研究の主な目的,(3)プロセスデータの統計解析と統計モデル,(4)Evidence centered designに基づいたプロセスデータの妥当性に関する議論,の4つの観点から概観した。そして最後に,今後のプロセスデータ研究について,学術的な観点と倫理的な観点から議論を行った。プロセスデータを用いた研究を実施するためには,多くの課題があるものの,CBTの継続的な発展を支えるために,テスト領域全体として研究成果を蓄積していくことが必要であり,重要であるだろう。
著者
垂見 裕子 川口 俊明 西 徳宏
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.135-153, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
38

本稿の目的は,全米教育統計センター(NCES)が実施する大規模学力パネル調査の特徴を整理し,そこから日本の学校を対象とした大規模学力調査の在り方に関する示唆を得ることである。具体的には,以下の3点から整理を行う。(1)米国のNCESが実施する大規模パネル学力調査は1970年代以降,どのように発展・変化してきたのか。(2)これら大規模学力パネル調査を実施するために,どのような調査実施体制がとられているか。(3)NCESが実施する大規模学力パネル調査の主たるテーマである「格差」の視点が調査設計にどのように表れているか。 分析の結果,日米の大規模学力パネル調査の蓄積に大きな差があること,その差は彼我のテスト文化の違いのみならずテストを支える体制・雇用慣行の違いによること,何のために学力テストを実施するのかという目的意識が重要であること等が示された。
著者
分寺 杏介
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.191-225, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
300

本稿では,コンピュータを用いたアセスメント(computer-based testing[CBT])の理論的側面に関する各領域の研究を概観するとともに,最新の研究動向を紹介する。CBTに関する主要な研究トピックのうち「紙筆式(PBT)による得点との比較可能性」「適応型テスト」「新しい形式の項目」「オンライン試験における不正行為とその対策」「ログデータの活用」「特別な配慮」の6点について,これまでの知見および最新の動向を紹介した。また,CBTの発展に関する先行研究の予測に従い,CBTに関する研究の今後の方向性についての展望を「妥当性」「テスト不安」「自動化」という3つの観点から論じた。
著者
内田 照久 橋本 貴充
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.79-97, 2019 (Released:2019-08-18)
参考文献数
9
被引用文献数
2

センター試験を利用した私立大学出願の特徴を分析した。はじめに,多数の私立大学に出願する出願者の年次推移を検討した。(1) 散発的点在期(H20~23 年度)は,特定地域への局在性は見られず,散発的に点在していた。(2) 被災地局在期(H24~27 年度)は,東日本大震災の被災地域で急増し,3 年程で沈静化した。 (3) 膨張的拡大期(H28~29 年度)は,首都圏で先行して急増し,他の地域にも拡大していた。この (3)の背景として,大規模私立大学での (a) 複数学部のセット受験時の検定料の低廉化,(b) インターネット出願による手続きの簡素化,の2 点が誘因とされた。一方で,センター試験で私立大学に出願する実人数は,全国総計では増加していたが,18 歳人口の減少傾向が著しい過半数の県では逆に減少しており,地域間での対照的な動向の違いが明らかになった。
著者
坂本 佑太朗
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.95-109, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
34

本研究の目的は,学力テストに設定される下位領域に着目し,学力テストの結果をどのように捉え,それを活用していくことが望ましいかについての指針を得ることであった。実証的に検証するため,わが国におけるTIMSS2003中学校2年生理科データを用いて,下位領域に焦点を当てたマルチレベル分析を行いながら検討した。その結果,下位領域特有の学力に対する規定要因からの影響は限定的であった。このことから,当該テスト結果の解釈では一次元の学力の存在を前提に,それに加えて下位領域ごとの特徴を参考程度に参照することが心理測定学的に支持されることが明らかになった。本研究での結果は,心理測定技術と教育社会学的なアプローチをハイブリッドしてはじめて得られるものであり,下位領域が設定されるさまざまなテスト活用場面における検証アプローチとしての有効性を示し,本研究の意義として議論された。
著者
寺尾 尚大 安永 和央 石井 秀宗 野口 裕之
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-20, 2015 (Released:2022-02-15)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究の目的は,多枝選択式の英語文章読解テストにおける錯乱枝の選択率が能力別にみてどのように異なるか検討することであった.研究1 では,英語文章読解テストにおいてどのようなものが錯乱枝になりうるか質的に検討するため,調査協力者16 名に対し,私立大学入学試験問題の多枝選択式・英語文章読解テストで出題された問題を用いて,誤答選択枝のそれぞれについてコメントを収集し,コメントの結果をもとに錯乱枝の要因・水準を作成した.研究2 では,大学生の受検者366 名に英語文章読解テストを実施し,能力別にみた錯乱枝の効果を検討した.多項ロジスティック回帰分析および残差分析の結果,能力低群では文章中に記述がなく否定語や因果関係を用いた錯乱枝を選ぶ者が多かった一方,能力中群では文章中に記述があり否定語や因果関係を用いた錯乱枝を選ぶ者が多かった.また,能力高群では文章中に記述があり対義語を用いた錯乱枝を選ぶ者が多かった.本研究の知見から,実際の英語文章読解テストにおける誤答選択枝のもっともらしさが能力別に異なる可能性と,多枝選択式の項目作成にかかる労力を軽減できる可能性が示唆された.
著者
渡邊 智也 小野塚 若菜 野澤 雄樹 泰山 裕
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.155-176, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
29

平成29年告示の中学校学習指導要領の要諦のひとつである「思考力・判断力・表現力等」(以下,思考力とする)の育成は,各教科等のみならず,教科等横断的に身につけていく力とを相互に関連付けながら行う必要があるとされている。本研究は,教科横断的に育成される思考力の学習達成を測定する総括的アセスメント開発に向けた環境整備を目的とし,第一に教科共通の「思考スキル」という理論的枠組みを用いて具体化した,思考力の学習到達の目標である思考力Can-do Statementsに基づき,アセスメントの測定対象領域を整理した。第二に,問題項目の試作版を開発した。第三に,そのアセスメントの受検対象者となる中学生の解答時の発話プロトコルデータによる項目分析,および量的な解答データによる項目分析の結果に基づき,項目の妥当性の証拠および項目を改善するための手がかりの収集を試みた。
著者
福島 健太郎 内田 奈緒 岡田 謙介
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.45-59, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1

テスト解答データから解答者の学習要素の修得状態に関する情報を引き出す方法として,認知診断モデル(Cognitive Diagnostic Models, CDM)が注目されている.特に,多枝選択型のCDMは誤答時の情報も有効活用できると考えられ,実際にいくつかのモデルが提案されてきた.一方で,多枝選択型CDM をテストへ応用するためには,項目の各選択枝に対して,要求される学習要素を規定したQ行列を事前に設定する必要がある.その作成コストの問題と公開データの欠如から,先行研究でも数値シミュレーション研究にとどまっている例が多く,テスト開発にあたっての実証分析上の知見は乏しいのが現状である.そこで本研究では,Q 行列を付与した英語の多枝選択形式のテスト開発を行い,収集した実データに対してCDM を適用して,どのような診断結果が得られるのかを調べた.結果として,モデルがデータに対する一定の予測力を持つことが確認されたものの,今回検討した倹約的なモデルでは多枝選択形式特有の解答行動を十分反映できていない可能性が示され,さらなるモデル開発への示唆が得られた.
著者
益川 弘如 白水 始 齊藤 萌木 飯窪 真也 天野 拓也
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.25-44, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
29

一つの文章を複数の要素に解体・再構成して全体を捉える「積極的読み」は大学生活で必須の認知活動だが,その難しさゆえに大学入試で問われても入学志望生はテストワイズネスを利用した浅い処理で対処しがちである.本研究は,解決過程の制御と記録というCBT の利点を生かし,積極的読みを求める典型としての東大入試国語問題を対象に,問題文全体の読解・要素抽出・関連付けを促すCBT を開発,統合的課題解決に及ぼす効果を検証した.この「改変版」と入試問題をCBT に移し替えた「従来版」を用意し,積極的読みの経験が異なる二層の参加者計79 名で実験を行ったところ,読解経験の少ない中堅大学生では従来版の統合課題成績が改変版を上回り,進学校生ではそれが逆転する有意な交互作用が得られた.設問解答とログ分析から,同程度の成績でも中堅大学生の従来版では傍線部付近の書き写し,進学校生の改変版では自らの言葉による再構成が把握でき,CBT の読解支援・評価両面の可能性がうかがえた.
著者
荒井 清佳
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.21-34, 2015 (Released:2022-02-15)
参考文献数
12

テストは,成績の判定や選抜などに用いられ,受験者個人や社会に大きな影響を与える。そのため,テストは適切であるべきだが,テストが適切であるにはテストを構成する各問題項目が適切であることが必要であろう。 本研究は,実際に問題の作成に携わっている専門家の方々に調査を行い,その結果に基づいて問題項目を作成する上で大切なことは何かを明らかにすることを目的とする。本研究で対象とするのは多肢選択式の問題である。研究1では,作成ガイドラインとして知られているものの比較を行い,問題作成の専門家の意見を伺った。研究2では,問題作成時に問題作成の専門家が大切にしていることを尋ねた。その結果,作成ガイドラインの中には試験の目的に応じて柔軟に捉えるべき項目があることが分かった。また,問題作成時に大切なことは,「試験の目的の沿っていること」と「測定したい内容を測定できる問題になっていること」,さらに加えて「受験生のためになるような問題であること」であると考えられる。
著者
佐々木 俊一郎 山根 承子 マルデワ グレグ 布施 匡章 藤本 和則
出版者
日本テスト学会
雑誌
日本テスト学会誌 (ISSN:18809618)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.57-71, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
19

本稿では、大学生を対象としたアンケート調査によるデータと大学から提供を受けた学生の学業データを紐づけることによってパネルデータを構築し、大学生の学業成績の規定因について分析した。固定効果モデルによる分析結果では、取得単位数は交友関係に正の影響を受けるが、学習姿勢から受ける影響は限定的であることが確認された。一方、履修科目の平均点は交友関係には負の影響を受けるが、意欲的な学習姿勢には正の影響を受けることが確認された。こうした結果は、履修科目の平均点は意欲的な学習姿勢に裏付けられているものの、取得単位数は必ずしもそうではないことを示唆しており、大学生の知識・技能の総量を正確に評価する場合には、取得単位数よりも平均点を使用する方がより適切であると考えられる。