著者
大東 宏 小野 祐幸 冨永 茂人 森永 邦久 工藤 和典
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.331-346, 1980

ウンシュウミカンの栽植様式. 樹形. 整枝並びにせん定などの樹形管理技術の合理化と品質向上対策を図るための基礎資料を得る目的で, 1977年の7月から同年12月にかけて, 開心自然形と柵仕立ての杉山系普通ウンシュウミカン成木の異なる着果部位における受光量, 気温及び果実温の日変化を調査した. 結果は以下のとおりである.<br>1. 各月の1日の総全周短波放射量は, 開心自然形樹では樹冠の南側上部において最も高く, 他の着果部位でも概して上部において南側とほぼ同じであったが, 柵仕立て樹では樹冠上部でも少なかった. この相違は, 柵仕立て樹が南北方向の生垣状樹形で, 日射程度が午前と午後とでかなり異なるためであり, 開心自然形樹では半球状樹相のため, 終日平均的に日射を受けることによるものであろう. 樹冠下部の1日全周短波放射量はかなり少なく, 特に北側下部では, 秋季には南側上部の2%程度に落ち込み, 夏季においても45%程度となった. 樹冠内部における1日の総全周短波放射量は低く, 特に柵仕立てでは南側上部の10~20%程度であった.<br>2. 開心自然形樹の着果部位ごとの気温は, 樹冠南側, 東側上, 下部, 内部では, 日の出から正午過ぎにかけて西側上, 下部, 北側上, 下部よりも早く昇温したが, その後日没まで, 西側上, 下部よりも低くなって徐々に下降した. 西側上, 下部では14時頃までは, 昇温が遅れぎみとなったが, その後16時頃までにかなり高くなり, 更に日没まで他の部位よりも高く, 特に東側上, 下部よりも明らかに高温で推移した. 北側上部では日の出から時期にもよるが16~18時頃まで昇温は遅れたが, その後日没まで東側上, 下部よりも高くなった.内側では午前中西側上, 下部, 北側上, 下部より昇温は早かったが, その後16~18時頃まではほぼ一定気温で推移し, 概して16時以降東側上, 下部よりも高かった.<br>柵仕立て樹の着果部位ごとの気温は, 午前中は樹冠の東側上, 下部の昇温が顕著であり, 西側上, 下部では東側よりも遅れて昇温した. 正午になると, 西側上, 下部において高くなり, その後日没に向って下降するものの, 他の部位よりも明らかに高く, 特に, 東側よりも西日の影響が強く現れ, 長く高温が持続するものと思われる. 樹冠内側では東西から太陽の影響を受けているため, 各部位の同時刻の気温の昇降変化のなかで常に中間的な推移を示した. ところが, 東側上, 下部では時期にもよるが14時頃から気温の低下が速くなり, 日没まで各部位中最低の気温を示した. このように, 柵仕立て樹では午前と午後とで気温分布がかなり異なっていることが明らかである. その理由として, 同樹形樹は南北方向の壁様樹相を呈し, しかも樹冠幅は狭いものの枝葉の着生密度が高いため, 大気が枝葉間を流れにくい状態となっていることから, 午前中は東側が, 午後は西側の気温が高まりやすくなると考えられた. そのため, 特に西側では西日の受熱量が貯えられやすいものと思われた.<br>3. 開心自然形樹の果実温は, 午前中, 東側上, 下部の温度上昇が早く, その後西側上, 下部が高くなった. 南側の果実温は午前中は, 東側よりも, また, 午後には西側よりもそれぞれ低くなった. 北側上部の果実温は, 午前中低かったが, 午後かなり過ぎると, 南側よりもむしろ高くなった. 北側下部では果実温の昇温は著しく遅れ, 日中は低かった. 内部でも北側下部とほぼ同様に果実温の上昇は遅れ, 午後も低くなった. 柵仕立て樹では午前中, 東側上, 下部, 西側上部の果実温は早く上昇し, 東側下部ではその後急下降したが, 正午以降再び上昇した. そして, 日没に向って下降した. 西側下部, 内部の果実温は正午過ぎまで他の部位よりも上昇は遅く,しかも最高温度も低く, 更に, 夕刻近くなると, 内部の低下は特に早かった. 西側下部では西日を受け, しかも地表面温度の影響を受けるためか, 果実温度の下降は遅れぎみとなった.
著者
山本 雅史 福田 麻由子 古賀 孝徳 久保 達也 冨永 茂人
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.7-12, 2010 (Released:2010-01-26)
参考文献数
28
被引用文献数
8 9

奄美大島の東側に位置する喜界島特産の在来カンキツであるケラジミカン(C. keraji hort. ex Tanaka)の来歴について検討した.Inter Simple Sequence Repeat(ISSR)分析において,多型が認められたバンドを用いて共有バンド率を算出した.ケラジミカンはクネンボ(C. nobilis Lour.)と最も共有バンド率が高く(0.823),次いでキカイミカン(C. keraji hort. ex Tanaka)との共有バンド率が高かった(0.688).ケラジミカンに認められた16本のバンドはすべてキカイミカンまたはクネンボにも出現した.この3者間でケラジミカンのみに出現する独自のバンドは無かった.この結果から,ケラジミカンがクネンボとキカイミカンとの交雑種である可能性は否定できなかった.葉緑体DNA分析においてはケラジミカン,クネンボおよびキカイミカンは常に同一のバンドパターンを示し,識別できなかった.いずれも自家不和合性であるケラジミカン,キカイミカンおよびクネンボ間の交雑では,ケラジミカンとキカイミカンの正逆交雑において不和合関係が認められ,両者の不和合性に関する遺伝子型が一致することが確認できた.この両者はクネンボとは交雑和合性であった.クネンボとキカイミカンがケラジミカンの親であると仮定した場合,キカイミカンが花粉親の場合に,ケラジミカンはキカイミカンと不和合性になる.以上から,ケラジミカンはクネンボを種子親,キカイミカンを花粉親として発生した可能性があることがわかった.
著者
楊 学虎 冨永 茂人 平井 孝宜 久保 達也 山本 雅史
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.227-234, 2009-04-15
参考文献数
18

タンカン果実の連年安定生産技術改善のための基礎的知見を得るために、'垂水1号'を供試して、果実発育、着色、果汁成分、砂じょうの発育および呼吸活性の時期別変化を調査した。果実は7〜12月にかけて旺盛に肥大し、それには7〜11月にかけての砂じょう重の増加が大きく寄与していた。12月以降、果実肥大は低下した。じょうのう当たりの砂じょう数は7月には収穫時とほぼ同数であった。砂じょう長は8〜2月まで緩やかに増加した。砂じょうの呼吸活性は7〜11月にかけて急速に減少し、11月以降はほぼ一定であった。果皮の着色は10月から始まったが、果肉の着色より遅れた。糖度(Brix)は10月から増加し、それは主要糖であるスクロースの増加によるものであった。グルコースとフルクトースの含量は低かったが、収穫直前にわずかに増加した。滴定酸含量は8月に最高値を示した後、12月まで急激に減少した。12月以降は1%前後で推移した。滴定酸含量は果汁中で90%以上を占めるクエン酸の変化と一致した。クエン酸以外にリンゴ酸が検出されたが、リンゴ酸含量は終始低かった。
著者
山本 雅史 冨永 茂人
出版者
鹿児島大学
雑誌
南太平洋海域調査研究報告=Occasional papers (ISSN:13450441)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.136-139,

与論島における主要な在来カンキツが6種類確認できた。それらは,1)イラブオートー(Citrus kerajivar. kabuchii, カブチー類縁種), 2)ユンヌオートー(C. oto, オートー), 3)ウンジョウキ(C. nobilis, クネンボ類縁種), 4)イシカタ(C. rokugatsu, ロクガツミカン), 5)キンカン(C. depressa, シイクワシャー), 6)ノボルミカン(C. sp., 雑柑タイプ)である。このうち,ウンジョウキとノボルミカンは,与論島において偶発的に生じたものと考えられる。残る4種類は南西諸島の他の島でも同じ種類のものが栽培されている。しかし,いずれの在来カンキツの呼称も他の島とは異なっており,これらのカンキツが近年導入されたものではなく,古くから与論島で栽培されてきたことがうかがえた。Six citrus accessions grown in Yoron island were classified as follows; 1) Irabu otou (Citrus keraji var. kabuchii, Kabuchii relative), 2) Yunnu otou (C. oto, Otou), 3) Unjouki (C. nobilis, Kunenbo relative), 4)Ishikata(C. rokugatsu, Rokugatsumikan), 5) Kinkan (C. depressa, Shiikuwasha), 6)Noboru mikan (C. sp., hybrid type). Unjouki and Noboru mikan were considered to be chance seedlings arisen in Yoron island. The other four accessions were observed in the other islands of Nansei archipelago. Since the names of all accessions in Yoron island were differed from those of other islands, it could be considered that there has been long history of cultivation of local citrus accessions.
著者
山本 雅史 久保 達也 冨永 茂人
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.476-478, 2005-11-15
参考文献数
12
被引用文献数
2

わが国における主要中晩生および香酸カンキツ染色体のクロモマイシンA_3(CMA)染色を行った.染色体はCMA(+)バンドの有無および位置から5種類に区分できた.すなわち, CMA(+)をA: 両端および動原体近傍に有する, B: 一方の端部と動原体近傍に有する, C: 両端に有する, D: 一方の端部に有する, E: CMA(+)がない, である.各種はこれらのうち4, 5種類の染色体を有し, 独自のCMAバンドパターンを示した.ハッサクでは1A+1C+8D+8E, ヒュウガナツでは2A+2C+5D+9E, '川野なつだいだい'では1A+2C+7D+8E, '宮内伊予柑'では1A+1B+1C+8D+7E, タンカン'垂水1号'では1A+1B+1C+8D+7E, カボスでは3B+2C+5D+8E, スダチでは1B+2C+9D+6Eおよびユズ'山根'では2B+1C+11D+4Eであった.以上の結果, 本研究においても近縁の種間では似通ったCMAバンドパターンが観察された.
著者
楊 学虎 冨永 茂人 平井 孝宜 久保 達也 山本 雅史
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.227-234, 2009
被引用文献数
2

タンカン果実の連年安定生産技術改善のための基礎的知見を得るために,'垂水1号'を供試して,果実発育,着色,果汁成分,砂じょうの発育および呼吸活性の時期別変化を調査した.果実は7~12月にかけて旺盛に肥大し,それには7~11月にかけての砂じょう重の増加が大きく寄与していた.12月以降,果実肥大は低下した.じょうのう当たりの砂じょう数は7月には収穫時とほぼ同数であった.砂じょう長は8~2月まで緩やかに増加した.砂じょうの呼吸活性は7~11月にかけて急速に減少し,11月以降はほぼ一定であった.果皮の着色は10月から始まったが,果肉の着色より遅れた.糖度(Brix)は10月から増加し,それは主要糖であるスクロースの増加によるものであった.グルコースとフルクトースの含量は低かったが,収穫直前にわずかに増加した.滴定酸含量は8月に最高値を示した後,12月まで急激に減少した.12月以降は1%前後で推移した.滴定酸含量は果汁中で90%以上を占めるクエン酸の変化と一致した.クエン酸以外にリンゴ酸が検出されたが,リンゴ酸含量は終始低かった.<br>
著者
冨永 茂人 山本 雅史 久保 達也
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

(1) 南九州~奄美大島のタンカンでは、植え付け後数年間は樹体発育を主体にするカラタチ台苗木と若木から結実させるシトレンジおよびシトルメロ台苗木を組み合わせた植栽が望ましい。(2)(1)摘果技術によって、葉数 4~5 枚の有葉果の適正結果で高品質果実の安定生産が可能である。(2)直径 5mm 程度の中根のデンプン含量を適正着果の指標として用いることが可能である(3)(1)奄美大島では、高品質果実の安定生産のための最終摘果時期は10 月中下旬であり、それ以前では果実が大きく、品質がやや低下すること、それ以降では翌年の着花が不良になる。
著者
山本 雅史 久保 達也 冨永 茂人
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.372-378, 2006 (Released:2006-09-25)
参考文献数
32
被引用文献数
14 52

カンキツにおける自家不和合性は結実不良の原因となることもあるが,単為結果性が備わった場合には無核果の生産につながる重要な形質である.そのため,本研究では主としてわが国原産のカンキツ類65種・品種(以下,品種と略)を供試して,その自家不和合性について解明するとともに,血縁関係のある自家不和合性品種間の交雑不和合性についても検定した.なお,不和合性は花柱内の花粉管伸長によって検定した.レモンは自家和合性であった.ブンタンでは 6 品種すべて,ブンタン類縁種では11品種中 7 品種,ダイダイおよびその類縁種では 6 品種中 2 品種,スイートオレンジおよびその類縁種では 5 品種中‘ありあけ’のみの 1 品種,ユズおよびその類縁種では 5 品種中ヒュウガナツのみの 1 品種,マンダリンおよびその類縁種では28品種中14品種が自家不和合性であった.キンカン類縁のシキキツおよび分類上の位置が不詳の辺塚ダイダイは自家和合性であった.すなわち,本研究で供試したカンキツ全65品種中31品種が自家不和合性であった.交雑不和合性はクレメンティンとその後代である‘ありあけ’との正逆交雑でのみ認められ,両者の不和合性に関する遺伝子型が一致していると推定できた.
著者
冨永 茂人
出版者
植物化学調節学会
雑誌
植物の化学調節 (ISSN:03889130)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.161-162, 1985-12-10
著者
冨永 茂人 岩掘 修一
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-10, 1992-03-30

ポンカンの果実発育の各過程にエチクロゼートを散布し, 各時期の果実の大きさと摘果効果との関係, 及び各時期のエチクロゼート散布と果実品質との関係について調査した.1.エチクロゼートを満開後35〜40日に散布した場合, 無散布樹の落果が大きいために, 摘果効果が明らかでなく, 果実横径による摘果効果の差異も認められなかった.2.エチクロゼートを満開後47〜55日に散布した場合, 葉果比からみた摘果効果が極めて大きく, 摘果過剰になった.この時期の果実横径別に摘果効果をみると, 無散布樹に比べて横径が大きい果実で摘果効果が大きく, 横径が小さい果実では摘果効果がそれほど大きくなかった.3.エチクロゼートを満開後70日に散布すると, 摘果効果は中程度で, 葉果比からみた摘果効果は適当であった.この時期の散布では果実横径の小さい果実の落果が多く, 横径の大きい果実の落果は少なかった.4.エチクロゼートの時期別散布が果実品質に及ぼす影響をみると, 満開後35〜55日の散布では果実の肥大は促進されたが, 果実品質が低下する傾向にあった.一方, 満開後70日の散布では着色が促進された.5.ポンカンに摘果剤としてエチクロゼートを散布する場合, 満開後70日前後が良く, この時期の散布は熟期促進用散布の第1回目の散布と兼ねることができるものと考えられた.