著者
前田 学 守屋 智枝 高橋 智子 脇田 賢治
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.330-334, 2014-08-01 (Released:2014-10-09)
参考文献数
11

65 歳,男性 (無職) 。ツーバイフォー築 10~11 年の居間床中央に 2013 年 6 月初旬から 3 カ月用カートリッジ交換後の電池式殺虫剤 (ピレスロイド系) を必要時に作動させた。同月下旬昼,腋窩に浮腫性紅斑が出現し,翌日未明,身体痛,1 分間意識消失,下痢・脱糞のため,翌朝 3 時,当院救急部に搬送された。 各種検査で異常がなかったため,一時帰宅した。同室で朝 6 時過ぎに同様の意識消失が出現し,7 時過ぎに再度救急部に搬送・入院した。同日 16 時,皮膚科診察時,全身に蕁麻疹様紅斑が出現し,手足の冷感と著明なチアノーゼと共に 3 回目の発作 (収縮期血圧 95 mmHg) が出現した。皮疹は初診の翌日に寛解し,救急搬送時からの肝機能異常は著明に改善したが,CRP は一時的に 4.76 mg/dl 上昇後,入院 4 日で検査値もほぼ正常化し,退院した。ピレスロイド剤は,中毒症状出現時,軽症では全身倦怠感や筋攣縮,運動失調,中等度症では興奮,手足の振戦,唾液分泌過多,重症では間代性痙攣,呼吸困難,失禁の出現が報告されているので,今回の発作はてんかんや食物アレルギーおよび末梢循環不全や冷え性の既往なく,各種検査でも直接的な原因の見当らないことより,密閉した居間で使用した電池式殺虫剤による中毒を疑った。
著者
前田 学 藤沢 智美 日置 加奈 永井 美貴
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.7-10, 2005-02-01
参考文献数
24

症例は両下腿の丘疹・紅斑及び紫斑などを主訴とする16歳の女学生。2001年8月より両下腿に痒みを伴った丘疹及び紫斑が出現し,上肢にも拡大した。初診の1週間前より再燃し,2002年5月7日当科を受診した。既往歴・家族歴には特記すべきことはなかった。血液検査ではWBC 10300/mm<SUP>3</SUP>とやや上昇,赤血球528万/mm<SUP>3</SUP>とやや多血症傾向で,IgE上昇(950IU/ml)以外は異常所見はなかった。左下腿部の病変から皮膚生検を施行したところ,表皮は不規則に延長肥大し,表皮内に海綿状変化を認め,真皮には上層に限局して好酸球を混じた単核球の細胞浸潤が目立った。自験例が使用していた靴下止め糊(ソックタッチ<SUP>®</SUP>)の皮膚貼布試験は48,72時間共に小水疱を伴う紅斑を形成し,本邦判定基準で陽性(+++)と判定したが,各成分別の同試験は患者の同意が得られなかったために未施行。躯幹の皮疹は自家感作性皮膚炎(イド反応)として矛盾しないものと考えられた。ソックタッチ<SUP>®</SUP>は白元(株)製のアクリル系粘着剤の液体靴下止めで,スティックのり状になっており,接着剤成分としてポリアクリル酸ナトリウム・トリエタノールアミン塩の混合物(CH<SUB>2</SUB>・CH・COONa)n,(CH<SUB>2</SUB>・CH・COON(C<SUB>2</SUB>H<SUB>4</SUB>OH)<SUB>3</SUB>)nのジュリマーを5~15%含有し,局方エチルアルコール10~30%,グリセリン15%以下,香料微量,精製水残量から構成されていた。
著者
前田 学 山崎 隆治 藤沢 智美 永井 美貴 周 圓
出版者
日本皮膚悪性腫瘍学会
雑誌
Skin Cancer (ISSN:09153535)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.210-218, 2005-09-30 (Released:2010-08-05)
参考文献数
13

末期皮膚悪性腫瘍 (悪性黒色腫と有棘細胞癌) の2例に対してモーズ法と灸療法の併用を試みた。症例1; 77歳, 男性, 1996年夏より左足第I爪が黒色化し, 1997年5月, 外科で抜爪術施行。6月左鼠径部リンパ節腫脹出現, 悪性黒色腫のリンパ節転移の診断下, 8月18日に当科入院後DAV-feron療法3クール施行, 1998年1月22日に左第1趾切断, 6月より左鼠径部に転移巣数十個以上出現, 腫瘍巣36×30cmを拡大切除・植皮施行, 8月同部に再発, 切除。以後, 再燃・切除を4回施行。鼠径部転移巣に1999年10月よりモーズ法を施行・切除。2000年1月14日に再入院。骨盤内の腫瘍巣は小児頭大, 肺転移出現。1月24日, 鼠径部転移巣に灸3荘施行後, 黒色壊死・潰瘍化し, 同部の腫瘍細胞は消失。易出血のため計5回で中止, 3月9日, 黒色舌苔・カンジダ症併発し, 3月15日心不全で死亡。症例2; 63歳, 男性, 1999年11月右鼻孔部に丘疹を生じ, 2000年3月, 急速に増大, 耳鼻科の生検では良性と判断されたが, 以後増大し, 6月13日当科紹介。有棘細胞癌 (SCC) の診断後, 鼻中隔を含め広範切除。8月よりPM療法2クール施行。2001年4月25日下顎に腫脹出現, 5月25日同部の結節もSCCのため, 放射線60G照射, CF療法2クール施行, 一時的に腫瘍は縮小したが, 深部に癌浸潤し, 手術不可能と判断。3月25日モーズ法を試み, 隆起部は平坦化し, 4月10日に退院後もモーズ法継続。7月16日, 腫瘍巣周辺部の小結節に灸療法併用し, 自宅でも継続。8月6日には腫瘍巣は壊死・痂皮化し, 病理像で壊死化 (+) 。10月より急速に腫瘍巣は増大・易出血性となり, 12月3日再度入院。腫瘍巣は小児頭大壊死性潰瘍となり, 2002年2月23日, 多臓器不全で永眠。灸は文献的にも各種の不定愁訴の改善のみならず, 腫瘍増殖抑制効果も報告されているので, 末期で完治困難な癌症例に対してQOL向上面からモーズ法と灸療法の併用も積極的に考慮する必要がある。
著者
市橋 直樹 中谷 明美 中野 一郎 鹿野 由紀子 前田 学 森 俊二
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, 1991

37歳,女性.左手に軽い瘙痒を伴う辺縁隆起性紅斑出現.遠心性に拡大し数日で消退.同様な紅斑が全身に出没するようになり,他に,関節痛,朝の両手指こわばり感,両眼瞼腫瘍出現,精査加療のため入院.抗核抗体高値,低補体血症,免疫複合体高値,抗SS-A抗体陽性,抗SS-B抗体陰性.Sjogren症候群などを考え,生検.表皮基底層に液状変性なく,真皮上層の血管周囲に核塵形成を伴ったリンパ球を主体とする細胞浸潤を認めた.同部の免疫蛍光染色は,真皮表皮境界部に沿って顆粒状に抗IgG抗体陽性.抗IgA抗体も同様に陽性.以上より蕁麻疹様紅斑で初発したSLEと診断.尿検査成績より腎障害を疑い腎生検を行ったところ,全体として基本構造の改築,メザンギアル領域の拡大を認め,びまん性糸球体腎炎の像を呈していた.腎組織の免疫蛍光抗体染色では,毛細血管からメザンギアル領域にIgGの沈着を認めた.