- 著者
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浅川 伸一
- 出版者
- 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
- 雑誌
- 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.1, pp.9-18, 2003 (Released:2006-04-21)
- 参考文献数
- 17
- 被引用文献数
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失語症の治療技法である,再活性化,再編成,再学習をニューラルネットワークの枠組で説明することを試みた。単語が表す概念を蓄える概念系,単語・文章生成系,および,この2つをつなぐ媒介系の3種類の皮質領野に加えて,大脳基底核をニューラルネットワークモデルとして実装した。大脳基底核では入力情報の条件つき確率を自己組織的に獲得し,スパースコーディングによって同時に活性化するユニット数を制限する回路を用いた。いったん学習の成立したニューラルネットワークに対して概念系と媒介系のユニットを破壊することによって失語症を表現し,ニューラルネットワークを再訓練することでリハビリテーションの技法を視覚化して表現することを試みた。本稿で提案したモデルによって,リハビリテーション訓練中の失語症患者の内部でどのような変化が起こっているのかを説明できる。とくに損傷が重篤である場合には既存の皮質上の経路を訓練する再活性化より,他の感覚モダリティを介した再編成,再学習のほうが治療効果が高いことが示された。このことは実際の失語症患者の治療と対応が取れると考えられ,言語治療の技法に理論的な根拠を与えることができるのではないかと考えている。