著者
岩切 一幸 外山 みどり 高橋 正也 劉 欣欣
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.198-210, 2022-07-20 (Released:2022-07-25)
参考文献数
30

目的:介護施設における介護職員(以下,介護者と記載)の人材不足が問題となっている.この対策として,働きやすい職場の構築が求められており,労働生活の質(Quality of Working Life:QWLと以下記載)の向上が必要になっている.しかし,優先的かつ重点的に取り組むべきQWL要因は明らかではない.そこで本研究では,現在の介護施設における介護者のQWLに影響する主要な要因と取り組むべき優先度を明らかにすることを目的としたアンケート調査を実施した.対象と方法:調査は,施設用および介護者用アンケートを用いて2018年10~12月に実施した.対象施設は全国の特別養護老人ホームから無作為抽出した1,000施設とし,対象介護者は1施設あたり8名の計8,000名とした.解析では,ロジスティック回帰分析を用いてQWLに影響する要因を抽出した.結果:解析対象施設は504施設,解析対象者は3,478名であった.解析の結果,介護者QWLとの関係において有意かつ最も高いオッズ比(OR)を示したのは人間関係(OR: 3.92, 95% CI: 3.09–4.97),次いで作業人数・配置(OR: 3.69, 95% CI: 2.56–5.32),コミュニケーション(OR: 3.42, 95% CI: 2.66–4.40),施設からのサポート(OR: 3.37, 95% CI: 2.69–4.23),労働時間・休み(OR: 3.20, 95% CI: 2.53–4.04),裁量(OR: 3.09, 95% CI: 2.46–3.88)と続いた.一方,給与はQWLと有意に関連したが,人間関係などに比べてオッズ比は低かった(OR: 2.81, 95% CI: 2.19–3.61).また,腰痛のない者ほど高いQWLが示された.考察と結論:介護者のQWLを向上させるには人間関係,さらには作業人数・配置,コミュニケーション,施設からのサポート,労働時間・休み,裁量に関する改善を優先的かつ重点的に実施すべきと考えられた.QWL向上のための改善策としては,介護者の不満理由から勘案して,上司・同僚との情報交換の促進,労働時間や休暇,メンタルヘルスを相談できる担当者の活用などが必要と思われた.給与はQWLを向上させる要因ではあるが,人間関係などに比べて関連性は低く,以前ほど重要ではなくなっていた.また,介護者の腰痛対策は,QWLの改善に貢献すると思われた.
著者
岩切 一幸 高橋 正也 外山 みどり 劉 欣欣 甲田 茂樹
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.130-142, 2016-07-20 (Released:2016-07-29)
参考文献数
24
被引用文献数
3 8

目的:本研究は,腰痛予防に有用な福祉用具を導入しても残る介護者の腰痛発生要因をアンケート調査により明らかにすることを目的とした.対象と方法:対象施設は,福祉用具を積極的に導入し,様々な安全衛生活動に取り組んでいる8つの高齢者介護施設とした.対象介護者は,それらの施設に勤務する介護者全員とした.調査票は,本調査用に作成した施設管理者記載の施設用アンケートと介護者記載の介護者用アンケートを用いた.施設用アンケートでは,施設の基本情報と安全衛生活動について調査した.介護者用アンケートでは,介護者の基本情報,取り組んでいる安全衛生活動,移乗介助方法,入浴介助方法,腰痛の症状,職業性ストレスの程度を調査した.結果:施設用アンケートの配布数は8部,回答数は8部,回収率は100%であった.介護者用アンケートの配布数は404部,回答数は373部,回収率は92.3%,そのうち性別・年齢の記載のない者を除いた367名を解析対象者とした.介護施設では,種々の安全衛生活動に取り組んでおり,多くの介護者がそれらの活動に参加していた.また,施設ではリフトをはじめとした種々の福祉用具を導入し,多くの介護者が移乗介助や入浴介助において福祉用具を使用していた.過去の調査に比べると重度の腰痛者割合は少ないことが伺われたが,それでもなお,10.1%の介護者が仕事に支障をきたすほどの腰痛(重度の腰痛)をかかえていた.その原因を探るために,得られたデータをロジスティック回帰分析にて解析したところ,入居者ごとの介助方法を実施していない,同僚間にて介助方法に関する話し合いをしていない,福祉用具の使用を指導されていない,作業ローテーションを工夫していないことが,重度の腰痛との間で関連性が認められた.また,移乗介助および入浴介助において無理な作業姿勢をとっている,人力での入居者の持ち上げを行っている,移乗介助において作業時間に余裕がない,入浴介助において作業人数が不足していることも,重度の腰痛との間で関連性が認められた.考察:今回,腰痛要因として抽出された安全衛生活動は,ほとんどの施設において介護者に指導されている内容であった.しかしながら,介護者によっては入居者ごとの介助方法を実施しなくなり,それにともなって同僚間での話し合いや福祉用具の使用,作業ローテーションの工夫がおろそかになり,適切な作業姿勢や動作が行われなくなることで,仕事に支障をきたすほどの重度な腰痛になっていたと示唆された.これらのことから,福祉用具を導入しても残る介護者の腰痛発生要因は,適切な介助方法が十分に徹底されなくなることと考えられた.それを防ぐためには,介護者の意識改善,介助方法を定期的に再確認する体制の構築,入居者一人一人の作業標準を介護者間で議論・検討した上で徹底させていくといったリスクアセスメントと労働安全衛生マネジメントシステムの実施が必要と思われた.
著者
劉 欣欣 池田 大樹 小山 冬樹 脇坂 佳子 高橋 正也
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.47-50, 2018-02-28 (Released:2018-02-28)
参考文献数
20

長時間労働は様々な心身不調と関連し,特に脳・心臓疾患の発症リスクを増大させることが知られている.国内では,過重労働(特に長時間労働)によって脳・心臓疾患を発症したとする労災認定件数,いわゆる過労死等の認定件数は年間250件から300件程度で推移し,明らかな減少傾向は認められていない1).長時間労働による心血管系負担の軽減策を検討・提案することは,労働者の健康維持,さらには過労死の予防に極めて重要である.本研究では,長時間労働を模した実験室での被験者実験により,血圧を維持するための心臓と血管系の反応(背景血行動態反応)について検討した.本稿では,その実験結果の一部である血行動態反応の個人差について紹介し,心血管系負担の軽減策を検討するための資料提供を目的とした.
著者
劉 欣欣 岩切 一幸 外山 みどり 小川 康恭
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.21-23, 2013 (Released:2013-05-14)
参考文献数
16

本稿では,業務に関連した心血管疾患の発症予防を目的として,先行研究や我々が実施してきた研究を紹介し,精神的な作業負担やストレスが血圧に及ぼす影響を検討する際には,血圧に加えて,その決定要因である心拍出量及び総末梢血管抵抗の視点からも検討する必要があることを解説する.