著者
北條 理恵子 坂本 龍雄 黒河 佳香 藤巻 秀和 小川 康恭
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.51-56, 2011 (Released:2011-09-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

室内空気中の化学汚染物質による健康障害と考えられる,シックハウス症候群(SHS)と化学物質過敏症(CS)の発症や増悪には「におい」が関与することが報告されている.しかしながら,今までに室内空気汚染物質の健康影響を「におい」自体からとらえた実験研究はほとんどない.今後,労働衛生の重要な課題として不快な「におい」発生の予防と対策が必要である.我々は,職場で問題となる揮発性有機化合物(VOCs)および真菌由来揮発性有機化合物(MVOCs)の「におい」に焦点をあて,「におい」そのものが引き起こす健康影響を実験動物により検討する嗅覚試験法の確立を計画している.本稿では,近年問題となっている室内空気汚染物質による健康影響について解説したのち,嗅覚試験系の確立のため,我々が開発した基盤的な試験法を紹介する.
著者
牧 祥 本間 善之 土屋 英俊 田中 一成 青木 滋 武岡 元 三木 猛生 大島 博 山本 雅文 森本 泰夫 小川 康恭 向井 千秋
出版者
バイオメディカル・ファジィ・システム学会
雑誌
バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌 (ISSN:13451537)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.7-18, 2013-06-28 (Released:2017-09-04)
参考文献数
16

地上の1/6の重力環境(1/6G)の気相中における浮遊粒子状物質(SPM)の挙動を調べるため、パラボリックフライトによる擬似弱重力環境下で模擬月砂粒子(シュミラント)を実際にチャンバー内で拡散させた。エルトリエータのカットオフ値が1/6Gでは√<6>倍に増加することを利用し、気相中の浮遊粒子状物質(SPM)の重力影響を検証した。その結果、気相中の弱重力環境下を浮遊するSPMの沈降速度がストークスの式を使って表せることを明らかにするとともに、浮遊時間が重力の逆数に比例することを示した。SPMの粒径別濃度変化を数値計算した結果、重力が低く、天井が高い屋内ほど粒子が長時間残留することが示唆された。これは月面上でダストが屋内に侵入した場合、その除染作業に多くの時間がかかることを意味している。浮遊時間が粒径により異なるため、ばく露の危険性も粒径で異なっていると考えられる。ばく露の危険性がSPMの浮遊時間の長さにのみ依存すると考えるのであれば、粒径1.0μm以下の微細粒子や10μm以上の大形粒子には、重力差の影響を考慮した対策は必要ない。一方、粒径2.5〜10μmの粒子は、地上では浮遊時間が比較的短いが、月面上ではやや長時間浮遊する。この範囲の大きさのSPMに対しては、安全基準を厳格化などの新たな対策が必要であると考える。
著者
翁 祖銓 小川 康恭
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.79-82, 2010 (Released:2010-04-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

コメットアッセイは真核細胞におけるDNAの一本鎖或は二本鎖の切断量を測る上で感度がよく,定量性があり,そのうえ簡便,迅速,安価な方法である.今やこの方法は,産業化学物質や環境汚染物質の遺伝毒性評価,ヒト集団における遺伝毒性影響のバイオモニタリング,分子疫学研究,さらにはDNA損傷と修復の基礎研究などの領域で広く応用されている.本文ではコメットアッセイの基本原理,実験プロトコール,解析方法,利点及び欠点などを述べると共に,コメットアッセイ応用の現状を手短に紹介する.
著者
毛利 一平 小川 康恭 甲田 茂樹 熊谷 信二
出版者
独立行政法人労働安全衛生総合研究所(産業医学総合研究所)
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

1.清掃作業者を対象としたコホートの構築全日本自治団体労働組合の協力を得、全国の清掃労働者に対してコホート調査への参加協力を呼びかけた。コホート構築に必要な個人情報の収集(ベースライン調査)に、ごみ焼却炉での経験を有する者(曝露群)2,866名、ごみ収集作業者(非曝露群)6,239名の協力を得た。発がんリスクについては早期の評価を目指し、退職者を対象としたコホートの構築を試みたが、個人情報保護にかかわる社会環境の変化もあり、実現は困難であった。2.ごみ焼却作業におけるダイオキシン類へのばく露の評価全コホートを対象に、個々のダイオキシン類への曝露を、血液試料の分析により客観的に評価することは困難である。このため、作業内容や従事期間などの代理指標による曝露評価が必要であった。ベースライン調査において、清掃職場での職歴と飛灰に接触する頻度を、自記式調査票によって記録した。また、58人のごみ焼却炉作業員を対象に代理指標による曝露評価と血中ダイオキシン類濃度の相関を検討したところ、曝露期間(飛灰に曝露する作業に従事した期間の総和)と血中HpCDF濃度(PCDD/DFの異性体の一つ)に相関が認められた。3.がん死亡リスクの評価研究期間内に構築したコホートはすべて現役の労働者であり、労働に伴うがん死亡リスクを評価するには、今後さらに10年以上の追跡期間が必要である。4.児の性比への影響生殖障害の指標として、児の性比を検討した。複数の曝露代理指標を用いて解析した結果、統計学的に有意ではなかったが曝露期間が長いほど女児の比率が多くなる傾向を認めた。この傾向は、母親の出産経験、出生時における父親の年齢、出生年を調整しても変わらなかった。ただし、最も曝露期間が短い群で非曝露群よりも男児が多い結果となり、飛灰曝露と子供の性比に関連があるとするには根拠が弱く、現段階で明確な結論は得られなかった。
著者
劉 欣欣 岩切 一幸 外山 みどり 小川 康恭
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.21-23, 2013 (Released:2013-05-14)
参考文献数
16

本稿では,業務に関連した心血管疾患の発症予防を目的として,先行研究や我々が実施してきた研究を紹介し,精神的な作業負担やストレスが血圧に及ぼす影響を検討する際には,血圧に加えて,その決定要因である心拍出量及び総末梢血管抵抗の視点からも検討する必要があることを解説する.
著者
小川 康恭 圓藤 陽子 及川 伸二
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年より「化学物質の神経細胞毒性機構として、活性酸素が生成されアポトーシスもしくはプログラム細胞死を引き起こす」という仮説の基で研究を続けてきた。材料は、人間への影響をよりよく予測できるデータが得られることを期待して、株細胞ではなく初代培養細胞を用いることとした。平成7年度までに得られた成果は、(1)2,5-HexanedioneによりDNAの断片化が起こることを培養後恨神経節神経細胞により示したこと、(2)シスプラチンの場合、それだけではDNAに対する活性酵素の関与する毒性は発現しないこと等である。平成8年度においては(1)培養後恨神経節神経細胞に起こったDNAの断片化がアポトーシスそのものであること、(2)そのとき何らかの活性酸素種が発生していること、さらには(3)化学物質がアポトーシス進行過程のどの段階に作用しているのかを研究課題とした。平成8年度において以下の結果が得られた。(1)DNAラダー検出法を改善するために、神経細胞の収量を増大させ、鋭敏なDNA染色法の導入等を行ったとこと、ラダーの描出は可能となったが、依然として明確な像を得るには不十分な状態であるので更なる改善が必要である。(2)各種活性酸素消去剤により細胞死が抑制される結果が得られた。(3)DNAラダー検出系の感度及び安定性がまだ十分ではないためプロテアーゼが用いたアポトーシス進行過程での作用点解析はまだ進んでいない。このような結果に基づき、引き続きDNAラダー検出系の確立、発生している活性酸素種そのものの同定め、化学物質が働いているアポトーシスの進行段階の検討を進めている。