著者
加藤 喜久雄 福田 正己 藤野 和夫
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.131-139, 1982

永久凍土中に存在する様々の氷体の安定同位体特性を明らかにするために, アラスカのバローならびにカナダ北部, マツケンジーデルタ地帯にあるタクトヤクタークにおいてピンゴ, 集塊氷, 氷楔, ツンドラ構造土を形成する氷体から採取した氷試料について酸素同位体組成を測定し, その結果について氷体の形成過程と水の起源との関連について検討した.<BR>氷体はその形成過程と水の起源を反映した独自の安定同位体特性を示し, したがって, 氷体の安定同位体特性から逆にその形成過程や水の起源に関する情報がえられることが明らかになった.また, 同じ種類の氷体について安定同位体地域特性の存在が指摘され, 水の起源のみならず形成過程についても地域により異なる可能性が示された.<BR>研究例のない, 凍上の際の水の動きに伴う安定同位体分別に関して一つの考えを示し, この考えがえられた結果により裏つげられることを示した.<BR>永久凍土中に存在する様々の氷体について, これまでほとんど測定例のなかった, 安定同位体特性の解明を試みた.<BR>連続的永久凍土分布地域に属し, ツンドラ地帯にあるカナダ北部のタクトヤクタークとアラスカのバローにおいて, 1974年7月と1977年7, 8月にピンゴ, 集塊氷, 氷楔, ツンドラ構造土を形成する氷体から試料を採取した.採取した試料について酸素同位体組成 (δ<SUP>18</SUP>O) を測定し, 氷体の形成過程や水の起源などと関連づけて氷体の酸素同位体特性について検討した.<BR>永久凍土中のいくつかの形態の氷体については, 凍上現象により形成されると考えられている.ところが凍上に伴う水の動きと安定同位体の分別作用との関係に関する研究例はない.そこで, 今日までにえられている知識から考えられる凍上により形成されたときの氷体におけるδ<SUP>18</SUP>Oの変動パターンを示した.<BR>ピンゴの氷体は凍上により形成されたと考えられている.そこで, 前述のδ<SUP>18</SUP>O変動パターンをピンゴの氷体におけるその変動パターンと対比したところ, 巨大なイブークピンゴ以外のピンゴのものとは良く一致した.したがって, 凍上に伴う水の動きと同位体分別作用との関係に関する考え方の正当性が示されたといえる.巨大なイブークピンゴについては, かなり大きな水体の凍結が関与しているものと考えられる.<BR>やはり凍上による形成が有力視されている集塊氷については, 凍上によるδ<SUP>18</SUP>O変動パターンとは必ずしも一致しなかった.冬に割れ目が生じ, そこへの流入した水の凍結, この繰り返しによりできたと考えられている氷楔に関して, この考えを支持する多様なδ<SUP>18</SUP>O値の存在がタクトヤクタークにおいて確認された.ところが, 氷楔が境界部凹地の下にあると考えられているツンドラ構造土の氷体では, バローのものにはδ<SUP>18</SUP>O値の多様性は認められなかった.このことは, 同じ種類の氷体について安定同位体地域特性の存在を指摘するものであり, 水の起源のみならず形成過程についても地域により異なっている可能性を示している.<BR>個々の氷体は独自の安定同位体特性を有し, この同位体特性は氷体の水の起源と形成過程を強く反映しており, それゆえ氷体の同位体特性からその水の起源や形成過程に関する情報がえられることが, 本研究で示されたといえる.
著者
小林 大二 加藤 喜久雄 油川 英明 兒玉 裕二 石川 信敬
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

融雪期の洪水で、その流出量が予想外に大きく危険な洪水は、融雪出水に雨の流出が重なった場合である。融雪出水期は豪雪地帯では1ケ月前後の長期にわたる。出水期の中期から末期にかけては日々出水が重なり、川の水位の高い状態が継続する。又斜面では地中流出が続くため地盤がゆるんでくる。そこへわずか30-50mm程度でも雨が重なると、水位は異常に高くなり洪水となるとともに、崖くずれが続発して、大災害となる。しかるに積雪を通しての、雨及び融雪水の出水予測は、その流出機構の煩雑性のため研究例が少なく、未解明な問題として残されている。融雪出水に重なる雨による異常出水の流出機構の解明と流出予測を試みるのが、本研究の目的である。研究は石狩川支流の雨龍川源頭部の豪雪地帯で行った。毎年融雪出水期を通じて、洪水の危険を有した出水は3-4回ある。63年度は、晴天の継続による出水の異常重量が2回、晴天日に続く雨による異常出水が1回あった。この雨量はわずか30mm前後であったが、夏期のこの程度の雨による出水の4-5倍以上の出水となった。夏の大雨の出水に比べると、積雪のため流出のピークが3時間程度遅くなっている。積雪1mにつきピークの遅れは2-4時間増すことが新たに設置された大ライシメーター(3.6×3.6m)及び堰によって確認された。河川水の比電導及び化学成分の分析結果によると、地中流出が約8割、表層流出が約2割となった。融雪出水が地すべり発生の要因となることが確かめられた。δ0の分析によって、河川水と融雪水のそれのわずかではあるが有意な差が認められた。積雪下の川の水温は融雪期を通じて3-4℃と高いが、この水温は、1.5の深の地温に相当する。融雪出水の主成分である地中流出水の流出経路の深さの概略がうかがえよう。
著者
加藤 喜久 大鐘 武雄 小川 恭孝 伊藤 精彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B-II, 通信II-無線通信・無線応用 (ISSN:09151885)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.1-9, 1998-01-25
被引用文献数
19

低アンテナ高基地局, すなわち各アンテナ素子に生じるフェージングがそれぞれ無相関となる場合について, アダプティブアレーによる干渉除去特性を検討した。本論文では特にアンテナ本数, 干渉波数が多い場合について着目し, SINR特性, BER特性の評価を行った。SINR特性の検討により, 平均SNRが大きい場合には, ダイバーシチ利得がほとんど得られないのに対して, 平均SNRが小さい場合には, ダイバーシチ利得が大きくなることが明らかになった。BER特性においては, アンテナ本数が7本程度までは, ほぼアンテナ本数増加による利得のみとなった。しかし, 10本以上になると若干ながら余剰自由度によりダイバーシチ利得が得られることがわかった。フェージング変動(上り回線, 下り回線)による影響の検討では, 上り回線において, RLS法, SMI補間法では規格化ドップラー周波数が1×10<-4>以下では劣化が少なくほぼ追従できているという結果が得られた。下り回線においては, SMI1次外挿法, RLS1次外挿法, 双方とも規格化ドップラー周波数が1×10<-4>以下ではフロア誤りが1×10<-2>以下となり, ある程度適用可能であることがわかった。