著者
芳賀 和樹 加藤 衛拡
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.14-26, 2012-03-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
33
被引用文献数
1

従来の研究では,近世の藩営林経営と近代の国有林経営の関連性が考察されることはなかった。本論文では,秋田を例にして,近世における藩営林の管理・経営システムの到達点と,その近代への継承について考察した。秋田藩は,19世紀初めに抜本的な林政改革を開始し,領内の林政を統一して,輪伐を基本とする高度な森林経営技術を確立していった。近代に入り,基本的には近世の藩営林を引き継いで秋田県域の官林が成立する。官林は当初秋田県が所管し,明治11年からは政府が直轄した。しかし,19世紀に確立された森林の管理・経営システムは,官林を経営する実務に長けた人材や,藩営林を管理・利用してきた山元の村々に蓄積されており,詳細な森林資源調査と計画的利用法が常に志向された。
著者
福島 康記 菊間 満 有永 明人 加藤 衛拡 赤羽 武 永田 信
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

林野所有権の特徴は、耕地のそれのロ-マ法的な単一絶対的性格に対して、過渡的性格を広く残しているところにある。地租改正・林野官民有区分とその後の林野政策において大面積の入会地の国公有化を図り、そのことが、各地に複雑な過渡的所有を生んでいったのである。国有林野においても、様々な地元利用の制度化にみられるように、部分的な利用権を認めたうえではじめて成立する所有権でしかなかった。山梨県有林もその例であり、入会団体の保護義務の代償に産物・土地売り払い代金と土地利用代金の一部交付など、現代に至るまで地元関係を存続させている。最近の共有地の観光開発に関して、開発の形態や利益の地元保留など所有形態が一定の影響を与えている。現代経済体制は資本がすべてに優越し、林野的土地問題は一国の資源・土地問題の一環に組み込まれているのだが、林業内部の矛盾は林野的所有の資本に対する優位として現れ、小規模所有者にあっては林業放棄を、大規模所有者にあっては伐採規模縮小と伐採の間断化をもたらしたが、そのことが素析生産に重くのしかかり、業者数の著しい減少が見られる。農家の林業について、農山村畑作地帯の複合経営農家において、間伐期を迎えて間伐木の自家生産が収益を生むようになり林業への積極性が生まれ、林業が農林家の再生産の安定的契機になろうとしている地域がある。諸外国においても、環境保護対策やレクリエ-ション需要の高まりに対応するため、森林所有権に対する制限が課せられる趨勢にある。アメリカ合衆国のいくつかの州において林業施業に対する制限が強化され、ドイツにおいて連邦森林法が制定されて、森林を国民休養の場として利用する休養林と入林権の規定が設けられた。