著者
勝山 清次
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.97, no.6, pp.813-848, 2014-11

一一世紀前半以降、神社による怪異の訴えと朝廷でのト占(軒廊御卜) の実施が急増する。本稿はその要因と歴史的な意義を究明したものである。軒廊御トが増えはじめる一一世紀前半、貴族の間でその時代を乱れた末世とみる末代観が深まるにつれ、彼らは将来の災厄をもたらす神の崇りの予兆である神社の怪異に敏感に反応するようになり、神社側が自己主張を強化したことと相挨って、卜占の盛行をもたらすにいたった。卜占が盛んに行われるようになると、貴族たちは崇りをもたらす神事の違犯に鋭敏になり、穢れを避けようとして忌避を強化する。それは日常的に神事に関わっていた天皇周辺から始まり、次第に範囲を広げていった。一一世紀後半以降、天皇の名で行われる恩赦において、しばしば神社の訴えに触れるものを対象から除外する措置がとられるが、これも神慮に背く行為を慎み、神事不信による神の崇りを避けようとする点で、穢れ忌避の強化と同根である。神社における怪異はまた、神の崇りが現れる前に、それを人間に知らせ手立てをこうじさせる予兆の意味をもっていた。神はあらかじめ予兆することによって、崇りを避けるための対応を求め、そうした人間の行為に応えようとしているのであり、ここに中世的な「応える神」が明確な形をとって現れているとみることができる。一一世紀前半から中葉にかけては、こうした神が性格変化をとげる画期でもあったのである。
著者
勝山 清次
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.p169-211, 1987-03

本稿では、これまで「国司苛政上訴闘争」に対する朝廷の政策的対応の観点から把握されてきた公田官物率法の成立について、その前提の究明を試み、十一世紀前半には、それまで臨時雑役に包摂されていた諸賦課が順次田率賦課に移行し、官物体系改変の条件が整うとともに、諸国においては自然・地理的条件に規定されて、産業構造の地域的特化が進み、独自の官物率法が制定される前提が形成されていたことを明らかにした。また公田官物率法成立にともなう官物体系改変の歴史的意義についても、これまでの諸見解を踏えて、(1)受領による官物の賦課率の恣意的な変動を制約したこと、(2)官物が一個の独立した税目となり、中世的な年貢制を準備したこと、(3)中央への主要な貢納物が一律的に官物によって賄われる体制が成立したことなどに集約できるとした。
著者
勝山 清次 鎌田 元一 藤井 譲治 吉川 真司 早島 大祐 野田 泰三
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、日本中世の聖俗両面において大きな役割を果たした南都寺院の構造、生態を解明すべく、その内部集団のうち、堂衆と院家に着目し、彼らの残した古文書・古記録を調査・研究するとともに、あわせてその史料的性格に関する基礎研究を行うことにある。平成15年度以降、東大寺法華堂・中門堂両堂衆の残した史料である東大寺宝珠院文書(800点余)、並びに興福寺を代表する院家である一乗院の坊官二条家が伝えた一乗院文書(2000点余、ともに京都大学総合博物館所蔵)の史料調査を実施した。質量ともに希有の史料群でありながら、これまで本格的な調査の行われていなかった宝珠院文書については、全点の原本調査と調書作成を終え、目録作成と平安・鎌倉時代分の文書翻刻を完了した。一乗院文書についても同じく原本調査を行い、2287点全部の目録作成を完了した。以上の調査完了に伴い、宝珠院文書・一乗院文書の読解を行い、科研報告書において計七編の関連論文を収録した。