著者
植田 広樹 田中 秀治 田久 浩志 匂坂 量 白川 透 後藤 奏 島崎 修次
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.578-585, 2016-08-31 (Released:2016-08-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1

背景:病院外心停止傷病者に対するアドレナリンの投与の有効性については臨床的なエビデンスが不十分である。目的:救急救命士が心停止プロトコールに沿って実施したアドレナリン投与が社会復帰率に及ぼす影響について検討すること。方法:全国ウツタインデータ(2006〜2012年)から300,821症例を対象とし,アドレナリン投与群(n=40,970)と非投与群(n=259,851)に分類して効果を解析した。結果:アドレナリン投与による心拍再開率は非投与群の7.9%に対して投与群が22.5%と良好なものの,社会復帰率は非投与群の3.2%に対して投与群が1.9%と低値を示した。しかし,接触から7.9分以内に限定した早期投与群を検討すると,アドレナリンを投与された傷病者の社会復帰率は4.2%と,それ以降に比べ高かった〔OR=4.23(3.44-5.20)〕。考察:今後は,救急救命士が傷病者への接触から7.9分以内にアドレナリンを投与できるように何らかの工夫を講じ,傷病者接触から薬剤投与までの時間を短縮することが必要と言える。結語:病院外心停止症例においてアドレナリンは,早期に投与すれば社会復帰率を改善しうると考える。
著者
植田 広樹 田中 秀治 田中 翔大 匂坂 量 田久 浩志
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.46-51, 2018-02-28 (Released:2018-02-28)
参考文献数
15

背景:近年,早期に投与されたアドレナリンが脳機能予後を改善することが報告されている。しかし,119番通報から傷病者への接触までの時間(以下,Response time)と,傷病者へ接触してからアドレナリンを投与するまでの時間(以下,Adrenaline time)を関連付けた報告はない。目的:本研究の目的は,病院外心停止症例において救急救命士による早期アドレナリン投与がResponse timeに関係なく,脳機能予後の改善に影響を及ぼすか検討すること。方法:全国ウツタインデータ(2011〜2014年)を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。対象は年齢8歳から110歳までの目撃ありの心停止(心静止,VF,無脈性VT,PEA)でアドレナリンの適応であった症例のうち,119番通報から救急救命士が傷病者への接触まで16分以内,かつ傷病者へ接触してから22分以内(99%タイル以内)にアドレナリンを投与した13,326症例を抽出した。対象をResponse timeが8分以内の群(n=6,956)と8分以上16分以内の群(n=6,370)の2群に分類し,さらにそれぞれの群をAdrenaline timeが10 分以内の群と,10分以上の群の2群に階層化した。Primary outcomeを1カ月後脳機能予後良好率,Secondary outcomeを心拍再開率としてロジスティック解析を実施した。結果:Response timeの2群に対して,Adrenaline time の早さにより1カ月後脳機能予後良好率に影響を与えるかオッズ比で比較してみたところ,Response timeが8分以内の群は2.12(1.54〜2.92)であった。8分以上16分以内の群は2.66(1.97〜3.59)であった。一方,心拍再開率はResponse time が8分以内の群で2.00(1.79〜2.25),8分以上16分以内の群で2.00(1.79〜2.25)であった。Response timeが8分以内の群も8分以上16分以内の群も,Adrenaline timeが10分以内の群の方が10分以上の群と比較し1カ月後脳機能予後良好率,心拍再開率ともに有意に高かった。考察:病院外心停止症例においてアドレナリンは,Response timeが8分以上かかったとしても,16分以内であれば,救急救命士が傷病者へ接触後できる限り早期に投与すれば1カ月後脳機能予後良好率を改善し得ると考える。結語:今後,救急救命士は傷病者への接触から10分以内の早期にアドレナリンを投与するための工夫を行うとともに,地域のプロトコールを見直すなど,早期にアドレナリンを投与できるための努力が必要である。
著者
中村 秀明 匂坂 量 阪本 奈美子 刈間 理介 鈴木 宏昌
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.7-14, 2021-04-26 (Released:2021-05-10)
参考文献数
8

【目的】自動胸骨圧迫装置判断に影響する因子とその使用が静脈路確保(以下,PIVC)に及ぼす効果を明らかにする。【方法】2018年8月1日から2019年2月28日にBANDOメディカルコントロール協議会の4消防本部において記録された心肺停止傷病者に対するPIVC321症例を対象とした。【結果】実施者因子では,救急救命士の年齢が若く,拡大二行為認定経過年数が長いこと。傷病者因子では,年齢が若い,男性に自動胸骨圧迫装置が装着されやすい因子であった。自動胸骨圧迫装置群のPIVC成功率は有意に低く(44.6% vs 62.6%:p<0.05),静脈の性状とPIVC所要時間に関して有意差は見られなかった。キーワード:救急救命士,心肺停止,静脈路確保,静脈路確保成否因子,自動胸骨圧迫装置
著者
植田 広樹 田中 秀治 田久 浩志 匂坂 量 田中 翔大 中川 隆
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1, 2017-04-01 (Released:2017-04-08)
参考文献数
9

病院外心停止例へのアドレナリン投与タイミングは地域MCにより様々である。傷病者接触からアドレナリン投与までの時間(以下,アドレナリン投与までの時間)と社会復帰率の関係を地域別に明らかにするため,全国ウツタインデータからアドレナリンを投与された40,970症例を抽出し解析した。アドレナリン投与までの時間は最短県で平均9.5±5.1分,最長県で平均19.8±7.5分と大きな差異をみた。アドレナリン投与までの時間と社会復帰率は負の相関を示し(y=-0.1592 x +5.6343;R2=0.184),早期投与ができている県ほど社会復帰率は高かった。今後,地域メディカルコントロール協議会は,自地域のウツタインデータを分析しアドレナリンを早期投与する方法を再検討する必要がある。
著者
中川 洸志 匂坂 量 齋藤 駿佑 都 城治 田久 浩志 田中 秀治
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.7-15, 2023-06-22 (Released:2023-07-26)
参考文献数
29

目的:傷病者および都道府県レベルでのアドレナリン投与時間と神経学的転帰の関連を検討すること。方法:ウツタインデータ2015-2019年において,病院前にてアドレナリン投与を受けた18歳以上のOHCAを対象とした。マルチレベルロジスティック回帰分析を行い,傷病者および都道府県レベルでのアドレナリン投与時間(1分増加単位)と神経学的転帰良好(CPC1-2)の関連を検討した。結果:Shockable群とNon-shockable群において,傷病者レベルおよび都道府県レベルのアドレナリン投与時間の遅延(1分増加単位)はCPC1-2に有意な負の関連を示した。結語:傷病者および都道府県レベルでのアドレナリン投与の遅延とCPC1-2の有意な負の関連を示した。
著者
植田 広樹 田中 秀治 田久 浩志 匂坂 量 曽根 悦子
出版者
国士舘大学体育学部附属体育研究所
雑誌
国士舘大学体育研究所報 = The annual reports of health physical education and sport science (ISSN:03892247)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.9-17, 2017-03-31

OBJECTIVE :Adrenaline is the only vasopressor that can be given in the event of out-of-hospital cardiac arrest (OHCA) according to the Japanese EMS protocol. However, there is little clinical evidence that adrenaline benefits long-term survival after OHCA. The aim of this study was to investigate the effects of early adrenaline administration by EMTs on favorable neurological outcomes among patients who experienced OHCA.METHODS :Potential subjects were a total of 822,250 patients who experienced OHCA between 2006 and 2012 and who were registered in a nationwide Japanese database. Subjects were 40,970 patients who received adrenaline prior to hospital arrival. The effects of the time from contact to the first administration of adrenaline (timing of the first administration of adrenaline, or TAA) on favorable neurological outcomes (a CPC score of 1-2) were evaluated as follows. Patients were divided into three groups based on the TAA (early group (n=18,890:TAA < 7.6 min, intermediate group (n=17,669) : TAA of 7.6 to 15.5 min, and late group (n=4,411):TAA > 15.5 min). Statistical analysis was performed using the crude odds ratio (OR) and 95% confidence interval (CI).RESULTS :Patients in the early group served as a reference. In comparison to the early group, the intermediate group had an OR for a favorable neurological outcome of 0.48 and a CI of 0.40-0.58, and the late group had an OR of 0.24 and a Cl of 0.19-0.29. The early group had significantly improved outcomes (CPC score of 1-2) compared to the late group.CONCLUSION :Adrenaline administered by EMTs significantly improved neurological outcomes in patients during the early stages of OHCA. An exhaustive review of the adrenaline administration protocol for EMTs is needed to increase the likelihood of favorable neurological outcomes in who experiencing OHCA.