著者
大見 美智人 林 泰弘 北園 芳人 小池 克明
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では電気探査とMT法とを併用して地下浅部・深部の比抵抗分布を明らかにし,それから3次元的な温度分布構造を推定するための手法について検討した。この目的のために九州中部の阿蘇山を研究対象に選んだ。本研究の成果は以下のようにまとめられる。1.ラドンの移動の数値シミュレーションとラドン原子数算定理論により,ラドン濃度の空間的分布から,幅・傾斜方位・傾斜角度に関する断層の形状を推定することが可能になった。また,熱水の通路となる断層上のラドン濃度は,火山性地震などに起因して大きな時間的変動を示すことが明らかとなった。2.衛星画像と数値地形モデルとの組み合わせにより,熱水流動に影響を及ぼす断裂系の分布形態(走向・傾斜,分布密度)が推定できるようになった。3.一般に坑井データは分布密度が低く,深度も限られており,直接データを補間しても温度分布の特徴が得られない。これを改善するためにニューラルネットワークと地球統計学とを組み合わせたところ,地表面から標高2kmの深度までの温度分布が3次元的に推定できるようになった。この分布モデルから断層の存在が温度分布に及ぼす影響や熱水の流動形態が把握できる。4.活断層のように最近動いた履歴のある断層であれば地表面近くで比抵抗が低下する。断層の深部での比抵抗は一様でなく,特に破砕度が大きいと推察される部分の比抵抗は低い。阿蘇山火口西側の断層の推定分布域では比抵抗の異方性が顕著で,TEモードとTMモードとでは分布傾向が大きく異なる。5.阿蘇山火口西側においてMT法によって推定された比抵抗と数値シミュレーションに基づく推定温度との関係を検討し,概ね温度が高いほど比抵抗が高くなるという傾向を明らかにした。また,同じ温度でも熱水の上昇域で比抵抗が低下する現象も見出された。
著者
橋本 晴行 善 功企 江崎 哲郎 戸田 圭一 高橋 和雄 北園 芳人
出版者
九州大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2003

03年7月19日から20日未明にかけて九州各地で,局地的な集中豪雨により,河川の氾濫や斜面崩壊,土石流が発生した。本調査研究は,被災地の現地踏査,住民・防災関係機関への聞き取り調査,資料収集などを実施し,以下のような成果を得た。1.7・19北部九州豪雨による災害-福岡都市水害福岡県太宰府市において,19日午前4時に最大時間雨量99mm,総雨量315mmに達する豪雨が発生したその結果,2級河川御笠川の上流に当たる同市三条地区などで土石流が発生するとともに,下流の福岡市博多駅周辺で御笠川が氾濫し,ビル地下階,地下鉄駅構内が浸水した。99年水害の再来となった当時の降雨量は,太宰府市で総雨量180mmであったため,今回の水害は99年水害を上回る規模であったと推測された。99年水害と異なった点は,御笠川上流の太宰市で,前回を大幅に上回る降雨量が発生したため土石流や崩壊が発生し,土砂が多く下流に流下・氾濫したことと,流量規模が大きく,前回越流のなかった中・上流においても広範囲に氾濫が発生したことである。2.7・20中南部九州豪雨による災害-水俣土石流災害熊本県水俣市で20日午前4時に最大時間雨量91mm,総雨量323mmの降雨を記録した。その結果,同市集川において上流右岸斜面が崩壊して土石流化し,下流の人家を襲った.集地区では,斜面中腹から地下水噴出が発生しその影響で崩壊を起こした。下流の扇状地では巨礫が多く堆積しており,土石流の本体部分は典型的な砂礫型士石流であったと推定された。97年に隣接の出水市で発生した土百流は泥流型土石流と考えられている。質的な面において両者は異なると推定された。現在,熊本県では土砂災害警戒雨量が参考値として扱われ避難勧告基準としては活用されていない。土砂災害情報を初動体制に活用する行政の体制づくりが不可欠である。