著者
北畠 尚子 津口 裕茂
出版者
Japan Meteorological Agency / Meteorological Research Institute
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.1-19, 2020 (Released:2020-10-16)
参考文献数
17

本研究では、2016年8月31日に日本海で974 hPaまで深まった低気圧について、JRA-55再解析データを用いて解析を行う。この低気圧は台風第10号(T1610、アジア名Lionrock)を吸収して発達したように見えた。この日本海の低気圧の深まりは、比較的弱い傾圧帯で生じ、上部対流圏の高渦位空気が傾斜した等温位面上を南東・下方へ移動してきたのに伴っていた。対流圏の中・下層の昇温も地上低気圧の深まりに寄与していた。低気圧の発達の最終段階には、上層トラフとT1610とのカップリングが生じた。T1610は、日本海の低気圧の発達初期にも、台風とその北の高気圧との間の南東風で下層湿潤空気を日本海へ輸送することで、低気圧発達に寄与した。日本海における潜熱解放は、その北東側の上層リッジを強化することでその後面のトラフとの間の渦度移流を強化することでも、日本海の低気圧の発達に寄与したと考えられる。
著者
北畠 尚子
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.97-114, 2008
被引用文献数
6

台風0423号(アジア名Tokage)は2004年10月に強い勢力で西日本に上陸し、東日本で温帯低気圧化した。この台風は進路左側を含む大雨と強風が特徴であった。この台風について気象庁領域客観解析(RANAL)を用いて診断を行った。台風が西日本に上陸した際には台風は上層ジェットストリークの入り口及びトラフ下流に位置していたが、トラフは比較的弱いもので、温低化後に再発達がなかったことに整合的であった。台風の強い下層低気圧性循環が西日本に以前から停滞していた下層前線を強化し、最終的に台風はその傾圧帯で前線性低気圧に変わった。台風が上部対流圏ジェット気流に接近したことによる条件付対称不安定と、前線帯の寒気側かつ日本海南部の比較的暖かい海面上の下層条件付不安定が、台風の進路左側である西日本日本海側の降水に寄与したと考えられる。台風の中緯度での勢力や構造に対する大気海洋相互作用の影響についてさらに研究する必要がある。
著者
北畠 尚子
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.59-73, 2002 (Released:2006-06-13)
参考文献数
16

北西太平洋の台風には気象庁 (1990) がSH型としている特異な性質を持つものがある。この一例として、盛夏期に東シナ海で不規則な動きをした台風0006号 (アジア名Bolaven) の解析を行った。この台風はtyphoonの強度には達しなかったもので、背の高い対流雲を南側のみに持ち、北側は中上層に乾燥した空気を伴っていた。そしてこの乾燥空気側の方が湿潤空気側よりも高温のため、この台風は中層で傾圧性を持っていた。しかし地上では典型的な台風に類似した風分布を持っていた。 台風0006号の構造と環境の関連について、気象庁の客観解析データを用いて解析を行った。ライフサイクルの前半には、台風は強いチベット高気圧の南東側に位置し、対流圏上層でチベット高気圧東縁の強い北風が台風の北側で収束し、また台風の南側では西向きの流れにより発散が生じていた。これはチベット高気圧と台風によるジオポテンシャル高度場の曲率と、それに伴う慣性安定度の地域分布によると思われる。また対流圏中層では、大陸上の高温空気により、北西太平洋上空では東西方向の温度傾度が生じていて、それと台風の循環により温度移流が生じていた。これらにより鉛直運動の非対称分布が生じ、また台風の移動も不規則になったと考えられる。 その後、対流圏上層の大規模場は大きく変化したが、台風は中層では南北が逆転した傾圧性擾乱の構造を維持していた。このことは、特定の環境下で組織化した非対称な台風の構造が、中層におけるtiltingによる前線強化によりある程度は維持されうることを示唆している。
著者
北畠 尚子 三井 清
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.827-840, 1998-11-30
被引用文献数
3

1995年11月7日から8日にかけて日本海で急発達した低気圧について, 総観〜メソαスケールの前線の構造を中心に解析を行った.日本付近にはもともと南北2組のジェット・前線系があり, 低気圧は北側のジェット・前線系に発生したもので, 最盛期には南の前線系の雲とともに1つの閉塞した低気圧の雲パターンになったinstant occlusionであった.実際には, 地上低気圧に伴う(北の系の)下層前線は最盛期にもかなりの温度傾度を持ち, 閉塞はしておらずfrontal fractureもなかった.閉塞前線の雲のように見えたのは実は上空の寒冷前線(UCF)の雲で, 南の系の前線の遷移層から北上・上昇した高θ_e空気と, dry intrusionとによって生じたものである.この新たな高θ_e気流とそれに伴う雲の発達が, 低気圧・前線系全体の発達に寄与したことが考えられる.
著者
北畠 尚子
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.357-370, 2000-05-31
被引用文献数
2

日本付近の低気圧の, 特に閉塞期の構造を検討するため, 1994年4月12日から13日にかけて日本海で急発達した、低気圧の解析を行った.この低気圧は, 最初に大陸上で発生したときは前線に対して寒気側に位置していた.急発達期の初めには低気圧は前線上に位置し, Shapiro and Keyser(1990)の提案した概念モデルのfrontal fracture・Tボーン構造を持っていた.さらに最盛期には低気圧は再び寒気内に進み, 古典的温暖型閉塞の構造になった.このように1つのシステムのライフサイクルの間に2つの低気圧モデルの構造が現れたのは, 圏界面ジェット気流の変化と, それに伴う鉛直循環によるdry intrusionの寄与が考えられる.さらに, 低気圧の急発達は, 下層の前線に着目した既存の低気圧モデルの段階とは必ずしも一致しなかった.これも圏界面擾乱の発達に伴う対流圏上層の暖気移流に関連していると考えられる.