著者
花田 伸英 冨田 友幸 阿部 直 片桐 真人 矢那瀬 信雄 山下 えり子 塩谷 茂 吉村 博邦 笠井 潔 亀谷 徹
出版者
社団法人 日本呼吸器学会
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.231-234, 1993

Human T-lymphotropic virus type I (HTLV-I) 抗体価が高値を示し, 多発結節性陰影を呈したT細胞性リンパ腫の1例を経験した. 症例は42歳, 男性. 千葉県出身. 昭和63年6月に胆嚢摘出術後, 発熱が持続したため当院受診, HTLV-I抗体価の高値を指摘された. 約8ヵ月後, 胸部X線上多発結節性陰影が出現, 開胸肺生検にてT細胞性リンパ腫と診断された. 文献を検索し得た限りでは肺原発のT細胞性リンパ腫において, 多発結節性陰影を呈した報告例は1例のみであった. また本症例の肺病変はHTLV-I感染との間に関連性があり, Adult T-cell lymphoma の初発の病変と考えられたので報告する.
著者
森田 敬知 高山 俊政 井上 隼人 吉村 博邦
出版者
北里大学
雑誌
北里医学 (ISSN:03855449)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.268-279, 1998-06-30

肺・縦隔悪性腫瘍の上大静脈浸潤に際して,腫瘍の根治的切除が可能と判断される場合,上大静脈の合併切除が行われることがある。この時,広範囲の浸潤例では上大静脈の完全遮断が必要となる。本研究は,上大静脈の完全遮断の安全性および許容限界を明らかにする目的で,ピーグル犬を用いて,45分間の上大静脈のみの単純遮断を行ったもの(A群),上大静脈と奇静脈の両者を遮断したもの(B群),さらに,3時間の上大静脈と奇静脈の両者を遮断したもの(C群)に分け,それぞれ上大静脈圧,頭蓋内圧,下大静脈圧,大腿動脈圧,肺動脈圧,肺動脈楔入圧,心拍出量,血液ガス分析(体動脈血・肺動脈血)を測定しその変動を観察するとともに,遮断解除後に開頭のうえ脳を摘出し組織学的検討を行った。上大静脈圧および頭蓋内圧は,A,B群とも,遮断とともに有意に上昇し,遮断経過中,B群が有意に高値を示した。また,両圧は,いずれの群においても速断後の時間の経過と共に漸減傾向を示したが,A群での漸減傾向がより大きく,一方,B群では低下の傾向は少なく高値を持続した。他の循環動態の指標では,心拍出量,肺動脈圧,肺動脈楔入圧,および中心静脈圧(いずれも平均値)は遮断とともに有意に低下し,A群に比べB群での変動がより大きい傾向を示した。心拍数は,A群では徐脈傾向が,B群では頻脈傾向がみられた。体動脈圧(血圧)の変動は少なかった。体動脈血および肺動脈血の酸素分圧は,A,B群とも遮断後有意に低下し,B群での低下がより大きかった。炭酸ガス分圧は,肺動脈血で上昇傾向が見られB群でより高い上昇傾向を示した。すなわち,血液ガス分析所見においてもB群でより大きな変動を示した。しかし,上記の変動は,遮断後解除とともにほぼ遮断前値に復しており,循環動態に関するかぎり,45分間の上大静脈ならびに奇上大静脈の速断は充分可能と考えられた。一方,上大静脈と奇静脈の両者を3時間にわたり遮断することを試みたC群では3頭中1頭で,遮断後110分で呼吸循環動態が悪化し死亡した。脳の病理組織学的検討では,A群の5頭中3頭で,また,B群の5頭中4頭で,脳皮質を中心に広範な出血が認められており,また,残りの3頭のいずれも血管周囲の鬱血が認められた。また,C群中の死亡した1頭では,海馬におよぶ出血が認められた。以上より,循環動態より見るかぎり45分間の上大静脈および奇静脈の遮断は可能と判断されるが,本処置により器質的脳障害が発生する可能性が強く示唆され,ことに長時間の上大静脈および奇静脈の遮断は危険と判断された。