著者
吉村 洋輔 大坂 裕 伊藤 智崇
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.441-445, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
10

〔目的〕ノルディック・ウォーキング(NW)とT字杖での歩行が歩容や姿勢に及ぼす影響を明らかにする事を目的とした.〔対象と方法〕対象は,NWの経験がない健常若年成人20名とした.NW,T字杖での歩行,杖なしでの歩行の3つの条件での歩行をトレッドミル上で実施した.歩行の速度は快適歩行速度とした.モーションキャプチャシステムを使用し,身体各部の角度(頸部・体幹・股関節・膝関節)を算出し比較を行った.〔結果〕通常歩行に比べ,T字杖歩行で歩行中の頸部最大屈曲が有意に大きな値となった.また,NWでは歩行中の膝最大屈曲が有意に小さい値となった.〔結語〕頸部疾患や膝関節疾患を有する症例に対して,力学的負荷を軽減したいような場合にはNWの方が有効となる可能性を示唆する結果となった.
著者
岡田 有司 吉村 洋輔 田中 繁治 上杉 敦実 椿原 彰夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101264, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】脳卒中患者が歩行を獲得することは介護者の介助量軽減のみだけでなく,発症後の生命予後に関与しているとされる.しかし,歩行獲得に関与する因子として,年齢や運動麻痺,体幹機能,バランス能力,高次脳機能障害,認知機能面など多くの因子が影響するとされている.脳卒中の歩行予後予測には二木の分類,FIM,機能障害の総合的評価指標であるSIASなどが使用されている.しかし,これらの研究においては,mRS やFIM・BI,屋内歩行・屋外歩行・車椅子生活・全介助などの予後予測にとどまり,各身体機能面や認知機能面が歩行獲得にどのように関与しているかは不明である.かつ,多くの研究は発症後間もない急性期ではなく,回復期での検討である.そこで本研究の目的は,急性期理学療法開始1週間後の機能障害,認知機能面からどのような因子が歩行獲得に影響しているのかを後方視的に検討した.【方法】対象は平成21年5月1日から平成24年8月31日までに脳卒中を発症して当院回復期病棟へ入院した181名とした.さらに,SAH・小脳・延髄・多発性・両側性病変,病前mRS3以上,評価日までに自立歩行を獲得した症例,評価不可の症例を除いた80名(平均年齢67.7±11.9歳,男性50名)を対象とした.調査項目は回復期病棟退院時の歩行能力,年齢,性別,急性期理学療法開始1週間後の項目(意識障害の有無,SIAS-Motor合計点,SIAS-Trunk合計点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点,FIM認知項目合計点)とした.回復期病棟退院時の歩行能力は,運動療法室での歩行能力とし,歩行FIM4点以上を歩行獲得可能と定義した.歩行獲得可能は71名でありA群とし,不可は9名でありB群とした.平均年齢はA群67.2±11.8歳,B群71.7±13.0歳,性別はA群男性46名,B群男性4名,意識障害の有無はA群で無し53名,B群で無し2名,SIAS-MはA群6.5±5.0点,B群1.3±4.0点,SIAS-TrはA群3.4±1.5点,B群1.1±1.3点,SIAS非麻痺側膝伸展はA群2.3±1.0点,B群1.8±0.8点,FIM認知項目はA群22.5±10点,B群11±4.6点であった.統計解析には,まずA群とB群において,各調査項目の差を知るためにt検定,χ2検定を行った.次に,従属変数を回復期病棟退院時の歩行能力とし,独立変数を年齢,意識障害の有無,SIAS-M,SIAS-Tr,FIM認知項目とし,変数増加法(尤度比)の二項ロジスティック回帰分析を行った.また,年齢,意識障害の有無においては,従属変数および独立変数のどちらにも関与する交絡因子として投入して行った.なお,有意水準は5%未満とした.すべての統計解析のために,PASW Statistics 18.0(SPSS社製)を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は倫理審査での承認を得ており,個人情報の管理に注意した.【結果】統計解析の結果,2群間の比較では意識障害の有無,SIAS-M,SIAS-Tr,FIM認知項目に有意差が認められた.ロジスティック回帰分析では,歩行獲得に影響している変数として,SIAS-Trが選択された(モデルχ2検定でp<0.001).SIAS-Trのオッズ比は3.994(95%信頼区間1.533から10.406)であった.変数の有意性は,SIAS-Trがp<0.005であった.このモデルのHosmer‐Lemeshow検定結果は,p=0.819で適合していることが示され,判別的中率は91.3%であった.【考察】本研究の結果より,急性期理学療法開始1週間後のSIAS‐Trunk合計点が回復期病棟退院時の歩行獲得に影響していることがわかり,高い確率で予測することが可能と考えられた.先行研究からも歩行には体幹機能が重要であり,急性期座位保持能力が良い症例ほど歩行・ADL向上にむすびつくといわれているため,この結果はそれを支持する内容となった.つまり,両側性神経支配である体幹機能が保たれている症例ほど,歩行獲得にむすびつきやすいことがわかった.しかし,SIAS-Motor合計点やFIM認知項目合計点が変数として選択されなかった.重度運動麻痺の症例は装具を使用することで歩行獲得していた可能性があり,認知項目は歩行自立度に影響すると考えられるため,今回の研究のように歩行獲得のみを判断する場合では影響していなかったと考えられる.しかし,今回の研究では,理学療法の治療内容や量の検討,対象症例の退院時期が一致していないため,今後は統一した検討も必要である.【理学療法学研究としての意義】急性期理学療法評価から早期に歩行獲得に関与する因子を抽出することで,最適な理学療法プログラムを立案し,歩行獲得に向けた治療を行なうことができると考える.
著者
吉村 洋輔 石田 弘 小原 謙一 大坂 裕 伊藤 智崇 吉政 かおり 井上 かよ子 伊勢 眞樹 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0417, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 人間は歩行中,両側の腕を無意識のうちに振っているが,これは単なる振り子運動ではなく,歩行を円滑に行うために中枢神経系に組み込まれた機構の一つであると考えられている.しかし,実際の生活の中では荷物を持つ,ポケットに手を入れて歩くなど腕を振らないで歩いていることも少なくはない.さらに臨床場面に目を向けると,高齢者や障害者では杖をつく必要があったり,上肢の機能障害のために腕を振れない状態にある者も少なくはない.また,近年では,下肢の振りに合わせて対側ではなく同側の上肢を振った方が歩行速度の改善や歩行耐久性の向上につながることも報告され,いくつかの実証例も存在する.歩行時の上肢の腕振りの状態が歩行動作の歩行率やエネルギー消費にどう影響するかを検討した報告は少なく,特に下肢の筋活動についての比較は見当たらない.ここでは歩行中の腕振りの状態が下肢筋活動にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることにより,今後の歩行指導に役立てることを目的とした.【方法】 対象は研究の趣旨に同意を得られた健常成人8名(平均年齢22.5±0.5歳,平均体重52.7±1.7kg)であり,男女の内訳は男性4名,女性4名であった.各自の快適速度にて10m平地歩行をした際の歩行速度を算出し,その速度にて (1)腕の振りを固定しない自由な歩行(以下,自由歩行群),(2)上肢を同側の大腿部に固定し,腕の振りを制限した歩行(以下,固定歩行群)をそれぞれトレッドミル上にて30分間行った.その後,それぞれの条件下での歩行時の右大腿直筋(以下,RF),右大腿二頭筋(以下,BF),右前脛骨筋(以下,TA),右外側腓腹筋(以下,GL)の筋活動を表面筋電計(キッセイコムテック社製,Vital Recorder 2)にて計測し,付属のソフトであるBIMUTAS IIにて解析を行った.なお,両群での筋活動をフットスイッチからの信号により立脚相と遊脚相に分けてそれぞれを比較した.なお,筋疲労の蓄積を考慮し,自由歩行群と固定歩行群の計測には3日以上の間隔をあけて実施した.筋活動の比較は各筋の最大随意収縮値を100%として正規化し%MVCとして3歩行周期分の平均にて比較検討した.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS 17.0 J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用いて,Wilcoxon符号順位和検定を行い,危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に本研究の趣旨と目的を文書にて十分説明した上で協力を求め,同意書に署名を得た.【結果】 自由歩行群の30分トレッドミル歩行後のRF,BF,TA,GLの筋活動は,立脚相ではそれぞれ13.6±10.3(%),15.1±16.9(%),11.2±5.5(%),60.4±41.9(%)であり,遊脚相では12.4±14.0(%),18.4±14.3(%),22.7±6.8(%),15.4±9.0(%)であった.固定歩行群の30分歩行後のRF,BF,TA,GLの筋活動は,立脚相ではそれぞれ10.7±8.4(%),8.8±7.6(%),11.3±3.5(%),53.5±25.9(%)であり,遊脚相では6.1±4.2(%),12.0±5.2(%),20.7±6.8(%),18.2±21.6(%)であった.自由歩行群と固定歩行群の歩行後の各筋の筋活動の比較では,RFの立脚相では有意差を認めなかったが,遊脚相では有意差を認めた.BF,TAにおいては立脚相,遊脚相ともに有意差を認めなかったが,自由歩行群に比べ固定歩行群では筋活動が低値である傾向を認めた.GLでは両群間の立脚相においてその筋活動に有意差を認めた.【考察】 遊脚相におけるRFと立脚相におけるGLの筋活動は歩行周期の中で特にその働きが重要であるが,自由歩行群に比べ固定歩行群では,それらの筋活動において有意な低下を認めた.その他の筋の活動においても,固定歩行群では低値を示す傾向にあった.長い時間の歩行においては,上肢の振りを下肢の振りに合わせた方が下肢筋への負荷や疲労が少ないことを示唆する結果となった.なんば歩行と呼ばれる腕振りを同側下肢の振り出しに合わせた歩行様式ではエネルギー消費や酸素摂取量が変化することも報告されており,陸上競技などでのコーチング内容として紹介されることも多い.さらに,日常場面や臨床場面では上肢の動きが制限される場面もある.また理学療法治療場面では,下肢筋力や筋持久力が低下している患者も多いが,そのような患者がある程度以上連続して行える歩行能力の獲得には腕振りの状態を考慮する必要があるといえる.【理学療法学研究としての意義】 連続歩行の際に腕振りを制限することによる下肢機能への影響を下肢筋活動の観点から示すことができた.筋力低下や廃用症候群などにより歩行障害を呈する患者への歩行練習を指導する際の基礎的資料となり得ることから,理学療法学研究としての意義があるものと考えられる.