- 著者
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岡田 有司
吉村 洋輔
田中 繁治
上杉 敦実
椿原 彰夫
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.48101264, 2013 (Released:2013-06-20)
【はじめに、目的】脳卒中患者が歩行を獲得することは介護者の介助量軽減のみだけでなく,発症後の生命予後に関与しているとされる.しかし,歩行獲得に関与する因子として,年齢や運動麻痺,体幹機能,バランス能力,高次脳機能障害,認知機能面など多くの因子が影響するとされている.脳卒中の歩行予後予測には二木の分類,FIM,機能障害の総合的評価指標であるSIASなどが使用されている.しかし,これらの研究においては,mRS やFIM・BI,屋内歩行・屋外歩行・車椅子生活・全介助などの予後予測にとどまり,各身体機能面や認知機能面が歩行獲得にどのように関与しているかは不明である.かつ,多くの研究は発症後間もない急性期ではなく,回復期での検討である.そこで本研究の目的は,急性期理学療法開始1週間後の機能障害,認知機能面からどのような因子が歩行獲得に影響しているのかを後方視的に検討した.【方法】対象は平成21年5月1日から平成24年8月31日までに脳卒中を発症して当院回復期病棟へ入院した181名とした.さらに,SAH・小脳・延髄・多発性・両側性病変,病前mRS3以上,評価日までに自立歩行を獲得した症例,評価不可の症例を除いた80名(平均年齢67.7±11.9歳,男性50名)を対象とした.調査項目は回復期病棟退院時の歩行能力,年齢,性別,急性期理学療法開始1週間後の項目(意識障害の有無,SIAS-Motor合計点,SIAS-Trunk合計点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点,FIM認知項目合計点)とした.回復期病棟退院時の歩行能力は,運動療法室での歩行能力とし,歩行FIM4点以上を歩行獲得可能と定義した.歩行獲得可能は71名でありA群とし,不可は9名でありB群とした.平均年齢はA群67.2±11.8歳,B群71.7±13.0歳,性別はA群男性46名,B群男性4名,意識障害の有無はA群で無し53名,B群で無し2名,SIAS-MはA群6.5±5.0点,B群1.3±4.0点,SIAS-TrはA群3.4±1.5点,B群1.1±1.3点,SIAS非麻痺側膝伸展はA群2.3±1.0点,B群1.8±0.8点,FIM認知項目はA群22.5±10点,B群11±4.6点であった.統計解析には,まずA群とB群において,各調査項目の差を知るためにt検定,χ2検定を行った.次に,従属変数を回復期病棟退院時の歩行能力とし,独立変数を年齢,意識障害の有無,SIAS-M,SIAS-Tr,FIM認知項目とし,変数増加法(尤度比)の二項ロジスティック回帰分析を行った.また,年齢,意識障害の有無においては,従属変数および独立変数のどちらにも関与する交絡因子として投入して行った.なお,有意水準は5%未満とした.すべての統計解析のために,PASW Statistics 18.0(SPSS社製)を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は倫理審査での承認を得ており,個人情報の管理に注意した.【結果】統計解析の結果,2群間の比較では意識障害の有無,SIAS-M,SIAS-Tr,FIM認知項目に有意差が認められた.ロジスティック回帰分析では,歩行獲得に影響している変数として,SIAS-Trが選択された(モデルχ2検定でp<0.001).SIAS-Trのオッズ比は3.994(95%信頼区間1.533から10.406)であった.変数の有意性は,SIAS-Trがp<0.005であった.このモデルのHosmer‐Lemeshow検定結果は,p=0.819で適合していることが示され,判別的中率は91.3%であった.【考察】本研究の結果より,急性期理学療法開始1週間後のSIAS‐Trunk合計点が回復期病棟退院時の歩行獲得に影響していることがわかり,高い確率で予測することが可能と考えられた.先行研究からも歩行には体幹機能が重要であり,急性期座位保持能力が良い症例ほど歩行・ADL向上にむすびつくといわれているため,この結果はそれを支持する内容となった.つまり,両側性神経支配である体幹機能が保たれている症例ほど,歩行獲得にむすびつきやすいことがわかった.しかし,SIAS-Motor合計点やFIM認知項目合計点が変数として選択されなかった.重度運動麻痺の症例は装具を使用することで歩行獲得していた可能性があり,認知項目は歩行自立度に影響すると考えられるため,今回の研究のように歩行獲得のみを判断する場合では影響していなかったと考えられる.しかし,今回の研究では,理学療法の治療内容や量の検討,対象症例の退院時期が一致していないため,今後は統一した検討も必要である.【理学療法学研究としての意義】急性期理学療法評価から早期に歩行獲得に関与する因子を抽出することで,最適な理学療法プログラムを立案し,歩行獲得に向けた治療を行なうことができると考える.