著者
向井 孝志
巻号頁・発行日
2000-03

発光ダイオード(LED)は、発光効率、単色性、寿命、等に優れ、幅広く応用されている。しかしな がら、高い発光効率を有するLEDは赤色LEDのみであった。本研究ではGaN系材料を用いる ことにより、1)従来実現していなかった高発光効率の青色LEDの実現、2)高発光効率緑色LED の実現、3)GaN系LEDにおける発光波長の短波化と長波化、4)GaN系LEDの発光に関する機 構の解明、を目的とした。 ツーフローMOCVD装置を用いて、結晶性の優れたGaN単結晶膜を成長することに成功した。n 型GaN では、Si 及びGe を用いて広範囲にわたりキャリア濃度を制御できることを明らかにした。p 型GaNではMgをドーパントとして用い、高抵抗GaN:Mgを窒素雰囲気中で熱処理することで低抵 抗p型GaNが得られることを明らかにした。発光効率の高いLEDを作成するために、ダブルヘテ ロ構造を用いた。活性層としてInGaN:Zn+Siを用いることにより1mWを超える発光出力を有する 青色LEDを作成することに成功した。 InGaN:Zn+Siを活性層とするLEDの問題点を解決するために、InGaN単一量子井戸(SQW)を 活性層とすることで、1)発光出力アップ[1.5→5mW]、2)狭い発光スペクトル半値幅[70→20nm]、3)高 出力緑色LED[3mW]の実現、ができた。青色SQW・LEDでは、その発光スペクトルの短波長成分 が、InGaN:Zn+Siを活性層とするLEDより少ないためLEDの寿命が長くなることが判った。これは 結晶の劣化よりもエポキシ樹脂の光吸収による劣化の影響が大きいためであることが明らかになっ た。 サファイア基板上に成長したGaN系単結晶膜には高密度の貫通転位が存在している。それにも かかわらず高い発光効率のLEDが得られる理由について検討した。これについて、InGaN活性 層のlnモル分率の揺らぎにより形成されるInリッチ領域に注入キャリアが局在することで、転位が作る 非発光再結合中心にキャリアが捕獲されないためである、と結論付けた。 電流増加により発光スペクトルがブルーシフトする現象について検討した。その原因として1)ピエゾ電 界のスクリーニング、2)Inリッチ領域のバンドフィリング、を考え、Inリッチ領域のバンドフィリングによりブルーシフト していると結論付けた。一般的に周囲温度の上昇によりバンドギャップナローイングが生じ発光スペクトル がレッドシフトする。しかし、Inモル分率の高いInGaN・LEDでは発光波長の温度依存性が見られな い。この原因を検討し、Inモル分率の揺らぎによるlnリッチ領域がバンドテイルを形成し、そのバンドテイ ル部のキャリアが温度上昇により高エネルギー側へ分布を広げることによると結論付けた。 紫外LEDの検討を行い、発光波長371nm、外部量子効率7.5%の紫外LEDを開発した。紫外 LEDでは、1)その活性層のInモル分率が低いこと、2)GaN層による光の自己吸収、により波長が短 くなるにつれ発光効率が低くなることを明らかにした。 長波長LEDの検討では発光出力1.4mWのこはく色LEDを実現した。こはく色InGaN・LEDは AIInGaPのこはく色LEDと比べ、発光出力の周囲温度依存性が優れることを明らかにした。赤色 LEDについて検討し、InGaN層の相分離が起きている可能性があることを示した。 本研究の成果により、青色LED、緑色LED、こはく色LED、紫外LEDが実用化されるに至っ た。
著者
向井 孝志 中村 修二
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.152-155, 1999-02-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
12
被引用文献数
4

窒化インジウムガリウム系材料を用いた発光デバイスの進展により白色LEDおよび紫外LEDが最近開発,商品化された.白色LEDはInGaN青色LEDとYAG蛍光体を組み合わせて構成されている.紫外LEDは発光波長が370nmと短波長である.ここでは白色LEDと紫外LEDの構造や特性を述べ,今後の課題や可能性について議論する.
著者
向井 孝志
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.472-473, 2011
参考文献数
5

白色発光ダイオード(LED)はわが国で開発・実用化された発光デバイスで,現在では,液晶用のバックライトや,各種照明機器等に使用されている。白色LEDの主要な構成要素のひとつに青色LEDチップが挙げられる。窒化ガリウム系材料は安定な化学的性質を有する一方,結晶成長の様々な困難から,その応用製品である青色LEDの実用化には長い年月を要した。本稿では,結晶成長における様々な困難解決,白色LEDへの応用等について述べる。