著者
周 燕飛
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
pp.2019.001, (Released:2019-04-12)
参考文献数
28
被引用文献数
4

本研究は,母親による児童虐待の発生要因について,子育て世帯に対する大規模調査データを用いて分析を行った。その結果,児童虐待が発生する背景には,母親の病理的要因のみならず,経済環境と社会環境も影響していることが分かった。具体的には,母親が健康不良,うつ傾向,DV被害者といった病理的特徴を持つ場合や,貧困など経済状況の厳しい場合,周囲から十分な育児支援を得られない場合に,虐待確率が高い。 いずれの種別の児童虐待についても,健康不良,メンタルヘルスの問題,未成年期の虐待経験など,母親自身の病理的要因の影響が確認される。一方,経済環境と社会環境の影響は,虐待の種別により若干の違いが見られる。「身体的虐待」は,貧困家庭というよりも,多子家庭で生じやすい。「育児放棄」は,低出生体重児のいる家庭やひとり親家庭で発生する確率が比較的高い。
著者
周 燕飛
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.119-134, 2019-05-24 (Released:2019-06-05)
参考文献数
28
被引用文献数
3 4

本研究は,母親による児童虐待の発生要因について,子育て世帯に対する大規模調査データを用いて分析を行った。その結果,児童虐待が発生する背景には,母親の病理的要因のみならず,経済環境と社会環境も影響していることが分かった。具体的には,母親が健康不良,うつ傾向,DV被害者といった病理的特徴を持つ場合や,貧困など経済状況の厳しい場合,周囲から十分な育児支援を得られない場合に,虐待確率が高い。いずれの種別の児童虐待についても,健康不良,メンタルヘルスの問題,未成年期の虐待経験など,母親自身の病理的要因の影響が確認される。一方,経済環境と社会環境の影響は,虐待の種別により若干の違いが見られる。「身体的虐待」は,貧困家庭というよりも,多子家庭で生じやすい。「育児放棄」は,低出生体重児のいる家庭やひとり親家庭で発生する確率が比較的高い。
著者
周 燕飛
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.151-168, 2009
被引用文献数
2

本研究は,介護施設における介護職員不足が発生する要因として,これまであまり触れられてこなかった4つの仮説を検証した。具体的には,(1)介護施設が地域的に買手独占状態にある可能性(地域的買手独占仮説),(2)淘汰されるべき不採算事業所が市場に残存している可能性(不採算事業所残存仮説),(3)労働市場における求人増と市場賃金の上昇によるマクロ経済的ショックによる可能性(外部市場ショック仮説),及び(4)介護報酬の引き下げによる政策ショックの可能性(政策ショック仮説)である。<br> 分析の結果,「地域的買手独占仮説」,「外部市場ショック仮説」および「政策ショック仮説」が支持されたが,「不採算事業所残存仮説」は支持されないことが分かった。また,支持された上記3つの仮説は,とりわけ,正社員の介護職員不足に強い説明力を持つことがわかった。したがって,規制緩和による不完全労働市場の改善,労働需給がひっ迫する地域における介護報酬の加算,実験的方法による介護報酬の適正水準の算出などが,今後の介護職員不足の解消に有効な方策として提案できる。
著者
周 燕飛
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
no.2017, pp.1-24, 2017-08

最低賃金が長期にわたって相対的に低い水準に抑えられ、働く貧困層(ワーキングプア)が増加している中、基本生計費に相当する賃金額の支払を企業に促す、いわゆる「生活賃金」運動は、米英をはじめ一部の国や地域において1990年代以降に盛んに行われている。日本でも、労働組合や一部の研究者による生活賃金の試算が2000年代以降に行われている。しかし、日本では生活賃金運動は米英のように盛んではなく、生活賃金はまだ馴染みの薄い概念である。そこで、本稿は、日本の「ワーキングプア」の賃金水準の現状を紹介しつつ、米英の文献を中心に、生活賃金運動の背景、生活賃金の理論体系、生活賃金条例に対する企業の反応、生活賃金の推計方法について整理した。さらに、日本人における生活賃金のあるべき水準について、既存の推計値と比較しながら、独自の試算も行った。試算の結果、日本の標準世帯(夫婦と子ども2人の4人世帯)における生活賃金は、片働きの場合が2,380円(2015法定最低賃金の298%相当)であり、共働きの場合が1,360円(2015法定最低賃金の170%相当)となっている。男性、40代以上、大学・大学院卒の高学歴者、勤続年数20年以上の者、正社員、大企業の従業員、専門・技術的職業や管理的な仕事に従事している世帯主は、平均賃金が高く、生活賃金を得ている確率も高くなっている。