著者
Pramod Kumar Sur
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2021-03, pp.1-78, 2021-08

Why does the vaccination rate remain low, even in countries where long-established immunization programs exist, and vaccines are provided for free? We study this lower vaccination paradox in the context of India—which contributes to the largest pool of under-vaccinated children in the world and about one-third of all vaccine-preventable deaths globally. We explore the importance of historical events shaping current vaccination practices. Combining historical records with survey datasets, we examine the Indian government’s forced sterilization policy implemented in 1976-77 and find that greater exposure to forced sterilization has had a large negative effect on the current vaccination completion rate. We explore the mechanism for this practice and find that institutional delivery and antenatal care are low in states where policy exposure was high. Finally, we examine the consequence of lower vaccination, suggesting that child mortality is currently high in states with greater sterilization exposure. Together, the evidence suggests that government policies implemented in the past could have persistent impacts on adverse demand for healthseeking behavior, even if the burden is exceedingly high.
著者
チャールズ・ユウジ ホリオカ
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2017-12, pp.1-12, 2017-05

本稿では,家計の貯蓄行動を例として取り上げ,日本人は特殊であるか否かについて吟味する。より具体的には,(1)日本人は経済合理性に基づいて行動するか否か,(2)日本人の行動は国民性・社会規範などにも影響されるか否かについて検証する。日本人は貯蓄好きな国民であると良くいわれ,そういった国民性・社会規範はそう簡単には変わらないと考えた場合,日本の家計の貯蓄行動が主に国民性・社会規範によって決まっているのであれば,日本の家計貯蓄率は絶対的にも,他の国と比較しても,高い水準で安定しているはずである。しかし,日本のこれまでの家計貯蓄率の時間的推移をみてみると,日本の家計貯蓄率は非常に不安定であり,低いことが多く,またマイナスになることもあった。したがって,本稿の分析結果は,日本の家計貯蓄率の主な決定要因は国民性・社会規範ではないということを示唆する。加えて,日本の家計貯蓄率が過去において高かったこと,また近年減少していることの両方を様々な人口学的要因・経済社会的要因によって説明することができるという本稿の分析結果も,日本の家計の貯蓄行動が経済合理性に基づくものであり,必ずしも国民性・社会規範によって決まっているものではないということを示唆する。しかし,社会規範が家計貯蓄行動に限定的ではあるが影響を及ぼすという研究結果も報告されており,社会規範の重要性を完全に排除することはできない。
著者
新見 陽子
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.1-14, 2017-05

本稿は,2000 年に導入された介護保険制度の利用状況を踏まえたうえで,家族による高齢者介護の現状を把握し,高齢者介護が家族介護者にどのような影響をおよぼしうるのかを,関連のデータや先行研究の結果などを参考に検証する。日本では,従来高齢者介護は主に家族によって担われてきたが,核家族化やチャイルドレス高齢者世帯の増加,家族介護者の高齢化など,家族をめぐる状況にも変化が現れてきたことを反映し,それまで家庭内で担ってきた介護の負担を社会全体で支える仕組みとして介護保険制度が創設された。それ以後,介護サービスの利用は年々増加傾向にあり,介護保険制度の導入には一定の効果がみられるといえよう。しかし,現在でも,多くの要介護者の主な介護者は家族であり,家族が抱える介護の負担は決して軽いものではない。実際,高齢者介護が,介護を担う家族介護者の就業行動や健康状態,主観的幸福度など,様々な側面で負の影響をおよぼしていることが確認された。今後,団塊の世代が75 歳以上の後期高齢者となる2025 年を機に,介護ニーズが更に拡大することが予想されている。そのためにも,介護保険制度や介護休業制度などの課題を正確にとらえ,対処する必要があるといえよう。
著者
韓 成一 Sung-Il Han
雑誌
AGI working paper series
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.1-34, 2013-04

近年の東アジア諸国の飛躍的な経済発展と共に,東アジア域内の国際海上物流の世界市場に占める割合と重要性は益々高まってきた。かつて東アジア国際海上物流ハブの役割を果たしていた日本の主要港湾の国際コンテナ貨物取扱量は低迷を続けている。日本の港湾を発着地とする基幹航路は減少しており,最近は特に韓国の釜山港を外貿に利用している西日本の日本海側港湾も増加している。このような日本港湾の韓国フィーダー航路化が進んでいる中,本稿では北部九州と山口地方の外貿コンテナ物流における韓国港湾の利用度についてその動向を調査分析する。特に北九州港・博多港・下関港の3港湾を選定し,韓国港湾を外貿に利用する3港貨物の割合,積み替えコンテナ量,実入りコンテナ量などの動向を分析した。分析に用いたデータは,主に韓国関税庁の貿易統計照会システムTRASSを追跡して得られた最近13年間の日韓間外貿コンテナ貨物量である。なお,日韓両国の統計を用いるため,各々の港湾統計の整合性を確認した上,併用を試みている。分析の結果,3港の外貿コンテナ貨物の韓国港湾利用度は,下関港-博多港-北九州港の順に高いが,北九州港の韓国港湾利用度が急速に伸びている傾向を確認した。また,北九州港と博多港の輸出入別外貿コンテナ貨物の韓国港湾積み替えが増加している傾向と,空コンテナ量が多いことを観測した。本稿の分析結果は北部九州・山口地域の日韓国際海上コンテナ物流の現状分析と共に,今後の九州地域を中心とする国際海上コンテナ貨物量の推移を予測する際に参考になると期待している。
著者
岸本 千佳司
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2016-10, pp.1-73, 2016-05

本研究は、台湾のIC(半導体集積回路)産業の中でも特に設計業(ファブレス)に焦点をあて、その発展動向と基本的な競争戦略、および主要企業の盛衰とそれを左右する要因について分析する。先ず、台湾IC ファブレスの競争戦略の様々な構成要素、即ち、垂直分業・専業化と二番手戦略、およびそこから派生する(あるいは、それとセットになっている)台湾企業の強み・特徴(標準品志向、製品開発プロセスにおける顧客との密接な協調、トータル・ソリューション、選択と集中など)について踏み込んだ分析を行う。こうした競争戦略の各構成要素がどのように関わりどのような競争優位に繋がっているかを出来るだけ体系的に分かり易く示すために、楠木(2010)『ストーリーとしての競争戦略』が提唱する競争戦略ストーリーを描き出す手法を採用する。また、台湾の特徴を浮き上がらせるために、近年凋落していると言われる日本半導体企業の戦略(不全)ストーリーを提示し対比させる。分析の結果、台湾ファブレスの戦略ストーリーは、相対的に楠木の言う「筋の良いストーリー」のイメージに近く、他方、日本半導体企業のそれは、むしろ戦略不全に陥るストーリー展開の可能性が多く見られることを示す。次に、同じ台湾ファブレスでも企業ごとに戦略や成長性が異なっていることに鑑みて、台湾の主要ファブレス10 社の事例分析を行う。上述の台湾ファブレス主要企業一般を念頭に置いた戦略ストーリーでは捉えきれない企業ごとの違いにも注目し、その盛衰を左右する要因を分析する。その結果、その時代ごとの主流である応用製品市場を上手く捉えられたかどうか、コア技術を技術シナジーを活かしながら複数の応用分野に巧く展開できたかどうか、単なる「me too」ではなく製品技術・マーケティングで独自の優位性を持っていたかどうか、などが成功要因として指摘される。
著者
岸本 千佳司 Chikashi Kishimoto
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2015-13, pp.1-65, 2015-07

本研究の課題は、台湾ファウンドリ企業(主に TSMC、一部 UMC を念頭に置く) の技術能力、具体的には、1柔軟・高効率の生産システムの構築、および2プロセス(関 連)技術の開発について、筆者自身の面談記録や『公司年報』のような原資料を活用し、 その詳細に踏み込むことである。既存研究では、1990 年代以降、台湾ファウンドリ(特に TSMC)が先発企業との技術 ギャップを急速に埋めていったのは、半導体製造装置の大モジュール化・標準化が進ん だことを背景に、こうした歩留まりが高く加工時間が短い最先端装置を積極的に導入し たことによるところが多く、しかも、その資金的負担は台湾の投資優遇制度によりかな りの程度軽減されたということが指摘されている。本研究は、それを重要な要因と認めつつも、その後の台湾ファウンドリ(特に TSMC) の持続的発展については、技術能力構築の独自の取組みがあったことを明らかにする。 即ち、プラットフォーム戦略による多品種少量生産への対応、工場の自動化・ICT 管理 の活用、その前提の装置・ツール等の標準化推進、日常的な改善、経験・ノウハウの全 社的共有の仕組み、研究開発と量産部門の連携による迅速なプロセス量産立ち上げなど である。また、プロセス関連技術でも、先端ロジックの 1~3 年ごとの世代交代実現、 システム LSI 向けのロジック以外の特殊プロセス拡充、近年の後工程・実装分野への進 出と先端トランジスタ研究の実施などがある。しかもこれらの取組みが、専業ファウン ドリというビジネスモデルの要請に沿って、技術的潮流の変化を踏まえつつ高度化する 顧客ニーズを満たすために、全体最適化を考慮して進められてきたことを明らかにする。なお、技術能力の分析に際しては、藤本隆宏教授の「能力構築競争」の枠組みを参考 にしそれを簡略化した形で、「表層の優位性」(生産性・品質・コスト管理や技術開発力、 オペレーション能力のレベルの高さを反映すると思われる表面に表れた事象)と「優位 性の土台」(表層の優位性の背後でそれを支える活動や仕組み、それに影響する事業戦 略やビジネスモデル)の 2 層から整理した。
著者
岸本 千佳司 Chikashi Kishimoto
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2018-03, pp.1-52, 2018-05

本稿は、米国シリコンバレーのベンチャー企業やビジネスモデルおよびそれを支える各種アクターを、相互に関連し支え合う「エコシステム」として理解し、その体系的解説の提示を課題とする。そこで、ベンチャーエコシステムを「起業家とベンチャー企業」と「支援アクター」という大きく二つのセグメントの間の循環で構成されるものと想定する。「支援アクター」は、「大学と研究機関」「経営支援専門家(法律家、会計士、アクセラレータ等)」、「資金提供者(ベンチャーキャピタル等)」、「大企業」で構成されると考える。彼らは「起業家とベンチャー企業」に対し、各々の立場から各種支援やリソースの提供を行う。逆に、ベンチャー企業が成功した際は、それを支えてきたアクターに、色々な形での見返りを与える(キャピタルゲインの獲得、事業・技術の補完、人材獲得等)。この循環が回り続けることでエコシステム全体が存続していくのである。 本稿では、両セグメント、およびその中の各アクターの動向を、従来の状況に加え、近年(概ね2000年代以降)の新たな展開について可能な限り解説した。その内容を簡単に紹介すると以下のようになる。先ず、「起業家とベンチャー企業」セグメントについては、活発な起業文化と濃密な技術コミュニティの存在が、起業家の輩出、および起業家・経験者の蓄積を支えてきた。加えて、近年では、起業サポートインフラの整備が進み、かつシリコンバレー流のビジネス手法が確立した結果、起業が一層容易となり、特に若者の間で起業の「ポップカルチャー」化が進んだ。合わせて、ユニコーン企業が輩出している。「支援アクター」の「大学と研究機関」では、スタンフォード大学等からの豊富な人材と技術シーズの供給、産業界との連携に加え、近年は、起業家育成プログラムの充実がみられ、学生や教授らによる起業が強く奨励されている。 「経営支援専門家」については、従来からある、ベンチャー経営に精通した経営実務専門家(法律家、会計士等)からのサービスに加え、近年は、コワーキングスペースやアクセラレータのような起業家支援施設・育成プログラムが登場し、事業成長の加速と起業家コミュニティ形成の促進がなされている。「資金提供者」の分野では、従来、当地の半導体・エレクトロニクス産業の技術的・起業家的発展とシンクロする形でベンチャーキャピタル(VC)業界が発展してきた。近年は、新世代Web起業家登場に合わせるように、VC業界の再編(従来型VCの停滞と「スーパー・エンジェル」の発展)がみられた。同時にクラウドファンディングが生み出され、資金調達ルートが一層多様化した。「大企業」の存在もエコシステムにとって不可欠である。かつては、スピンオフ等を通じた起業家・経営人材の供給が主な役割であったが、近年は逆にM&Aによりベンチャー企業を活発に取り込んでいる(出口戦略としてのM&Aの重要性上昇)。また、コーポレート・ベンチャーキャピタルもブームとなり、M&Aやオープンイノベーションを支えている。 以上のように、エコシステムの各分野で新陳代謝や新たな仕組みが生み出され、層が厚くなり、全体として支援/リソース/見返りの流れが血液のごとく循環して、システムの生命を維持しているのである。
著者
Yoko Niimi Charles Yuji Horioka
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2018-08, pp.1-36, 2018-10

This paper analyzes the determinants of the wealth decumulation behavior of the retired elderly in Japan using unique information from two household surveys, and by so doing, attempts to assess the relative importance of precautionary saving and bequest motives in explaining the lower than expected rates of wealth decumulation of the retired elderly. Taken together, our analyses of these two datasets show that precautionary saving plays a relatively important role in explaining the lower than expected wealth decumulation rate of the retired elderly, at least in the case of Japan, even though both precautionary saving and bequest motives are important drivers behind this puzzle. Our results also suggest the possibility that financial burden of parental care may also affect the wealth decumulation behavior of the retired elderly in Japan. Given that parental care responsibilities tend to arise relatively late in life, often after retirement, in the case of Japan, our results suggest that the financial burden of parental care may be a relevant issue when analyzing the wealth decumulation behavior of the elderly.
著者
八田 達夫 Tatsuo Hatta
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.1-23, 2014-10

高度成長期以降,全国の中枢都市のほとんどが人口を伸ばした。しかし鉄道時代から航空時代に転換した時点で,ジェット機対応空港を持っていなかった北九州市の人口は,例外的に縮小した。それに対して,ジェット機対応空港を持つ福岡市は,中枢都市としての自然な発展を遂げた。 しかし福岡空港の混雑が限度に達している。滑走路1本当たりの発着数は,すでに日本一である。10年後に発着数を約30%増大する滑走路の増設工事が予定されているが,それ以上の増設は地形的に見込めない。 ところが博多駅から(小倉駅を経由して)25分で到着できるようになる北九州空港を活用することによって,福岡市は今後も伸び続けていける。一方,北九州市はこの空港の発展によって,支店都市としての機能を回復できる。 北九州空港を発展させる第一歩は,①空港・福岡市間を直結する高速バス定期便の設置と,②空港と北九州都市高速道路とを結ぶ国道10号の無信号バイパスの建設である。
著者
八田 達夫 Tatsuo Hatta
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014-13, pp.1-23, 2014-10

高度成長期以降,全国の中枢都市のほとんどが人口を伸ばした。しかし鉄道時代から航空時代に転換した時点で,ジェット機対応空港を持っていなかった北九州市の人口は,例外的に縮小した。それに対して,ジェット機対応空港を持つ福岡市は,中枢都市としての自然な発展を遂げた。 しかし福岡空港の混雑が限度に達している。滑走路1本当たりの発着数は,すでに日本一である。10年後に発着数を約30%増大する滑走路の増設工事が予定されているが,それ以上の増設は地形的に見込めない。 ところが博多駅から(小倉駅を経由して)25分で到着できるようになる北九州空港を活用することによって,福岡市は今後も伸び続けていける。一方,北九州市はこの空港の発展によって,支店都市としての機能を回復できる。 北九州空港を発展させる第一歩は,①空港・福岡市間を直結する高速バス定期便の設置と,②空港と北九州都市高速道路とを結ぶ国道10号の無信号バイパスの建設である。
著者
岸本 千佳司 Chikashi Kishimoto
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014-05, pp.1-62, 2014-03

本研究の目的は,半導体産業における分業化・専業化およびオープン化・標準化へというビジネストレンドの中で,台湾企業が如何に台頭したかを,日本企業の凋落と対比させながら解明することである。結論を簡単に言えば,「設計と製造の分業」および設計における「モジュール型手法」の普及のトレンドに,台湾企業は,後発組であり(当初は)技術力が限られていたために,かえってスムーズに適応できたと考えられる。無論単なる僥倖ではなく,こうしたトレンドの兆しを見極め,ファブレス(設計専門企業)とファウンドリ(ウェハプロセス受託製造企業)の垂直分業という新たなビジネスモデルの推進役を戦略的に担ったのであり,1つのイノベーションである。自身の弱みを自覚し,オープンネットワーク活用と関連アクターとの連携でそれを補い,これが産業の技術的潮流とマッチして,徐々に先発組の先進国企業に追いつき追い越していったのである。他方,日本企業は,分業化とオープン化という大きな趨勢の中で,かつての成功体験に執着したためか,垂直統合と総花主義,自前主義とカスタム化体質から抜け出せなかった。またコストを含めた全体最適化を軽視し,ひたすら高性能・高品質を追い求める盲目的な「匠の呪縛」に捕われ,ズルズルと衰退していったと言える。このことを示すために,本研究では,先ず,世界の半導体産業の発展経緯,および基本的な技術潮流とビジネスモデルの変容について解説する。それを踏まえ,台湾半導体産業の垂直分業体制(とりわけファブレス-ファウンドリ分業モデル)の実際の構造と運営について詳述する。即ち,分業モデルの一方の主役であるファウンダリ(うち代表的企業であるTSMC)に注目し,プラットフォーム・ビジネス(顧客IC設計企業等へ設計支援を含めた包括的サービスを提供するプラットフォームを構築し,分業であるにもかかわらず緊密なパートナーシップと効率的な調整を実現する仕組み)とそれを支える技術的・組織的背景について検討する。次に,分業のもう一方の主役であるIC設計企業(ファブレス)の競争戦略についても注目する。台湾企業がモジュール型設計手法に順応し,標準品志向,ソリューション・ビジネス,選択と集中,海外・中国拠点の活用といった特徴を有していることを明らかにする。さらに,随所に日本半導体企業との比較を織り込み,上述のような技術潮流と産業構造の変化に,何故台湾は順応でき,何故先発組であった日本企業がかえって不適応であったのか,具体的に探っていく。
著者
岸本 千佳司
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2020-14, pp.1-47, 2020-06

本稿は、公表された統計データや資料を用いて中国半導体産業の発展状況を分析し、その全体像を俯瞰することを目的とする。主な内容は次の通りである。第1節では、中国IC産業の売上高、国内市場、国際貿易に関する統計データを用い、その基本的な発展概況を明らかにする。売上高は2011~17年に約3倍、成長率は2013年以降年率20%前後と高水準を維持している。部門別には、労働集約的なパッケージ&テスト業の比重が減じ、設計業の比重が増加した。国際貿易では、一貫して大幅入超であり、しかも輸入品は相対的に高単価チップが多いことが窺われる。第2節では、国内地域別の発展状況に目を向けている。売上高の地域別比率の推移では、当初、長江デルタが圧倒的なシェアを持ちながらも次第に減少し、それに代わって、珠江デルタと中西部・その他が増加している。北京・天津・環渤海は一定の比重を維持している。部門別には、製造業(含ファウンドリ)とパッケージ&テスト業では長江デルタが過半を占め、設計業では長江デルタの他、北京・天津・環渤海、珠江デルタがある程度拮抗している(2017年データ)。加えて、代表的都市として、上海、北京、深圳の概況も解説される。第3節は、各部門(設計業、製造業、パッケージ&テスト業)の発展状況、具体的には、売上高上位企業の構成や市場集中度などについて検討する。設計業では、中国内資企業の存在感が大きく、参入企業が多いせいか、売上高上位10社の市場集中度は比較的低い。製造業(含ファウンドリ)では、近年、上位企業の中では、内資企業と外資(および合資)企業の数がほぼ拮抗し、上位10社の市場集中度は非常に高い。パッケージ&テスト業は、長らく中国IC産業の主力部門であったが、同時に外資(および合資)企業の存在感が非常に大きいのも特徴である(ただし、過去数年は、内資企業の江蘇新潮科技集団がTopの座を保持している)。上位10社の市場集中度は、かつては製造業に次いで高かったが、近年はやや低下して設計業と同程度となっている。第4節は主要企業の事例分析であり、海思半導体(HiSilicon)と中芯国際集成電路製造(SMIC)の2社を取り上げた。Huaweiの半導体子会社であるHiSiliconは、近年成長著しい中国ファブレス業界のTop企業であり、同時に、世界ファブレス売上高Top 10の中にもランクインしている。技術開発力でも、既に世界の最先端グループの中に入っており、そのことが、スマートフォン用ICチップの開発を例として示される。他方、SMICは、中国IC製造業で内資としては最大の企業で国内主力ファウンドリでもあるが、データに基づいてその経営内容を分析すると、世界の上位企業、とりわけファウンドリTopのTSMCとは依然、大きな距離があることが判明した。ただし、近年、国内ファブレスの急成長と半導体国産化を推進する政府の支援により、今後発展が加速すると予想される。
著者
佐々木 芙美子 八田 達夫 唐渡 広志 Fumiko Sasaki Tatsuo Hatta Koji Karato
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
no.2014, pp.1-15, 2014-03

本研究は違法駐輪対策として自治体が取りうる3つの政策、すなわち、①駐輪料金の引き下げ、②駐輪場の拡大、③撤去率の引き上げの効果分析を行う。具体的には、駅前に乗り入れる自転車のうち違法駐輪される割合を駐輪場料金,撤去活動水準,駐輪場収容可能台数などに回帰して政策変数の有効性を検討した。本研究では,山手線・中央線沿線(東京都)の40駅でそれぞれ集計されたデータを利用した。本稿では、違法駐輪数が多かった時期である2001年のデータを用いる。本研究の分析により、例えば高円寺では、1000万円の追加費用を違法駐輪対策としてかけた場合、料金を下げれば81台、撤去率を上げれば136台、駐輪場を増設すれば96台(その際に公共用地を利用すれば200台)、放置自転車が減ることが明らかになる。
著者
Charles Yuji Horioka Emin Gahramanov Aziz Hayat Xueli Tang
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2019-14, pp.1-41, 2019-12

In this paper, we conduct a theoretical and empirical analysis of the impact of bequest motives on the work and retirement behavior of households in Japan using micro data from the Preference Parameters Study of Osaka University. Our empirical findings are consistent with our theoretical model and show that respondents with an altruistic or strategic/exchange bequest motive work more at the intensive margin than those without any bequest motive but that respondents with a strategic or exchange bequest motive work less at the extensive margin (i.e., retire earlier) than those without any bequest motive. Our findings for the strategic or exchange motive suggest that respondents with such a motive tend to work harder than others before they retire so that they can earn more, leave a larger bequest to their children, and elicit more care from them but that they tend to retire earlier than others so that they can start receiving care for themselves and their spouses from their children sooner. A policy implication of our findings is that the exchange of bequests for the care of parents by children may be very sensitive to the inheritance tax framework.
著者
周 燕飛
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
no.2017, pp.1-24, 2017-08

最低賃金が長期にわたって相対的に低い水準に抑えられ、働く貧困層(ワーキングプア)が増加している中、基本生計費に相当する賃金額の支払を企業に促す、いわゆる「生活賃金」運動は、米英をはじめ一部の国や地域において1990年代以降に盛んに行われている。日本でも、労働組合や一部の研究者による生活賃金の試算が2000年代以降に行われている。しかし、日本では生活賃金運動は米英のように盛んではなく、生活賃金はまだ馴染みの薄い概念である。そこで、本稿は、日本の「ワーキングプア」の賃金水準の現状を紹介しつつ、米英の文献を中心に、生活賃金運動の背景、生活賃金の理論体系、生活賃金条例に対する企業の反応、生活賃金の推計方法について整理した。さらに、日本人における生活賃金のあるべき水準について、既存の推計値と比較しながら、独自の試算も行った。試算の結果、日本の標準世帯(夫婦と子ども2人の4人世帯)における生活賃金は、片働きの場合が2,380円(2015法定最低賃金の298%相当)であり、共働きの場合が1,360円(2015法定最低賃金の170%相当)となっている。男性、40代以上、大学・大学院卒の高学歴者、勤続年数20年以上の者、正社員、大企業の従業員、専門・技術的職業や管理的な仕事に従事している世帯主は、平均賃金が高く、生活賃金を得ている確率も高くなっている。
著者
戴 二彪 Erbiao Dai
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014-07, pp.1-30, 2014-03

本研究では,1980年以降の日本の地域別人口規模と年齢構造の変動を考察したうえ,47の都道府県を対象に,10年ごとのパネルデータと固定効果モデルに基づいて,1980~2010年の人口構造の変動による地域経済成長(一人当たり域内総生産GRDP伸び率)への影響を検証した。主な分析結果は次の通りである。(1)出生率の低下と長寿化の影響で,日本では総人口・生産人口(労働年齢人口)伸び率の減速と人口の年齢構造の変化が起きている。日本の人口高齢化は,欧米先進国より遅く開始したが,その進行スピードが非常に速い。2012年に総人口における65歳以上の高齢人口の比率(高齢化率)は24%を超えており,今までどの国も経験していない世界一の高い水準になっている。一方,15~64歳の労働年齢人口の同比率は,1990年のピークの69.5%から2010年の63.3%へと低下しつつある。(2)47の都道府県の間に,労働年齢人口伸び率の地域格差が存在している。2010年の統計データを見ると,雇用機会と所得水準の高い大都市圏や地方圏中核都市の所在県は,若年人口の転入によって,労働年齢人口比率が高くなるが,雇用機会・所得水準の低い地方圏の県は,若年人口の転出によって,労働年齢人口比率が低くなるという地域パターンが確認できる。ただし,労働年齢人口伸び率については,時期によって地域別動向が大きく変わる。1950~80年の期間に,地方圏から三大都市圏への若年人口の純転入規模が非常に大きいので,三大都市圏の労働年齢人口の年平均増加率が地方圏を大きく上回る。同増加率が全国平均を超える地域は,すべて三大都市圏内の都道府県である。これに対して,1980~2010年の期間に,進行しつつある少子化の影響で,全国の労働年齢人口の年平均増加率は1950~80年の1.56%から0.09%へと大きく下落した。地方圏から三大都市圏への若年人口の純転入規模もかなり縮小したので,東京圏1都3県の労働年齢人口の年平均増加率は依然として全国平均を上回っているものの,大阪圏や名古屋圏のほとんどの府・県は全国平均を下回っている。一方,地方圏の一部の県(地方中心都市を持つ福岡・宮城,東京圏に近い茨城・栃木,及び日本本土から離れている沖縄)の同増加率は全国平均を上回っている。(3)実証分析の結果によると,都道府県の一人当たりGRDP(一人当たり域内総生産)伸び率に対して,労働人口伸び率・労働年齢人口伸び率は,いずれも顕著なプラスの影響(即ち同じ方向の影響)を与えている。(4)日本の一人当たりGRDP伸び率は,地域の初期所得水準や地域の生産性に関わる諸要因にも影響されている。具体的に言うと,各期間の最初年の一人当たりGRDPは,都道府県の一人当たりGRDP伸び率に統計的に有意なマイナスの影響を与えるとなっている。また,地域の産業集積の動向も,都道府県の一人当たりGRDP伸び率に対して一定な影響を与えている。そのうち,生産性の低い農業(農林水産業)の集積係数の伸び率は,一人当たりGRDPの伸び率に統計的に有意なマイナスの影響を与えるが,機械類製造業(電子機械,精密機械,輸送機械,その他機械,など4セクター)と通信運輸業の集積係数の伸び率は,統計的に有意な影響を与えていない。上述した分析結果の内,(3)について最も注目すべきである。近年日本のほとんどの都道府県では,生産人口の伸び率はマイナスになっており,それによる一人当たりGRDP伸び率への影響も同じ方向(即ちマイナスの影響)になっていると考えられる。この意味では,日本の地域経済成長そして全国の経済成長をより健全な水準へ取り戻すためには,人口構造の変化によるマイナスの影響およびその対策を真剣に考えなければならない。今後,いかにして,外国人を含む各種専門人材が働きたい・創業したい・住みたい魅力的な都市・地域を作ることが,日本の経済成長を左右する大きな政策課題である。
著者
チャールズ・ユウジ ホリオカ Charles Yuji Horioka
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.1-15, 2014-11

経済学者は通常,人間は利己的であると仮定するが,人間は実際に利己的なのだろうか,それとも利他的なのだろうか。また,利己的な人の割合と利他的な人の割合は国によって異なるのだろうか。本稿の目的は中国,インド,日本,アメリカで実施されたアンケート調査からの遺産行動(遺産動機・遺産の分配方法)に関するデータを紹介し,そうすることによって,これらの国においてどの家計行動に関する理論モデルが成り立っているかを明らかにすることである。本稿の分析結果によると,遺産行動は国によって大きく異なり,アメリカ人とインド人の遺産行動は日本人と中国人のそれよりもはるかに利他的であり,逆に日本人と中国人の遺産行動はアメリカ人とインド人のそれよりもはるかに利己的であるようである。また,この国同士の違いは,ある程度,国同士の社会保障制度,社会的規範などのような外的要因の違いによるものであり,ある程度,国同士の家計の選好の違いによるものであり,後者は国同士の宗教心の強さの違いによる可能性が高い。
著者
岸本 千佳司
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2017-08, pp.1-32, 2017-03

本研究は、サービスロボット・ベンチャー企業のテムザック社の事例分析である。限られたリソースしか持たない同社が、業界そのものの立ち上げをリードする先駆者としての役割を果たしていることに注目する。そのカギとなるのは大学研究者等とのオープンイノベーション・ネットワークである。同社をその中核たらしめているコアコンピタンスは、インテグレーション(総合化)と実用化(製品化)の能力である。これを支える経営上の特徴として、基本的に“本社/社長~関係会社・子会社/「方面軍司令官」~一般社員”の3 層からなるシンプルな企業組織を土台に、限られた自社資源を豊富な「外部兵力」(提携する大学研究者・学生等)の活用で補う共同研究開発、および複数の専門領域を理解し調整できる「プロデューサー的」人材の成長を促す仕組みがある。加えて、自社の必要に迫られて「産業の関連インフラ」構築(部品サプライヤー開拓、量産拠点の構築、販売ルート開拓、サポートサービスや保険の整備、実証実験の場の開拓など)に取組むことが、先駆者としての存在感をさらに高めることに繋がっていることを示す。
著者
岸本 千佳司 Chikashi Kishimoto
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.1-43, 2014-02

本研究の目的は,台湾におけるベンチャー支援制度の現状を分析し,その特色と課題を明らかにすることである。台湾は,歴史的・文化的に日本と関係が深く,政治・社会経済制度において日本と類似性が高いにもかかわらず,起業活動の活発さにおいて日本とは判然とした違いがある。例えば,ベンチャーキャピタル投資額のGDP比率やGlobalEntrepreneurshipMonitor(GEM)の「総合起業活動指数」(TEA)のような指標で見る限り,台湾は先進国型経済の中で上位に位置するのに対して,日本は最も保守的なクラスに属している。本研究では,起業活動の活発さを左右する制度的要因として,ベンチャー企業の育成・支援に関わる政策や関連アクターの活動,即ち起業支援の「エコシステム」に注目する。具体的には,行政院経済部中小企業處による起業家支援の諸施策,その舞台として重要な役割を果たしている台湾全土に100ヵ所以上あるインキュベータ,加えて高度に発展したベンチャーキャピタルの活動を検討していく。分析の結果,台湾の旺盛な起業を支える制度・取り組みの重要な特徴として,①政府による継続的コミットメントと関連アクターの連携促進,②「育む構造」の形成,③国際性の高さ,の3点が挙げられる。こうした支援制度の発展にもかかわらず,幾つかの課題も指摘される。即ち,多くのインキュベータで政府補助への依存が依然高く今後の自立化・特色化推進が課題となっていること,ベンチャーキャピタルに関しては,成長初期ステージ企業への投資の手薄さと本格的な国際展開へのハードルの高さといった問題があり,今後,民間ベンチャーキャピタルの大型化と専門化による資金力およびハンズオン支援機能の強化が課題として言及されている。
著者
戴 二彪 Erbiao Dai
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014-07, pp.1-30, 2014-03 (Released:2015-10-19)

本研究では,1980年以降の日本の地域別人口規模と年齢構造の変動を考察したうえ,47の都道府県を対象に,10年ごとのパネルデータと固定効果モデルに基づいて,1980~2010年の人口構造の変動による地域経済成長(一人当たり域内総生産GRDP伸び率)への影響を検証した。主な分析結果は次の通りである。(1)出生率の低下と長寿化の影響で,日本では総人口・生産人口(労働年齢人口)伸び率の減速と人口の年齢構造の変化が起きている。日本の人口高齢化は,欧米先進国より遅く開始したが,その進行スピードが非常に速い。2012年に総人口における65歳以上の高齢人口の比率(高齢化率)は24%を超えており,今までどの国も経験していない世界一の高い水準になっている。一方,15~64歳の労働年齢人口の同比率は,1990年のピークの69.5%から2010年の63.3%へと低下しつつある。(2)47の都道府県の間に,労働年齢人口伸び率の地域格差が存在している。2010年の統計データを見ると,雇用機会と所得水準の高い大都市圏や地方圏中核都市の所在県は,若年人口の転入によって,労働年齢人口比率が高くなるが,雇用機会・所得水準の低い地方圏の県は,若年人口の転出によって,労働年齢人口比率が低くなるという地域パターンが確認できる。ただし,労働年齢人口伸び率については,時期によって地域別動向が大きく変わる。1950~80年の期間に,地方圏から三大都市圏への若年人口の純転入規模が非常に大きいので,三大都市圏の労働年齢人口の年平均増加率が地方圏を大きく上回る。同増加率が全国平均を超える地域は,すべて三大都市圏内の都道府県である。これに対して,1980~2010年の期間に,進行しつつある少子化の影響で,全国の労働年齢人口の年平均増加率は1950~80年の1.56%から0.09%へと大きく下落した。地方圏から三大都市圏への若年人口の純転入規模もかなり縮小したので,東京圏1都3県の労働年齢人口の年平均増加率は依然として全国平均を上回っているものの,大阪圏や名古屋圏のほとんどの府・県は全国平均を下回っている。一方,地方圏の一部の県(地方中心都市を持つ福岡・宮城,東京圏に近い茨城・栃木,及び日本本土から離れている沖縄)の同増加率は全国平均を上回っている。(3)実証分析の結果によると,都道府県の一人当たりGRDP(一人当たり域内総生産)伸び率に対して,労働人口伸び率・労働年齢人口伸び率は,いずれも顕著なプラスの影響(即ち同じ方向の影響)を与えている。(4)日本の一人当たりGRDP伸び率は,地域の初期所得水準や地域の生産性に関わる諸要因にも影響されている。具体的に言うと,各期間の最初年の一人当たりGRDPは,都道府県の一人当たりGRDP伸び率に統計的に有意なマイナスの影響を与えるとなっている。また,地域の産業集積の動向も,都道府県の一人当たりGRDP伸び率に対して一定な影響を与えている。そのうち,生産性の低い農業(農林水産業)の集積係数の伸び率は,一人当たりGRDPの伸び率に統計的に有意なマイナスの影響を与えるが,機械類製造業(電子機械,精密機械,輸送機械,その他機械,など4セクター)と通信運輸業の集積係数の伸び率は,統計的に有意な影響を与えていない。上述した分析結果の内,(3)について最も注目すべきである。近年日本のほとんどの都道府県では,生産人口の伸び率はマイナスになっており,それによる一人当たりGRDP伸び率への影響も同じ方向(即ちマイナスの影響)になっていると考えられる。この意味では,日本の地域経済成長そして全国の経済成長をより健全な水準へ取り戻すためには,人口構造の変化によるマイナスの影響およびその対策を真剣に考えなければならない。今後,いかにして,外国人を含む各種専門人材が働きたい・創業したい・住みたい魅力的な都市・地域を作ることが,日本の経済成長を左右する大きな政策課題である。