著者
大和田 英子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ウィリアム・フォークナーは1920年代後半から1940年代前半まで映画脚本の執筆に携わっていたが、その動機は財政問題にあったため、この時期のシナリオ諸作品には、文化的・歴史的視点からのアプローチが欠けていた。しかし、フォークナーと同時期にハリウッドでシナリオ製作、あるいは、映画プロデュースに携わっていた、作家・映画監督などの動向を詳細に検討すると、当時のアメリカ政府による文化政策の影響が色濃く、フォークナーもその影響の範囲内での仕事を余儀なくされていた事実が浮かびあがる。本研究では、フォークナーがハリウッド時代、共に仕事をしたハワード・ホークス文書をユタ州ブリガム・ヤング大学図書館にて調査し、フォークナーとホークスのみならず、ガイ・エンドア、エイゼンシュテインらとの共通認識であったアメリカ海兵隊によるハイチ侵攻及びハイチからの撤退という歴史的事実が与えた映画界への影響の痕跡を探った。映画に携わった当時の映画人・作家は、表現のうえでも、思想のうえでも、アメリカの軍事行動に反発を示し、アメリカ政府がそれに対して検閲制度を強化していったが、そのような制限の中で、いかなる文学作品あるいは映画が生まれ、あるいは闇に葬られていったのかを検証した。ガイ・エンドアの『バブーク』はその好例でもあるが、エンドアとフォークナーが同時期にハリウッドで脚本制作に携わりつつ、全く異なるハイチ表象を選択した背景は、各々の思想的相違というよりは、ハイチに対するイメージの相違と考える。
著者
有馬 貴之 和田 英子 小原 規宏
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.49-63, 2009-03-30
被引用文献数
1

観光空間は人々に対して非日常性を経験させる空間であるとされている。例えば,ある地域にとって独特で特有な自然や文化は観光資源として捉えられ,日常では経験できない非日常性が観光者に提供されている。そのような一般的な観光空間の性格を踏まえ,本研究は茨城県水戸市の偕楽園を事例に若者のレクリエーション行動を考察し,若者の観光空間における非日常性と日常性の関連や差異について検討した。また,本研究はレクリエーション行動をビデオカメラで調査しており,行動やそれに基づく空間把握の新たな研究方法の開発としても位置づけることができる。観光ガイドブックや雑誌の記事の一般的な傾向では,偕楽園は主に梅によって非日常性を演出された観光空間として捉えられてきた。しかし,若者のレクリエーション行動を調査した結果,梅を主な対象とする非日常性は偕楽園における若者の移動ルートや視線には認められたが,それは春のみに限定され,秋では日常的な資源が若者の観光空間を大きく性格づけていた。さらに,若者のレクリエーション行動の最中における会話を分析した結果,会話は春と秋ともに梅の非日常性に大きく依存することはなく,日常的な会話が多く交わされていた。これらの結果から,本研究では、若者のレクリエーション行動は所与の観光資源を受身的に享受するのではなく,自ら新たな資源を探し出しながら能動的に空間を利用するものであることが明らかとなった。したがって,若者は偕楽園を非日常的な空間として享受するのではなく,より柔軟で自由に利用できる日常的な空間,あるいは日常性の延長線上にある空間として享受している。本研究は非日常性で性格づけられる観光空間だけでなく,日常性を重視した観光空間づくりの可能性を示唆している。
著者
柴田 克己 福渡 努 和田 英子 佐々木 隆造
出版者
日本ビタミン学会
雑誌
ビタミン (ISSN:0006386X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.9, 2004-09-25

ニコチンアミドは, ヒトにおいてもトリプトファンからde novo合成される. トリプトファン-ナイアシン転換係数を60とすると, 日本人では, ナイアシン当量摂取量の半分はトリプトファンから生合成されたものであるため, この係数をどのように扱うかは, ナイアシンの必要量算定においてきわめて重要な問題となっている. ところが, このde novoニコチンアミド合成経路が, ヒトにおいて摂取ニコチンアミド量によって影響を受けるか否かについては, 未だに報告がない, もし, 摂取ニコチンアミド量によってde novoニコチンアミド生合成経路がフィードバック阻害をうけているならば, ナイアシンの必要量の策定に大きな影響を及ぼすことになる. そこで, 6名の女性を被験者として, ニコチンアミドの付加がde novoニコチンアミド生合成経路の中間代謝産物の産生に及ぼす影響を調べた. その結果, アンスラニル酸, キヌレン酸, キサンツレン酸, 3-ヒドロキシキヌレン酸, キノリン酸の産生量はニコチンアミドを89μmol/日, 310μmol/日, 562μmol/日という量を付加させても, 全く変動しなかった. すなわち, de novoニコチンアミド生合成経路は目的産物であるニコチンアミドによってフィードバック阻害を受けていないことが明らかとなった. したがって, ナイアシンの必要量を算定する上で, 摂取ニコチンアミド量を考慮に入れたトリプトファン-ナイアシン係数を算定する必要がないことが, はじめて明らかとなった. 〔論議〕勝沼会友 代謝経路におけるfeed back inhibitionは, その系の最初のステップになることになっているので, うまくデザインされていると思います. トリプトファンからナイアシンへの合成系の終末産物は何でしょうか. それによりデザインは変えねばならぬと思いますが. 柴田委員 ありがとうございます. 最終産物はニコチンアミドです. ヒトには, ニコチンアミド→ニコチン酸の反応を触媒するニコチンアミダーゼ活性は検出されていませんので. 上田委員 こういう栄養実験の被検者はどのように生活管理されるのでしょうか. といいますのは, 運動したり紫外線を受けたりすると, NAD→ポリ(ADP-リボース)系が動いてNAD合成にも影響するように思われます. 柴田委員 外での積極的な運動をさせていません. 一定の生活を送るように管理しています. 先生のサジェストは, 食事摂取基準の策定において, 大変重要なことですので, 検討してみる必要があると考えます.