著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.353-374, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
46
被引用文献数
8 3

本研究の目的は,東京の上野動物園と多摩動物公園を調査地として,来園者の空間利用を比較し,それぞれの空間利用の特性を明らかにすることである.来園者に対してアンケート調査とGPS調査を行った結果,空間利用に影響を与える要素として,経験と目的,主体年齢,利用形態という三つの来園者属性と,敷地形態,土地起伏,動物展示,休憩施設,水辺・緑地という五つの空間構成要素が抽出された.市街地型動物園である上野動物園では,休憩施設が来園者全体の空間利用に最も影響を与えていた.つまり,上野動物園は動物の観覧以外にも休憩の場所としての多様な用途を担っていた.一方,郊外型動物園の多摩動物公園では,動物展示が来園者全体の空間利用に最も影響していた.したがって,多摩動物公園は,動物を観覧する場所としての重要性を強く備えていた.
著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.93-111, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
207

本稿は,東京2020後のオリンピック・パラリンピックと観光に関する研究視点を導出するために,日本国内において行われてきた研究の整理を行ったものである.その結果,日本においては主に「観光政策」「観光施策・計画」「都市アメニティ・インフラ整備」「ビジネス・制度・開発主義」「国民意識」「観光の多様化」「経済効果」「観光教育」の八つのトピックにおいて研究がなされてきたといえる.英語圏の研究と比較すると,日本の研究では「観光教育」に関するおもてなしなどの日本独特のホスピタリティ教育に関する言及が特徴的である一方で,オリンピック・パラリンピックと観光の視点を踏まえた観光マーケティングに関する議論は少なく,これらの点において国際的な議論への貢献が必要である.
著者
河東 宗平 雨宮 尚弘 梶山 桃子 川嶋 裕子 塩川 さとこ 有馬 貴之 菊地 俊夫
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.6, pp.189-194, 2013-03

本報告は近年外国人観光客が増加する箱根の強羅地区を事例として,外国人観光客への取り組み状況の現状を把捉することを目的としたものである。調査は案内板調査,アンケート調査,動線調査,聞き取り調査の4つを行った。強羅における案内板は,そのほとんどが日本人観光客を意識したものであり,英語併記等の案内板は全くみられなかった。強羅における外国人観光客の増加自体は近年の現象であり,その割合も日本人観光客の割合には遠く及ばない。そのため,現状では外国人観光客への取り組みは,箱根の他地域と比べも大きく進展している状況ではなかった。しかしながら,強羅での就業者は外国人観光客を拒んでいる訳ではなく,むしろ迎え入れる意識を高く持っていた。2,3 年前から外国人を意識した接客を始めた施設が多い強羅ではあるが,今後,新たな取り組みがみられる可能性が高いと判断された。
著者
有馬 貴之 青山 朋史 山口 珠美
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.871-891, 2016-12-25 (Released:2017-01-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

Geoparks in Japan conduct several educational programs mostly for elementary and junior high school students, teaching geology and geography. Staff in geoparks teach local geology and geography; however, there are no programs for tourism education. Besides, most are for elementary and junior high students. Hakone geopark has assisted several schools in their educational programs through museums and delivery classes. Two tourism education programs in Teikyo University are presented and their effects on university students collaborating with the geopark are examined to set a benchmark for tourism education programs in geoparks in Japan. Students have participated in the programs with the goals of providing suggestions or operations for geotours at Hakone geopark. Educational effects on students, such as interest in the locality, are observed. Students also learn how to work in groups and about their commitments, how to improve the quality of presentations, how to make suggestions for tour planning, how to adjust and negotiate with local suppliers on creating tours, and how to operate tours on site. In particular, students discover the potential of local icons and resources as tourism resources that reflect the characteristics of the area. These educational effects are supported by human and organizational networks in the geopark. Local suppliers and other stakeholders also understand the concept and support activities besides tourism. These networks and an understanding of the geopark and tourism in the locality are the main factors supporting the programs.
著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.114-130, 2023 (Released:2023-06-01)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿では,観光庁の発表した持続可能な観光ガイドラインと日本ジオパーク委員会のジオパーク自己評価表の比較を行った.その結果,日本のジオパーク活動は,運営体制,保護・保全計画,教育,宣伝,解説,自然遺産の把握に重きが置かれる枠組といえる.こうした枠組は持続可能な観光地を目指す地域にも貢献できる可能性がある.一方,日本のジオパーク活動では客観的データの取得やその調査が弱い.ゆえに持続可能な観光を進める上では,客観的データによる状況把握や,有用な指標の開発が急務である.また,人権などの権利関係や,地質や地形に関連する他の自然環境の把握,今後生じうる観光の負の影響への対策への関心が比較的低い点も課題であるといえる.
著者
矢部 直人 有馬 貴之 岡村 祐 角野 貴信
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻 観光科学専修
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.3, pp.17-30, 2010-03-30

本研究では、GPSを用いた行動調査について既存の研究動向を整理し、課題を展望した。また、GPSを用いた行動調査の分析手法について、さまざまな可視化の手法に注目してその有効性を検討した。GPSを用いた既存の研究については、CiNiiより「GPS」、「行動」という言葉を含む研究を検索し、対象とする論文を抽出した。GPSを用いた研究は、情報・通信、建築・土木といった分野で多く行われている。2000年にはアメリカがGPS の精度を向上する施策を実施したため、GPSを用いた研究の数・分野とも2000年以降に本格的に増加する傾向にある。研究の主な内容は、1)GPSの利用可能性、2)人間を対象とした行動調査、3)動物を対象とした行動調査、4)分析手法の提案、5)システム開発などの応用、といった5分野に分けることができる。2000年以降の研究の増加に伴って、行動調査にGPSを用いる有効性が実証され、様々な分析手法も提案されてきた。しかしながら、しばしば膨大な量となるGPSのデータを分析する手法については、まだまだ洗練されていない。これは、分析方法が各学問分野の中のみで参照されており、学問領域を超えて参照される機会が少ないことが一つの要因であると考えられる。膨大な量のGPSデータから、観光者の行動パターンなどの有益な知見を引き出すためには、さしあたり探索的な分析手法が有効であろう。そこで、GISソフトを用いてデータを可視化することで、パターンを発見する手法について検討を加えた。2次元、3次元および多次元の可視化手法については、それぞれ対話的な操作を繰り返すことで有益な行動パターンの発見につながる。また、観光者の行動を文字列に変換することで、配列解析などの計量的な分析方法を援用することが可能になる。今後は、観光行動に関する分析手法について、実証研究を進める中で知見を蓄積していく必要があろう。
著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>Ⅰ</p><p></p><p> 2021年3月現在,日本には観光を学べる系学部・学科が100以上ある.それらは大きく研究中心型教育と産業人材育成型教育に分けられるが,いずれの教育においても学外(実社会)における体験との親和性は大変高い.そういったなかで,地域を多面的な要素から理解する地誌学も大変重要である.ただし,観光学は多様な学問領域の総合体であり,そのことを前提に地誌学の役割を考察する必要がある.そこで,本発表では複数の大学における学外観光教育実践の事例を報告し,観光教育と地誌学との接点についての議論の題材を提供する.</p><p></p><p></p><p></p><p>Ⅱ</p><p></p><p> 報告者はこれまでに複数の大学で教鞭を取ってきたが,それぞれの大学の学問や学びに対する姿勢や意義が異なるため,実施してきた学外教育の内容も異なってくる.以下では,それぞれの実施内容から地誌学との関連性を検討する.</p><p></p><p></p><p></p><p>1.</p><p></p><p> 首都大学東京自然・文化ツーリズムコースでの学外教育は,地理学調査の意味合いが強いものであった.具体的には,学生は各観光施設への聞き取り調査や施設の分布調査などを行った.地誌学(的思考)は事前知識としての箱根の地域把握において活用された.本事例は,既存の地理学教育の枠組みとして提供されたものであることから,「観光地域の把握方法の理解」が目的であり,地誌学的学習との親和性も高かった.</p><p></p><p></p><p></p><p>2.</p><p></p><p> 帝京大学観光経営学科は産業人材育成型大学であり,学生も観光産業への就職を希望して入学するものが多い.そのような場合,実践的な場,具体的には企業や地域団体と連携した教育が学生に好まれる傾向にあり,教員もそのような舞台を確保しがちである.学外団体との連携を前提とした教育では,学外団体のメリットとなることも求められ,これまでに街歩きアプリにおけるスポット紹介コンテンツの作成や,プロモーション動画の作成などを行ってきた.これらの学外教育では,「観光地域のプロモーションの理解」を目的とした.このような活動においても,地誌学は事前の地域理解の手段として活用された.ただし,本事例では,地域の理解と同等に,市場,つまり消費者(観光者)理解や,アプリや動画撮影などの広告に対する理解も学生に必要となる.そのため,地誌学的理解に割かれる時間は物理的にも減少した.</p><p></p><p></p><p>3.</p><p></p><p> 帝京大学観光経営学科での学外教育では学生企画によるツアーやイベント造成も行った.段取りとしては,ツアー・イベント作成事前には地域調査として資料収集や聞き取り調査などを行い,それを基にイベント企画や散策ツアーの造成を行うといものである.なお,自身が自らガイドを担う場合はガイド(プレゼンテーション)の練習を,ガイドを地域の方々に担ってもらう場合には,ガイド原稿の作成を行った.これらには地誌学的ストーリーの構築が必要とされた.また,ツアーやイベントにかかる他機関との調整や,ポスター等のデザイン作成も行った.これらの学外教育は「観光商品の作成過程の理解」を目的としており,地誌学的な地域理解にさける時間を減少させてしまった.そのため,風景の見方,資料収集の方法,地域の要点を理解する思考などは,当該科目とは異なるところで学習が必要となる.ところが,産業人材育成型の観光系大学において,地誌学的思考法を教授している大学は決して多くないであろう.</p><p></p><p></p><p></p><p>4.</p><p></p><p> 現在実践している学外教育は,築地場外市場商店街と連携した取り組みである.ここでは長期的な視点を持った地域のプロモーションやブランド化を目的に,現地組織の協力を経て実施している.これらは,これまでの教育実践の景観を組み合わせたものでもある.また,SNSマーケティングや,マネタイズの側面すなわち「ビジネス面をも考慮した地域経営の理解」を目的としている.地誌学的理解としては,現在,地域の歴史とともに店舗への聞き取り調査を実施している最中である.</p><p></p><p></p><p></p><p>Ⅲ</p><p></p><p> 地理学者としては,研究中心型教育の実践が自らの研究指向性と合致する.しかしながら,観光学における地理学という側面では,観光という文脈において,他の学問分野との接点を見出した教育が求められる.例えば,地誌学による地域理解だけではなく,その地域理解を消費者に伝達していく発想力やプレゼン力,マーケティングの知識も教育に必要になってくる.そのような知識を,地域理解の後に加える必要があるのである.</p><p></p><p> ただし,大学における学生の学習時間は有限である.そのため,純粋な学問的意義とかけ離れていくジレンマが観光教育における地誌学にはある.特に,産業人材育成型大学では,地誌学の重要性の比重は下がっているとも考えられる.上記の報告者の教育実践でも反省すべき点であるが,地誌学を地域理解の手段としてのみ捉えるのではなく,学問性として地域の課題発見の方法としての有効性や,ビジネス的視点との関連をより追求する等の新しい動きがあっても良いのかもしれない.</p>
著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

Ⅰ.大地の遺産とは何か 大地の遺産とは、端的にいえば「貴重な土地」のことである。「土地」はそれぞれに環境、景観、文化、社会を持つ。また、「貴重」とは、その対象物(ここでは土地)が希少性、固有性、特異性を持っているということである。地理学の学問性を重んじれば、「貴重」性は、その土地で自然現象と人文現象が同時にみられる、もしくはそれらの相互の関係がみられるということになる(詳しくは、岩田 2012、目代 2011、目代ほか 2010)。 大地の遺産とその百選について地理学者が言及する背景には、地理学の社会的貢献の必要性、より具体的にはジオパークに対する貢献がある。これまでに25のジオパークが日本で設立され、各々の地域では熱心な活動がみられるようになった。地理学者の多くも活動に参画しており、その学術団体として社会的なプレゼンスをより高める必要性がある(目代ほか 2010)。このために、日本地理学会ジオパーク対応委員会(以下対応委員会)が主体となって大地の遺産百選選定の作業を進めている。Ⅱ.アンケート調査(第1回)の結果と考察 対応委員会は2012年の春の大会シンポジウムで大地の遺産百選に関する講演と参加者へのアンケート調査(第1回)を行った。アンケート調査では、21名(無記名含)の会員から計39の候補地があげられた。この数は百選を選ぶ数としてはまだまだ少なく、今後の課題としてより多くの地理学者により多くの候補地を提案していただくことがあげられる。また、推薦された候補地では関東以西、特に九州地方の候補地が多く、今後は、他の地域の候補地の推薦も求められるであろう。 推薦された候補地の空間スケールについて吟味すると、今回のアンケートの結果では、全体の70%以上が市町村レベルの空間スケールから複数県にまたがる空間スケールでの提案となっていた。おそらく、これらの空間スケールを基本に土地の貴重性を求め、大地の遺産百選として選定する事が解り易い空間スケールとみられる。ただし、大地の遺産百選の選定で重要視される根本的な部分は、その空間スケールではなく、冒頭に述べた自然現象と人文現象の関係である。言い換えれば、その候補地で「ひとつの地誌学的なストーリー」が構築できることが重要となる(例えば、大野 2011)。 それでは、その「地誌学的なストーリー」はアンケート調査の結果からも読み取れるであろうか。アンケートで推薦された39の候補地のうち、推薦理由として自然と人文の双方の現象について記述されたものは23ヶ所(59%)であった。このことから、大地の遺産の地誌学的な捉え方はある程度浸透していると考えられる。なお、35(90%)の候補地で地形・地質(自然)の特徴が推薦理由として論じられていた。したがって、推薦された候補地の多くは貴重な地形・地質を基盤とした土地であることがわかる。これはこれまでの対応委員会の発表や議論に類似した結果でもあるが、複合的学問である地理学の性格を考えれば、今後は他の自然現象や人文現象、およびそれらとの関係にも配慮していくことが必要といえる。 アンケート調査の結果をみる限り、対応委員会がこれまでに大地の遺産について発表、議論してきた内容と参加者の推薦する候補地やその考え方に大きな相違点はみられなかった。しかし、このことは、逆にいえば、多くの地理学者は、対応委員会にフォローする形のみで参加していると考えられる。実際に、頻繁に議論へ参加している地理学者は決して多くない。そのため、今後も対応委員会が主体となって、多くの研究者を巻き込む積極的な姿勢が必要であろう。 なお、アンケート調査の結果によれば、大地の遺産の重要な要素と考えられる保全、教育、ツーリズムのいずれかが推薦理由として言及されていた候補地は9ヶ所(23%)と僅かであった。Ⅲ.今後の選定スケジュール 今後のスケジュールとしては、本発表時(3月)に第2回アンケート調査を、地球惑星連合学会(5月)に第3回アンケート調査を行う。ウェブアンケートも2013年1月から実施している(https://sites.google.com/site/ajggeo park/home/annouce/dadenoyichanbaixuananketo)。また、郵送によるアンケート調査も検討中である。アンケート調査後は、対応委員会を中心に候補地リストからの選定を行い、10月の秋季学術大会で大地の遺産百選の発表を目指していく予定である。
著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.1033-1045, 2015-12-25 (Released:2016-01-27)
参考文献数
18
被引用文献数
2 8

Mass-information media such as guidebooks, novels, movies, and TV dramas present images of tourist areas. This research aims to investigate changes in the content of one guidebook series concerning Mt. Fuji. Mt. Fuji offers many tourist attractions, including climbing the mountain, viewing it, and shopping in its vicinity. The content featured over the 20 years during which the guidebook series has been published is divided into four periods, which are characterised as follows: sightseeing period (1st period: 1995), leisure and activity period (2nd period: 1996 to 1999), climbing period (3rd period: 2000 to 2008), and climbing and general activities period (4th period: 2009 to 2014). During the 1st period, the word “resort” was important in the guidebooks' content, crafting an image of Mt. Fuji tourism that was led by a resort boom in Japan. The words “leisure,” “history,” and “nature” acquired significance in the 2nd period, when content concerning some activities increased in the guidebooks against the background of a connection between tourism and regional promotion. Guidebooks of the 3rd period heavily used imagery of climbing to characterise Mt. Fuji tourism, with the words “entrance” and “climbing” appearing frequently. This period coincided with a generational transition among climbers, during which there was an increase in Japan of younger climbers and female climbers. During the 4th period, climbing remained the most significant topic of the guidebooks; however, words related to recent Japanese tourism topics, such as “B-grade” “gourmet” “local” and “holy place” took important positions alongside the topic of climbing, because B-grade gourmet products within the Mt. Fuji region such as pan-fried noodles in Fujinomiya city became famous during the 2000s. As a whole, the content of the tourism guidebooks over the years illustrates changes in perceptions of Mt. Fuji from diverse and general images of leisure and pleasure to specific images of climbing.
著者
有馬 貴之 和田 英子 小原 規宏
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.49-63, 2009-03-30
被引用文献数
1

観光空間は人々に対して非日常性を経験させる空間であるとされている。例えば,ある地域にとって独特で特有な自然や文化は観光資源として捉えられ,日常では経験できない非日常性が観光者に提供されている。そのような一般的な観光空間の性格を踏まえ,本研究は茨城県水戸市の偕楽園を事例に若者のレクリエーション行動を考察し,若者の観光空間における非日常性と日常性の関連や差異について検討した。また,本研究はレクリエーション行動をビデオカメラで調査しており,行動やそれに基づく空間把握の新たな研究方法の開発としても位置づけることができる。観光ガイドブックや雑誌の記事の一般的な傾向では,偕楽園は主に梅によって非日常性を演出された観光空間として捉えられてきた。しかし,若者のレクリエーション行動を調査した結果,梅を主な対象とする非日常性は偕楽園における若者の移動ルートや視線には認められたが,それは春のみに限定され,秋では日常的な資源が若者の観光空間を大きく性格づけていた。さらに,若者のレクリエーション行動の最中における会話を分析した結果,会話は春と秋ともに梅の非日常性に大きく依存することはなく,日常的な会話が多く交わされていた。これらの結果から,本研究では、若者のレクリエーション行動は所与の観光資源を受身的に享受するのではなく,自ら新たな資源を探し出しながら能動的に空間を利用するものであることが明らかとなった。したがって,若者は偕楽園を非日常的な空間として享受するのではなく,より柔軟で自由に利用できる日常的な空間,あるいは日常性の延長線上にある空間として享受している。本研究は非日常性で性格づけられる観光空間だけでなく,日常性を重視した観光空間づくりの可能性を示唆している。