著者
小原 規宏
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.563-586, 2004-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28

本研究は,埼玉県さいたま市東部高畑集落を事例として,専業農家における農業経営の変化を検討し,専業による農業経営の持続性を支える要因を考察した.その結果,高畑集落では,各農家がそれぞれ異なる部門の経営を多様に組み合わせ,その組合せを時代ごとに変え,複合経営という形態をとることで専業を維持してきた.さらに,複合経営の多様性と柔軟性という点に着目し,複合経営での商品生産部門とその数によって類型化を行ってみると,複合経営には,所得の相互補完性,農業労働力の平準化,そして後継者の就農化への貢献といった効用があることが明らかになった.っまり,複合経営という形態によって,農業所得や年間の労働力配分が平準化し,各農家の経営の兼業化を促進する要因が取り除かれ,後継者の就農問題も解消され,専業による農業経営が維持されていた.複合経営は,新しい経営が軌道に乗るまでの不安定な収益を補完することで,新しい部門やその部門の担い手を育てる役割を担っており,農業後継者がいる専業農家を生み出すインキュベーターとしての役割を担っていることが明らかとなった.
著者
伊藤 徹哉 飯嶋 曜子 小原 規宏 小林 浩二 イリエバ マルガリータ カザコフ ボリス
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.44, 2011 (Released:2011-05-24)

I. はじめに 1989年以降のいわゆる「東欧革命」を通じて,中・東欧各国は経済的には市場経済へと移行し,価格の自由化や国営企業の民営化が推し進められた。これに伴って物不足の解消や物価上昇といった経済的変化や失業者の増加などの社会的変化が生じ,また地域的な経済格差も拡大していった。農業経済を中心にする地域,とくに大都市から遠距離の農村では工業やサービス業の大規模な開発が困難であり,これらの地域は後進地域として社会的・経済的課題を抱えていることが指摘されている。 研究対象のブルガリアでは,現在も就業構造において農業経済への依存がみられる一方,「東欧革命」以降,首都ソフィアとその近郊をはじめとする大都市での経済開発も進展しており,農業地域と大都市との経済格差が拡大しつつある。本研究は農業経済を基盤とするEU新規加盟国のブルガリアを対象として,国内の地域的な経済発展における格差を国内総生産(GDP)と平均年間賃金に基づいて明らかにし,人口分布や人口移動などの社会的特性と,産業別就業者数と海外からの直接投資額などの経済的特性から経済格差の背景を考察することを目的とする。分析に用いた資料は,2008年9月,2009年9月および2010年8~9月の現地調査によって得られたブルガリア国立統計研究所 (National Statistical Institute) が刊行した統計年鑑や統計資料である。 II. 地域的経済格差 国内6つの計画地域Planning RegionごとのGDPに基づいて地域経済の変化を分析した。その結果,首都・ソフィアを含む南西部では活発な経済活動が認められる一方,その他の地域,とくに北西部と北中央部が経済的に低迷しており,しかも1999年以降においては南西部とその他の地域との差が拡大していた。 また,国内に28設置されているDistrict(以下,県)ごとの平均年間賃金(以下,年間賃金)に基づいて経済上の地域的差違を考察する。まず,全国平均の年間賃金は2009年において7,309BGN(レバ)であり,2005年における数値(3,885BGN)と比較すると,4年間で約1.9倍上昇した。県別にみると,南西部の首都・ソフィアの賃金水準が極めて高く,2009年では全国第一位の9,913BGNに達している。この値は全国平均(7,309BGN)の約1.4倍であり,全国第二位(7,696BGN)と第三位(7,602BGN)の県と比較しても突出している。首都・ソフィアの年間賃金は,もともと高水準であったが,近年さらに上昇している。また首都を取り囲むように広がるソフィア県の年間賃金も7,026BGNと全国平均には届かないものの,相対的に高い水準となっている。このように首都・ソフィアとその周辺部の一部では所得水準がもともと高く,それが近年さらに上昇している。一方,北西部と北中央部での年間賃金の水準は低く,2009年における年間賃金の最下位県の値を首都・ソフィアと比較すると,その2分の1の水準にとどまる。また2005年からの変化も小さく,賃金水準が低い状態におかれている。 III. おわりに-地域的経済格差の社会・経済的背景 地域的な経済格差の背景を人口分布や人口移動などの社会的特性と,産業別就業者数と海外からの直接投資額などの経済的特性から考察する。ブルガリアにおける地域的な経済格差の背景として,次の3要因との関連を指摘できる。第一に人口集中に起因する首都・ソフィアの消費市場と労働市場としての突出である。人口は首都・ソフィアが含まれる南西部に集中しており,2006年において総人口(769.9万)の27.5%を占める211.8万が南西部に居住する。とくに首都・ソフィアの人口規模は大きく,総人口の16%を占めている。第二に首都・ソフィアへの企業や主要施設集中に起因する資本集中であり,首都・ソフィアでの事業所数や就業者数の多さや,海外からの直接投資の集中傾向などが認められた。第三に農村と都市部での就業構造の差違と関連した農村地域での失業率の高さと首都への人口流出であり,賃金水準の高い業種である専門サービス業をはじめとする部門が首都や一部の大都市に集中しているため,農村からそれら都市への人口流出が著しい。加えて,農村でも耕地面積の拡大や機械化を通じた経営効率の向上が図られており,余剰人口の都市部への移動を加速している。
著者
有馬 貴之 和田 英子 小原 規宏
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.49-63, 2009-03-30
被引用文献数
1

観光空間は人々に対して非日常性を経験させる空間であるとされている。例えば,ある地域にとって独特で特有な自然や文化は観光資源として捉えられ,日常では経験できない非日常性が観光者に提供されている。そのような一般的な観光空間の性格を踏まえ,本研究は茨城県水戸市の偕楽園を事例に若者のレクリエーション行動を考察し,若者の観光空間における非日常性と日常性の関連や差異について検討した。また,本研究はレクリエーション行動をビデオカメラで調査しており,行動やそれに基づく空間把握の新たな研究方法の開発としても位置づけることができる。観光ガイドブックや雑誌の記事の一般的な傾向では,偕楽園は主に梅によって非日常性を演出された観光空間として捉えられてきた。しかし,若者のレクリエーション行動を調査した結果,梅を主な対象とする非日常性は偕楽園における若者の移動ルートや視線には認められたが,それは春のみに限定され,秋では日常的な資源が若者の観光空間を大きく性格づけていた。さらに,若者のレクリエーション行動の最中における会話を分析した結果,会話は春と秋ともに梅の非日常性に大きく依存することはなく,日常的な会話が多く交わされていた。これらの結果から,本研究では、若者のレクリエーション行動は所与の観光資源を受身的に享受するのではなく,自ら新たな資源を探し出しながら能動的に空間を利用するものであることが明らかとなった。したがって,若者は偕楽園を非日常的な空間として享受するのではなく,より柔軟で自由に利用できる日常的な空間,あるいは日常性の延長線上にある空間として享受している。本研究は非日常性で性格づけられる観光空間だけでなく,日常性を重視した観光空間づくりの可能性を示唆している。
著者
斎藤 義則 帯刀 治 齋藤 典生 佐川 泰弘 中田 潤 原口 弥生 小原 規宏
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

茨城県の中山間地域大子町を対象として、農林業の生産力ではなくライフスタイルの観点から研究した。その結果、中山間地域では「水・エネルギー・食料」の一部を自給し、自然環境と共生するライフスタイルが営まれていることがわかった。このことは、現代の重要な課題の一つである環境共生を先取りした先進的なライフスタイルであると考えられる。また、中山間地域における農林業政策やEUの条件不利地域の農家への直接補助、さらには大子町の黒沢地区における集落構造などを分析した。