著者
國井 泰人 池本 桂子 和田 明 楊 巧会 志賀 哲也 松本 純弥 丹羽 真一
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.105-112, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
5

我々は,精神疾患死後脳集積システムの構築とそれに並行した精神疾患の啓発活動を 1997 年より行ってきた。本稿では,福島精神疾患死後脳バンクのシステム及び,発足して以来現在までの歩みと実績を紹介するとともに,財政的問題や専属スタッフの不足,臨床医と基礎医学研究者との連携の必要性,全国規模でのバンクネットワークの必要性など,バンクの運営に従事する中で直面している課題について報告する。
著者
笠原 諭 國井 泰人 丹羽 真一
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.76-79, 2017-01-25

なぜ慢性疼痛の治療は難しいのか 慢性疼痛は心理社会的要因がその発症や維持に関与していることが多く,患者の訴える痛みは器質的な要因での説明が困難で,鎮痛薬などの薬物療法だけで改善させることが一般的に難しい.また近年は,そのような慢性疼痛に対して認知行動療法の必要性が唱えられているが,それを実践していく際に,認知行動療法の技術的な問題以外にも慢性疼痛患者に特有の難しさがある.本稿では,なぜ慢性疼痛の治療は難しいのか,それにどう対処したらよいのか,これまでに報告されている知見と筆者らの臨床実践に基づいて述べてみたい.
著者
國井 泰人
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.26, no.11, pp.11_40-11_46, 2021-11-01 (Released:2022-03-25)
参考文献数
20

私たちが現在直面しているCOVID-19流行による社会的混乱は、人々の日常生活や社会経済活動に広範な影響を及しており、今なお収束が見えない現状にある。日本でも、この長期にわたるストレスへの暴露や急速な景気の悪化に伴う失業などの経済問題により、うつ病、適応障害、アルコール関連障害などの精神疾患の発症や悪化及び自殺者数の増加、子どもの精神発達への影響などが懸念されており、メンタルヘルスの問題は極めて深刻である。このメンタルヘルス危機に対しては従来の精神医療の体制や方法論では対応が困難であり、いわゆる「With/Postコロナ」の社会におけるニューノーマルなメンタルヘルス対策が必要である。本稿では、コロナ禍のメンタルヘルスの実態を世界各国の研究報告を交え報告し、脳科学やAI技術などの先端技術を活用した科学的根拠に基づくメンタルヘルス対策を提案する。
著者
長岡 敦子 國井 泰人 日野 瑞城 泉 竜太 宍戸 理紗 齊ノ内 信 柿田 明美 矢部 博興
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.186, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
16

機能分子であるタンパク質の脳における発現解析は,統合失調症の分子病態を解明するうえで不可欠である。死後脳研究には病態以外のさまざまな条件に由来する交絡因子が存在するため,その評価とコントロールは重要である。筆者らは統合失調症死後脳におけるタンパク質発現を中間表現型として,遺伝子多型(SNPs)との関連を解析する研究を行っており,解析には当施設で保管する精神疾患を主とした死後脳と新潟脳研究所に保管されている非精神疾患対照の死後脳を用いて行っている。本稿では,死後脳試料の保管施設の違いという交絡因子によって生じるタンパク質発現への影響について検討した研究と,統合失調症患者死後脳におけるタンパク質発現解析の一例として,aldehyde dehydrogenase 4 family member A1(ALDH4A1)とその発現に影響するSNPsについての研究を取り上げて,それぞれ概説する。
著者
國井 泰人 長岡 敦子 日野 瑞城 泉 竜太 宍戸 理紗 矢部 博興
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.179-185, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
23

多彩な方向から活発に行われている生物学的研究によって,精神疾患の病態解明は急速に進んでおり,これらの研究で得られた知見を検証するための死後脳研究も最近数多く行われるようになっている。こうした死後脳研究のためには,研究に適した脳試料を提供できるブレインバンクが不可欠である。筆者らは全国に先駆け精神疾患ブレインバンクを構築し20年以上にわたって運営してきた。当バンクは,当事者・家族の積極的参加による運営,賛助会による支援,インフォームド・コンセントによる当事者・健常者の生前登録,開かれた研究活動を基本理念としている。2016年からは日本ブレインバンクネット(JBBN)が組織され,全国に拡がる生前登録者の希望に対応すべく,ブレインバンクの全国ネットワーク化が進められている。本稿ではわが国における精神疾患ブレインバンクの取り組みを紹介するとともに,死後脳試料を用いた精神疾患研究の現状について概説する。
著者
國井 泰人
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.163-167, 2019 (Released:2020-03-30)
参考文献数
14

近年,ゲノムワイド関連解析,次世代シークエンシング技術の発展により,統合失調症のリスクに関連する遺伝子領域やde novo変異が同定されるなどの大きな進展がみられたものの,統合失調症や他の精神疾患の根底にある正確な分子メカニズムは明らかにされていない。転写レベルの変化,エピジェネティック修飾およびde novo変異などの脳特異的ゲノム多型を考慮すると,ヒト脳組織の研究は,統合失調症または双極性障害の分子病態を理解するために不可欠である。筆者らは約20年前から精神疾患に関する死後脳バンクを運営し,「ジェネティックニューロパソロジー」を適用した死後脳研究で,統合失調症の分子メカニズムに対する新規の知見を得ている。本稿では,精神疾患における死後脳研究の最新の知見をジェネティックニューロパソロジーに焦点を当てて紹介するとともに,当バンクの死後脳試料を用いた共同研究の結果を報告する。