著者
笠原 諭 高橋 美和子 松平 浩 岡 敬之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ADHDを併存した慢性疼痛患者100名に対するADHD治療薬(メチルフェニデート and/or アトモキセチン)による薬物調整を完了し、治療前後におけるコナーズ成人ADHD評価尺度(Conners’Adult ADHD Rating Scales: CAARS)の自己記入式、観察者記入式の双方を実施した。約8割の患者においてADHD評価尺度に大きな改善が認められている。そしてADHD症状に改善の見られた患者においては、認知機能の改善とともにNumerical Rating Scale(NRS)で測定した疼痛症状や、Hospital Anxiety and Depression Scaleの不安・うつ等の気分症状、痛みの破局的認知Pain Catastrophizing Scaleにも有意な改善が認められた。薬物調整を完了した40名の患者については、治療後のSPECT検査を実施完了している。薬物療法で治療効果の得られた患者においては脳血流にも改善がみられる傾向があり、1)前頭葉領域の血流低下が改善するパターンと、2)大脳皮質低血流/基底核高血流の不均衡が緩和するパターン、3)モザイク状の血流分布が平滑化するパターンが認められた。研究分担者の異動などにより解析作用が遅延していたが、研究体制も整ったため、上記のADHD診断の有無、ADHD治療薬の効果・薬物反応性の結果と、脳SPECTのデータを合わせて(1)非ADHD群との比較を行うことで、ADHDを併存した慢性疼痛の早期診断指標を確立し、(2)治療効果と関連する脳血流パターンを同定することで、治療反応性(薬剤選択)の予測指標を確立し、(3)ADHD治療薬による鎮痛効果の脳内機序の解明に繋げられるようにする計画である。
著者
萩原 綾乃 笠原 諭 髙橋 香央里 川口 潤 一戸 達也
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.325-331, 2020-10-31 (Released:2021-02-28)
参考文献数
20

成人期の発達障害は診断されないまま見過ごされているケースも存在し,就業や日常生活,周囲とのコミュニケーションに支障をきたすために生きづらさを感じている患者も多い.今回,口腔内の慢性疼痛治療のために当院に来院した患者で,診察時の様子から発達障害が疑われて精神科医への紹介を行ったところ,注意欠如・多動症(ADHD)と診断された症例を経験したので報告する.患者は50歳女性.下顎右側第二大臼歯の慢性疼痛を主訴に来院し,筋筋膜性歯痛の診断下に疼痛治療を開始した.診察室内では落ち着きがなく会話を順序立てることが困難で,破局的思考が強かった.口腔内処置時には,感覚過敏や指示の伝わりにくさも認めた.数カ月を経過しても疼痛治療への理解や協力が得られず,正確な疼痛評価も困難であったため,発達障害を疑い精神科医へ紹介した.患者はADHDと診断され,ADHD治療薬による薬物療法が開始された.現在,落ち着きのなさや会話を順序立てることの困難は徐々に改善傾向にあり,今後の疼痛治療への積極的な参加と疼痛改善が期待される.本症例のように,隠れた発達障害が治療の障害になっていることもある.適切な治療を行うためには,専門医への受診を促し,連携を図ることが重要であると示唆された.
著者
髙橋 直人 笠原 諭 矢吹 省司
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.596-603, 2016-08-18 (Released:2016-09-16)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

疼痛は主観的なものであり,客観的に評価することは非常に困難である.しかし,痛みの治療を行ううえでは患者の痛みをできるだけ客観的に評価し,分析する必要がある.本稿では,痛みの強さ,痛みの心理社会的因子,および痛みによる活動性,各々の評価における代表的な評価法を解説し,実際の症例の評価を提示した.しかし,現時点ではまだ痛みに対する客観的評価が十分に確立されていない.
著者
笠原 諭 國井 泰人 丹羽 真一
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.76-79, 2017-01-25

なぜ慢性疼痛の治療は難しいのか 慢性疼痛は心理社会的要因がその発症や維持に関与していることが多く,患者の訴える痛みは器質的な要因での説明が困難で,鎮痛薬などの薬物療法だけで改善させることが一般的に難しい.また近年は,そのような慢性疼痛に対して認知行動療法の必要性が唱えられているが,それを実践していく際に,認知行動療法の技術的な問題以外にも慢性疼痛患者に特有の難しさがある.本稿では,なぜ慢性疼痛の治療は難しいのか,それにどう対処したらよいのか,これまでに報告されている知見と筆者らの臨床実践に基づいて述べてみたい.
著者
松平 浩 笠原 諭 酒井 美枝 井上 真輔 鉄永 倫子 高橋 紀代 高槻 梢 二瓶 健司 矢吹 省司 髙橋 直人
出版者
一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会
雑誌
Journal of Spine Research (ISSN:18847137)
巻号頁・発行日
vol.14, no.6, pp.858-868, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
12

慢性非特異的腰痛患者には,心理社会的要因が関与している症例が多く,その場合はそれらの要因を的確に評価し,それに応じた適切かつ合理的な認知行動的アプローチが求められる.就労に支障をきたしている患者に対しては,社会的支援も必要である.これらと運動療法を併せることが主軸といえる慢性腰痛に対する集学的治療は,本邦の慢性疼痛診療ガイドラインにおいて最高位の“施行することを強く推奨する”1A判定である.一方,筋骨格系疼痛に対する「心理社会的フラッグシステム」が,世界の有識者による会議を経て英国で開発され,欧州では各国の診療ガイドラインで推奨されている.我々は,令和3年度厚生労働省慢性の痛み政策研究事業(慢性の痛み患者への就労支援/仕事と治療の両立支援および労働生産性の向上に寄与するマニュアルの開発と普及・啓発)の中で,意欲ある治療者のOperation Systemとなる合理的な手法を目指した「新心理社会的フラッグシステム日本版」を開発した.本稿では,心理社会的要因であるイエローフラッグ(認知行動療法の選択・実施に向けた心理社会的要因と具体的なアプローチ)を中心に解説する.
著者
笠原 諭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1165-1170, 2010-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
13

国民の愁訴として腰痛は最も多い症状であり,特に慢性腰痛の患者は精神医学的問題を合併していることが少なくない.そこで福島県立医科大学では,慢性腰痛に対して整形外科とリエゾン治療を行っている.腰痛の治療成績を改善するには,腰痛を「生物・心理・社会的疼痛症候群」という概念でとらえる必要がある.難治な慢性腰痛では身体表現性障害と診断されることが少なくない.慢性腰痛を一症状とする身体表現性障害の各疾患に有効性が確立した薬物はまだない.慢性腰痛に合併するパーソナリティ障害が治療を困難にさせる.慢性腰痛の治療においては,整形外科と精神科の連携が重要である.
著者
髙橋 香央里 笠原 諭 福田 謙一 一戸 達也
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.85-90, 2021

<b>症例の概要</b>:40歳,女性.左側下顎第一小臼歯部に相当する舌側縁のピリピリ感に対して,薬物療法について説明したところ,過去の経験から薬物療法の実施に理解が得られなかった.そこで,舌側縁が歯に触れてしまうという訴えに対し,ソフトタイプのオーラルアプライアンスを作製したが,効果は装着時のみであった.<br>症状が長期に渡っていたことや,診察中に注意欠如多動性障害(ADHD)の行動所見を認めたためADHD尺度によるスクリーニング検査を行ったところADHDの可能性が示された.患者の希望もあり精神科医へ加療を依頼したところ,身体症状症と混合型ADHDの診断がなされた.診断により,日常生活で自覚している自責感が減り薬物療法を受け入れることが可能となり抗うつ薬の内服により疼痛軽減の効果が得られて経過良好である.<br><b>考察</b>:舌痛症患者の中には難治性を呈することもあり歯科領域を超えた加療も必要となることがある.本症例ではADHDスクリーニングを行い,医科への紹介となった.今回の結果から今後も難治性を呈する舌痛症患者の評価の一つとして検討していく必要性が考えられた.<br><b>結論</b>:舌痛症の診断をしていくうえでADHDスクリーニングを今後検討していく必要性及び精神科医との連携が重要であると思われた.
著者
笠原 諭
出版者
福島県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的:トップレベルのラグビー選手が知能検査の積木課題(空間認識能力を反映する)で高得点を示すことが報告されている(2008.Kasahara)。そこで本研究ではトップレベルのラグビー選手に特徴的な認知能力の脳内基盤を解明する。また各種心理検査も行いアスリートの心理発達面についても調査する。○研究方法:対象はtop群(秋田ノーザンブレッツ選手)20名と、novice群(ラグビー未経験者)20名に対して、知能検査(WAIS-III)、MRI形態画像、fMRI機能画像検査(メンタルローテーション課題など、約3分のセッションを11通り)、心理検査(STAI, Self efficacy, EQ/SQ, NEO-FFI)を行った。○研究成果:多数の項目について検査を行ったため、解析が終了し空間認識能力と関連のある項目に焦点を絞り報告する。top群とnovice群において、知能指数、積木課題の得点、メンタルローテーション課題における正答率、反応時間いずれにおいても有意差は認められなかった。メンタルローテーション課題時の脳活動は、右上頭頂小葉、右背外側後頭皮質、左中側頭回においてtop>noviceで、右内側眼窩前頭皮質ではtop<noviceであった。これらの脳活動の差は、課題施行の方略の違いを反映している可能性があると考えられた。右背外側後頭~頭頂領域の脳活動がtop群で高いことから、top群はより俯瞰的かつ想像的に課題を遂行している可能性が示唆された。またメンタルローテーション課題における正答率と積木課題の得点は、top群、novice群いずれにおいても有意な正の相関を示した。