著者
岩崎 稔 今井 昭夫 篠原 琢 長 志珠絵 金井 光太朗 石井 弓 成田 龍一 板垣 竜太 小田原 琳 土田 環 米谷 匡史 藤井 豪
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本事業は、「歴史にとって記憶の問題とは何だったのか」という共通の課題設定のもとで、「記憶論的転回以後」の集合的記憶に関する言説状況を検討し、東アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカの事例研究を空間的に広げて総括してきた。また、二十世紀後半以後の時系列に即して、個々の社会的コンフリクトのフェーズことに記憶の動態分析も行ってきた。その場合、モーリス・アルヴァックスの概念設定に端を発し、ドイツのヤン・アスマンやアライダ・アスマンの概念装置などにも立脚しながら自覚的に記憶と忘却の反省的理論として整理することをめざしてきている。また、とくに本事業の取組みの焦点となるのは、メモリースタディーズの高度化によって獲得された知見や語彙の明示化であり、また記憶論的転回以後に起こっている歴史像の分断や二極化という劇症化したコンフリクトの分析であった。これまでにも、記憶に関するブレーンストーミングのワークショップなどを開催し、①国民国家の記憶に関するヨーロッパボーダーランド地域の個別研究、②戦後東アジアの記憶の再検討、③記憶と忘却の動態の理論化、④記憶と忘却のレキシコンの作成などに、ひとつひとつ取り組んできた。そうしたなかで、研究分担者からは、新たに意識化されたハザードスタディーズの一環としての記憶の語りや、近年のレイシズム再来現象についても、災害の記憶やコロニアリズムの記憶という論点として、積極的に組み込んでいくべきであるという提案があり、それらを通じて事業計画の視野はより豊かになってきている。
著者
岩崎 稔 八尾師 誠 今井 昭夫 金井 光太朗 篠原 琢 米谷 匡史 工藤 光一 小田原 琳 土田 環
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

東アジアを中心とした集合的記憶の動態を、「自己確証的想起」及び「脱中心化的想起」という対概念を方法論として解明した。また分析地域を拡大し、ジェンダー論等の具体的成果の再定義や表象文化分析を行った。その結果、集合的記憶の脱中心化的機能は、ナショナル・アイデンティティを相対化・異化し、支配・被支配関係を転換する効果を持つことが明らかになった。脱中心化的想起という視点を通して、正統的歴史叙述から排除された「消去された声」の再生だけではなく、集合的記憶の動態の中に起こりうるイデオロギーを超えた自己撞着や恣意的操作、アイデンティティポリティクスへの批判的な分析視点をより明確に提示できるようになった。
著者
飯利 忠男 荒井 晴彦 細野 辰興 志村 三代子 志賀 賢子 石坂 健治 アン ニ 土田 環 安岡 卓治
出版者
日本映画大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の柱ないし研究部会は以下の通りの構成となっている。①東アジア映画の基盤をなす映画フィルム等、歴史的文化資源の発掘と分析。②東アジア内外において国境を越えて活躍した映画人の人的交流、映画製作、教育、研究の軌跡の発掘と考察。③映画アーカイヴの構築と研究・教育・創作を結びつけて実践を重ねている内外の映画人からの聞き取り調査、討論。④東アジア映画学の理論構築に資する文献資料調査と分析考察。当該年度においては、①についてはポスト満映の所在地である中国の鶴崗で調査を行ったほか、福岡で開催されたフィルム・アーカイヴに関するワークショップ参加者への聞き取り調査を行った。②については昨年度に引き続き俳優の李香蘭(山口淑子)に関する資料の発掘と考察を行ったほか、俳優のブルース・リーをはじめとする東アジア映画における男性ヒーロー像についての研究を継続した。③については、東京国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭等の場を利用して東アジア映画について専門的な知識を有する日本の映画人への聞き取り調査や、韓国・中国・台湾・日本共同のドキュメンタリー映画制作プロジェクトの一環として各研究機関の専門家への聞き取り調査を行ったほか、1950年代以降の映画作品を通じた「アジア」と「西欧」の交流に関する美学的考察という視点からシンポジウムを開催した。④については、李香蘭に関する戦中・GHQ占領期の関連資料収集や国内外における文献資料調査のほか、日米合作映画の出演者へのインタビューを行った。