- 著者
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土谷 敏治
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.1, pp.111-135, 2013-03-30 (Released:2017-05-19)
本稿では,地方鉄道が第三セクター化される際の課題や問題点について,ひたちなか海浜鉄道を事例として検討した.具体的には,利用者に対して,乗降駅と乗車券の種類を特定した旅客流動調査を実施するとともに,属性,利用目的・利用頻度などの特色,同鉄道に対する評価について,利用者アンケート調査を実施した.また,市民の認識・評価については,市域全体を対象に市民アンケート調査を実施した.その結果,同鉄道は,勝田・那珂湊間の利用者が全利用者の半数程度を占め,とくに勝田乗降客の半数以上はJR線乗り継ぎ利用者で,その最大の目的地が水戸であることから,JR線をはじめとする地域の交通機関の連携が必要である.とくに,施設などハード面だけでなく,運行ダイヤや運賃制度などソフト面も含めた連携が重要であり,ヨーロッパにみられる運輸連合の導入が将来的な課題である.利用の中心は,沿線居住者や沿線に立地する高校への通学者で,それら利用者の利便性向上が重要であるが,土・休日を中心に相当数の観光客の利用がみられ,地方鉄道にとっては観光利用促進も経営上の課題である.市民の評価では,沿線と沿線以外で地域差はあるものの,財政的支援,今後の存続ともに市民の支持がえられていることが明らかになった.その背景には,広報紙や一般紙を通じた市民に対する行政の積極的な広報活動があり,その継続が求められる.このようなひたちなか市の事例は,公共交通機関の存廃問題を抱える多くの地域で参考になるだろう.