著者
大塚 浩仁 田中 健作 斉藤 晃一 森田 泰弘 加藤 洋一 佐伯 孝尚 山本 高行 後藤 日当美 山本 一二三
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会誌 (ISSN:00214663)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.148-154, 2015-05-05 (Released:2017-06-12)
被引用文献数
1

イプシロンロケットは2013年9月14日に惑星分光観測衛星「ひさき」の打上げに成功し,目標とした軌道投入精度を達成し,新規に開発した誘導制御系の性能を遺憾なく発揮した.イプシロン開発では,惑星探査機「はやぶさ」を投入したM-Vロケットの誘導制御系の性能を継承しつつ新たな技術革新にチャレンジし,M-Vの機能,性能をさらに向上させた誘導制御系を実現した.最終段には信頼性の高い低コストなスラスタを用いた液体推進系の小型ポストブースタ(PBS)を開発し,新たに導入した誘導則とともに軌道投入精度を飛躍的に向上させた.フライトソフトにはM-Vで蓄積した各種シーケンスや姿勢マヌーバ機能をユーティリティ化して搭載し,科学衛星ユーザ等の多様な要望に容易に対応できる機能を実現し運用性を高めた.
著者
田中 健作 井上 学
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.91-103, 2017 (Released:2017-08-12)
参考文献数
17

本稿では,バス路線運営における自治体間関係の特質を見出すために,中心集落規模の異なる中部地方の名張市周辺ならびに栄村周辺の2地域を事例に,山村の県際バス路線の運営枠組みを検討した。両地域ともに,周辺山村側の自治体や集落では,経済的機能や地形条件といった地理的な制約の下で受益を最大化させるために,生活圏や行政域に対応した領域横断的な交通サービスの設定を目指した。その際には県際バス路線に対する広域的な視点よりも,地域の中心周辺関係と行政域によって形成された利害関係が影響しているため,周辺性が高く財政力の弱い自治体ほど財政負担を増大させていた。自治体間のバス路線の運営枠組みは,地理的条件に基づく利害関係の差異によって,周辺性の高い山村側の負担や制約が大きくなる構造にあるといえる。
著者
久保 倫子 駒木 伸比古 田中 健作
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.76-90, 2020-03-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
80
被引用文献数
1

本研究は,高齢化と居住環境の悪化が進展する郊外住宅地の居住実態について,高齢者の身体・住宅,居住地域,さらに広域のスケールに着目し,高齢者の生活実態や生活上認識する不安,居住環境を総合的に分析することにより,高齢期に住み続けられる居住環境の実現に向けた課題を明らかにすることを目標とした.その一過程として,岐阜市郊外のK地区をとりあげた.特に本研究では,食生活,住宅の維持管理,居住地域の物質的・社会的環境, 広域的な活動および交通手段の考察に重点を置いた.その結果,事例地区の高齢者の多くは地域への愛着と自立した生活継続への希望を有しているが,身体,住宅,居住地域,より広域なスケールで不安や困難に直面しており,それらの克服に向けた調整を通じて住み続けられる条件を蓄えていることが明らかとなった.高齢化と都市縮退に対応した都市インフラ整備,サービス環境の充実,さらに高齢者の変化と多様性を踏まえた,総合的な議論が求められる.
著者
土谷 敏治 井上 学 大島 登志彦 須田 昌弥 田中 健作 田中 耕市 山田 淳一 今井 理雄 中牧 崇 伊藤 慎悟
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

超高齢社会において,モビリティ確保は重要な課題である.自動車依存が進展する中,公共交通維持の困難性が高まっている.本研究では,大都市圏縁辺部を中心に,市民の日常的な移動行動と公共交通機関の利用実績などの分析を通じて,公共交通機関の現状と問題点,公共交通機関利用促進の課題,新たな公共交通機関の可能性などについて検討した.その結果,茨城県ひたちなか市,埼玉県滑川町,徳島県上勝町,北海道函館市の調査によって,公共交通機関の利用者特性や利用実態,公共交通機関に対する市民の評価とその地域差,市民への情報提供の必要性,NPOによる新たな交通サービスの可能性,市民活動の重要性が明らかになった.
著者
田中 健作
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><u>1.研究目的と調査内容</u></p><p></p><p> 本報告では,高齢期のQOL構築とモビリティとの関係性を見出そうとする問題意識から,高齢化が急速に進む大都市圏郊外に焦点を当て,加齢によるモビリティ縮小への適応の実態を明らかにすることを目的とする。</p><p></p><p>研究対象地域は,報告者が2015年より調査を継続している京阪神大都市圏郊外のA市である。2018〜2019年にA市のXマンション(約450戸,エレベーター完備)に住む60歳以上の28人から,インタビューまたは質問紙による調査協力を得た。Xマンションすぐそばのバス停からは,商業施設と隣接した最寄駅との間を約10分で結ぶ路線バスが1時間に4本以上運行されている。交通利便性や居住環境の整備された,典型的な郊外住宅地域であるといえる。</p><p></p><p><u>2.年齢層別にみた外出行動</u></p><p></p><p> 年齢層別に外出頻度と範囲の概況を整理したところ,団地内・周辺および団地外ともに70歳代前半,70代歳後半,60歳代,80歳代の順に外出回数が多かった。70歳代前半の団地外移動回数の平均値は週5回,80代の団地外移動回数の場合は週3回程度であった。なお,最近半年間における外出や利用交通手段の変化は小さかった。70代前半の値の高さは,調査対象者に通勤者が相対的に多く含まれていたり,趣味としてフィットネスクラブに通う人がいたりしたことによるものであった。70歳代後半以上になると,歩行能力の低下により移動の難しくなる人があらわれてくる。</p><p></p><p>このように住民の加齢による外出行動の縮小は認められるものの,当該マンションは,加齢を伴っても,歩行に難がない限りは,週に複数日はマンション外に出かけてQOLを維持することができる環境にあるといえる。</p><p></p><p>また,当該マンションでは,住民主体の自治会活動やサロン開催が積極的に行われている。これら市民活動もまた,地域の交通環境とともに,加齢によってモビリティの縮小する住民のQOLの維持に寄与している。</p><p></p><p><u>3.加齢によるモビリティ縮小への適応</u></p><p></p><p> モビリティの基礎となる歩行状況をみると,加齢によるモビリティ縮小のモザイク化がうかがえる。すなわち,70代に入ると近隣の坂道歩行に苦をより感じるようになり,移動時間に余裕を持たせたり,乗り物利用を増やしたりする人が増えた70代半ばあたりから,過去10年間の徒歩移動の減少が認識されるようにもなっていた。ただし,加齢の進行や加齢への適応の個人差がより明瞭になる80代以上の場合,70代後半よりも坂道を苦に感じる人は相対的に少なかった。加齢の進行や加齢への適応の個人差によるものと推測される。</p><p></p><p>また,加齢によるモビリティの縮小は交通手段利用を分化させていた。これについて調査対象者の免許返納状況により,①運転中、②返納・失効・運転とりやめ、③元々免許なしの3類型に区分して検討した。</p><p></p><p>日常生活における外出回数および外出範囲の過去10年間の変化をみると,類型①と③は「縮小」と「変化なし」の二極化しており,類型②ではこれに外出回数に変化はないものの外出範囲を狭めている人が含まれていた。</p><p></p><p>徒歩を含む移動手段の変化をみると,バス交通の利用が相対的に増加し,電車利用が相対的に減少していることから,日常的な移動範囲は概ね最寄駅周辺からA市周辺の範囲に収斂しつつあると推測される。</p><p></p><p>移動手段全体でみると,各類型に共通してバス交通の利用が多くなっていた。このため,週に1回以上利用する乗り物の数は類型①,②,③の順に多くなっていた。増減に着目すると,①と③の増減幅は小さく,②では大きくなっていた。これは自家用車運転の取りやめと,それによるバスとタクシーの利用が大幅に増えたためである。当該地域は農山村に比べて移動環境が優れており,車の運転も比較的早くに取りやめることができる。交通サービスの発達は,週1回以上の外出を支えてきたことがわかる。</p><p></p><p> こうした移動方法の変化に対する満足度は,どの類型においても「やむを得ない」とする人が多かった。概ね,加齢によるモビリティ縮小を受容していることがわかる。②にのみ「やや不満足」や「不満足」が複数人みられ,主観的QOLに影響を与えている可能性がある。比較的元気なうちに運転を手放せるがゆえ,活動ニーズの高さとモビリティ縮小との間にミスマッチも生じやすいものと考えられる。</p><p></p><p>※本研究では科学研究費(課題番号18K12589)を使用した。</p>
著者
田中 健作
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.67-84, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
29
被引用文献数
3 4

本研究では,広島県北広島町大朝地区におけるデマンド型交通(DRT)のサービス供給方式と運営関係者の組織化過程を検討した。国や広島県の地域公共交通政策が変更される中,北広島町は,町村合併に伴う公共交通再編成を進め,DRTを導入した。北広島町大朝地区の場合は,多様なアクターがDRTの運営に関与し,利用特典を独自に設定したり,車両を積極的に利活用したりすることで経営基盤を強化させていた。こうした特徴を持つ大朝地区のDRTの運営関係者の組織化過程を考察すると,町は交通事業者側の経営自由度を高め,その下で大朝地区の交通事業者は,独自の運営方式を可能とする緩やかなネットワークを既往の地域的な諸関係を基にして構築していたことが判明した。そこでは,キーパーソンとなる交通事業者のH氏が,利用者の視点からサービスが向上されるよう,運行を支援する地区内の各事業者を位置付けていた。一方の運行を支援する各事業者も自らの活動のツールとしてDRTを位置付けた。これらの結果,交通経営と各アクターの事業の運営の双方にメリットが生み出されるようなサービス供給体制が構築されていた。
著者
田中 健作
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.4, 2011

1.はじめに<BR>本報告では,山村地域の公共交通運営の在り方を探るため,広島県三次市を事例として,市町村合併後の公共交通再編成の特徴を明らかにする.そのために,自治体の対応を軸に,各路線の配置形態や利用状況に加え,サービス生産に必要な各経営資源の存立形態等について検討する.<BR>2.広島県内の公共交通政策の動向<BR>規制緩和等により,シビルミニマムとしての公共交通を確保していくうえで,三次市をはじめ各自治体の役割はより重要になっている.広島県内の各市町の政策動向をみると,市町村合併後に,公共交通ネットワークの効率化と交通空白地域解消を目指し,国や県の公共交通再編支援策を活用しながら,各市町は山間部等の低需要地域を中心にデマンド型交通を,市街地への循環バス等を導入している.<BR>この結果,広島県内の過疎地域を多く抱える各地域では,公共交通への需要が低迷する中で,乗合バス事業者が主に広域的な輸送を,事業者の撤退した路線や市町内の輸送を自治体バス等が担っている.<BR>3.広島県三次市における公共交通の再編成<BR>このような下で三次市は,市町村合併後,旧町村間にあったバス運行形態のバラつきの解消や交通空白地域の解消を目指した公共交通再編成を進めている.<BR>はじめに,公共交通政策の変遷をみると,市は2005年3月の「三次市生活交通体系実施計画」の策定以降,2007年3月,2010年3月に相次いで公共交通再編計画を打ち出してきた.公共交通の全体的な利用者数が減少する中で,市は,広域的幹線であるJR線に加え,乗合輸送に関して,再編計画に基づき_丸1_事業者による広域生活路線(主に旧三次市を発着する地域間バス)を基幹部分に据え,旧町村部の無料福祉バス等を統合する輸送手段として新設した_丸2_市の自主運行する域内生活路線(市民バス),_丸3_市が商工会に運行を依頼する域内生活路線(デマンド),_丸4_住民組織により運営される市民タクシーを重層的に配置してきた.<BR>これらにより市は交通空白地域の解消を含むサービス平準化を目指した.その際に市は,高齢者の生活利用を前提に既往の無料福祉バス等の運行ダイヤを基本的に踏襲したが,一方で新たに利用者負担の原則を導入し,全路線を有償運行化した.なお,_丸2_~_丸4_の運行内容は輸送状況により継続的に見直されている.<BR>次いで,公共交通の利用者状況をみると,_丸1_事業者路線の利用者数が減少する中で,_丸2_~_丸4_の利用者数は小規模ながらも横ばいで推移しており固定客が中心であると考えられる.なお,_丸2_の市民バスの場合,通学利用を除くと,週に1~2回から月数回ほど利用する高齢者の利用が主となっている.<BR>さらに以下,経営資源の存立形態を各主体の役割や諸関係に着目してみていく.市は,赤字負担と企画立案部門に徹しており,さらに運行部門の主体を以下にみるように複数組み合わせることで,市は財政面や事務面での自らの負担を軽減しようとしている.市が主体的に設置する_丸2_~_丸4_をみると,_丸2_の場合,市は委託先である地元貸切バス事業者との間に長期的な業務関係が築けるよう,複数年契約を結び,他方では事業者路線(_丸1_)と遜色ない輸送単価に基づく契約金額を設定している._丸3_の場合,運営主体に据えられた地域社会側の主体である商工会が無償で運行管理や事業者間の調整を行っている.市はこの体制を長期的に維持するため,商工会側の要望した経営インセンティブを後に設けた._丸4_の場合,経営資源として自治機能が位置づけられ,インセンティブの設定のない住民参加の運営体制を制度化している.しかし,住民組織の高齢化等,継続的に事業を進めるための課題も残されている.<BR>4.まとめ<BR>以上より三次市の公共交通再編成の特徴には,各路線が重層的に配置されていること,市が運行部門との間に長期的に安定した協働的契約ともいうべき業務関係を結ぶとともに,部分的には地域の社会的基盤も活用していることが挙げられる.しかし,運行部門に関する課題が一部に残されていることも確認される.<BR>これらを踏まえると,山村地域における自治体の公共交通運営において,行政の企画立案能力や財政負担とともに,各運行部門が継続的に事業に取り組めるような枠組み作りが重要になっていると考えられる.
著者
井上 学 田中 健作
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<u>1.はじめに</u><br><br> 乗合バス事業は、明治期の末頃から大正期にかけて始まった。1923(大正12)年の関東大震災の復興に際し、東京市で大規模な路線網によって運行されたことが契機となり、全国的に乗合バス事業が拡大したといわれている。ただし、それら路線網の展開や事業者の参入などの状況については、事業者が発行した社史や事業沿革などの資料に限られ、全国的な事業の開始と展開は明らかにされているとは言い難い。これは、事業開始当初から現在に至るまで、日本全国の事業者や路線網がほぼ明らかにされている鉄道事業と大きく異なる。そこで、乗合バス事業の初期段階における路線網の復原とその特性を明らかにすることを本発表では試みる。くわえて、当時の資料の有用性についても言及したい。<br><br><u>2.使用した資料の特徴</u><br><br> 乗合バス事業の許可については、実質的に各府県が扱っていたが、事業者間競争が激しくなったため、1931年の自動車交通事業法の制定によって鉄道大臣が管理することになった。そのような背景を持って発行されたのが鉄道省編による『全国乗合自動車総覧』(1933)である。本資料は全国のバス事業者と路線、事業規模等などが収められている。路線の空間情報として、起終点については地番までの住所が記載されているものの、経由地は数カ所の地名のみである。路線図についても簡略化された図が添付されているがすべての事業者が記載されているわけではない。<br><br> 一方、大阪毎日新聞社発行の『日本交通分県地図』は東宮御成婚記念として1923年の大阪府から1930年の新潟県まで北海道を除く府県版が発行された。バス路線も記載されているが、事業者名は記載されていない。また、各府県版が同時期に発行されたのではないし、発行順序も地域ごとにまとまって発行されていない。そのため、資料の統一性には欠けるものの、当時の道路網や鉄道路線などバス路線網と比較検討しやすい特徴を持つ。<br><br> そこで、本発表では両資料を用いて当時の路線網の復原を試みた。今回は中部地方の4県(長野県、岐阜県、静岡県、愛知県)を対象とした。<br><br><u>3.バス路線網の特性と資料の有用性</u><br><br> 『日本交通分県地図』の発行時期は長野県・岐阜県(1926年)、愛知県(1924年)、静岡県(1923年)と近接しているが、路線網は各県によって大きく異なった。岐阜県や愛知県では路線網が全県的に広がっているが、長野県や静岡県は局所的にとどまる。『全国乗合自動車総覧』で路線の開設時期を検討すると、静岡県では昭和に入ってから路線の新設が相次いでいる。つまり、乗合バス事業の普及と展開は全国均一に広まったのではなく、地域や時期によって大きく異なる点が想定される。<br><br> 路線網については都市や集落間、街道で運行される路線、鉄道駅から周辺集落への路線、鉄道駅同士を短絡する路線や鉄道と競合する路線も見られた。鉄道にくらべてバスは細かい地域を回ることができるという特性が、すでにこの時点で活かされていたといえよう。<br><br> このように、発行時期の不一致と事業者名がない『日本交通分県地図』と空間情報の解釈が難しい『全国乗合自動車総覧』の2つの資料を用いることで、当時のバス路線網の復原には一定程度有用である点が認められた。ただし、『全国乗合自動車総覧』には消滅した事業者がないため、記載されている事業者が必ずしも運行開始時点からその事業者名であったかについては明らかにできないという限界も見られた。この手法を用いて今後は全国的な路線網の復原を目指す。