著者
坂 紀邦 寺島 竹彦 工藤 悟 加藤 恭宏 大竹 敏也 杉浦 和彦 遠藤 征馬 城田 雅毅 林 元樹 中嶋 泰則 伊藤 幸司 井上 正勝 加藤 博美
出版者
愛知県農業総合試験場
雑誌
愛知県農業総合試験場研究報告 = Research bulletin of the Aichi-ken Agricultural Research Center (ISSN:03887995)
巻号頁・発行日
no.41, pp.165-175, 2009-12

「中部糯110号」は、2008年に愛知県農業総合試験場山間農業研究所(農林水産省水稲育種指定試験事業)において育成した水稲糯品種である。その来歴、特性は次のとおりである。1.1990年、愛知県農業総合試験場山間農業研究所において「愛知糯91号」を母本とし、「イ糯64」を父本として人工交配した後代から育成した。交配の翌年、圃場でF1を養成し、1995年F5世代で個体選抜し、その後、系統育種法により選抜・固定した。2.本種は、早生の糯種で、草型は偏穂重型の強稈種である。収量は「ココノエモチ」よりも優れる。千粒重はやや重く、玄米の外観品質は良好で、餅の食味は粘りが強く、味、外観に優れ良い。3.縞葉枯病に抵抗性で穂いもち抵抗性も優れる。
著者
杉浦 直樹 辻 孝子 藤井 潔 加藤 恭宏 坂 紀邦 遠山 孝通 早野 由里子 井澤 敏彦
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.143-148, 2004 (Released:2004-09-18)
参考文献数
9
被引用文献数
24 28

水稲新品種育成のために開発されたイネ縞葉枯病および穂いもち抵抗性マーカーを利用した連続戻し交雑法により,両抵抗性を付与したコシヒカリ準同質遺伝子系統の作出を行い,連続戻し交雑育種におけるDNAマーカーの有効性の検証を試みた.従来から用いられている両抵抗性の生物検定に替えてDNAマーカーを用いることにより,外的要因の影響を受けることなく,精度の高い抵抗性個体の選抜が可能となり,効率的な連続戻し交配を進めることができた.また,共優性マーカーを用いることにより,抵抗性ホモ個体を確実に選抜でき,有望系統の早期固定につながった.作出した準同質遺伝子系統「コシヒカリ愛知SBL」はイネ縞葉枯病および穂いもちに対する抵抗性を有し,かつ,他の諸形質はコシヒカリと同等であった.DNAマーカーを取り入れた育種法により,育種年限の短縮・効率化,並びに確実な抵抗性の導入が両立でき,マーカー選抜育種の有効性を実証できた.
著者
藤井 潔 早野 由里子 杉浦 直樹 林 長生 坂 紀邦 遠山 孝通 井澤 敏彦 朱宮 昭男
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.203-210, 1999-12-01 (Released:2012-01-20)
参考文献数
34
被引用文献数
10 17

イネ縞葉枯ウイルス (RSV) 抵抗性の日本型水稲品種「月の光」および同じくRSV抵抗性をもつその姉妹品種「朝の光」が有する穂いもち抵抗性の遺伝子を同定するため, これら品種と感受性品種との交雑F1, F3およびF4を用いて穂いもち抵抗性に関する遺伝子分析を行った.「月の光」と感受性の「あ系他494」とのF1における穂いもち罹病籾率の逆正弦変換値は, 「月の光」のそれと有意差がなく, 穂いもち抵抗性が優性形質であることが明らかになった. 一方, 「朝の光」と感受性品種の「コシヒカリ」とのF3119系統は, 朝の光型固定系統, 分離型系統およびコシヒカリ型固定系統の明瞭な3群に分類され, その比は1遺伝子分離の期待比1: 2: 1に適合した.また, 「月の光」と感受性品種の「黄金晴」とのF460系統は, 月の光型固定系統, 分離型系統および黄金晴型固定系統に分類され, その比は1遺伝子分離の期待比3: 2: 3に適合した. これらの結果と, 「月の光」と「朝の光」の育成歴から, これら2品種の穂いもち抵抗性は同一の優性主働遺伝子に支配されていると考えられた. この穂いもち抵抗性遺伝子は, その作用力からみて新規の遺伝子とみなせることから, Pb1と命名した. Pb1とRSV抵抗性遺伝子Stvbiとの連鎖分析を, 両抵抗性を欠くコシヒカリと両抵抗性を持つ朝の光とのF3119系統を用いて行ったところ, 両抵抗性遺伝子は組換価5.2±1.5%で連鎖していることが明らかとなった. また, 月の光/黄金晴のF460系統, 葵の風の育成過程で得られたRSV抵抗性と感受性の姉妹系統6種を用いた分析でも, 両抵抗性遺伝子間の連鎖が確認された.
著者
杉浦 和彦 坂 紀邦 工藤 悟
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.30-35, 2005-03-05
被引用文献数
2 3

糯米は切り餅, 米菓に加工されることが多いため, 食味及び加工適性が重視されている.加工適性のうち餅硬化性は, 製造時間の短縮につながる品質要因として重要視されている.そこで, 良品質な糯品種を簡易に育種選抜するために餅硬化性及び食味の簡易評価法を検討した.餅硬化性の評価法にはラピッド・ビスコ・アナライザーを用いた方法がある.しかし糯米の場合, 内生α-アミラーゼ活性を抑えるため, 劇物である硫酸銅が主に使用されている.そこで, 劇物を用いない方法として塩化ナトリウムの添加を検討したところ, 硫酸銅水溶液と塩化ナトリウム水溶液の各糊化特性値に相関が認められた.一方, 糊化開始温度及びピーク温度と餅硬化性との間に相関が認められたため, 両温度は餅硬化性の選抜指標となると考えられた.玄米タンパク質含量は食味総合評価, 滑らかさ, うま味及び粘りとの間に有意な負の相関が認められた.このことから, 玄米タンパク質含量が低い品種・系統ほど切り餅食味が優れることが示唆された.玄米タンパク質含量は, 近赤外分析計により少量で推定が可能であるため, 切り餅食味の優れる糯品種育成の一次選抜の指標となると考えられた.