著者
坂本 穆彦 廣川 満良 伊東 正博 長沼 廣 鈴木 理 橋本 優子 鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.265-268, 2021 (Released:2022-02-22)
参考文献数
18

筆者らの内,筆頭著者より6名は福島県県民健康調査の病理診断コンセンサス会議にて,各症例の病理組織診断を担当している病理医(病理専門医・細胞診専門医)である。福島第一原発事故(2011年3月)後の福島県民健康チェックのための福島県県民健康調査では,チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺癌の多発という教訓を踏まえた任意の小児甲状腺超音波検査などが施行されている。悪性ないし悪性の疑いとされた場合は,必要に応じて手術が勧められる。この県民健康調査については,調査対象の設定が不適切で,不必要な検査が行われている可能性があるという声があり,その立場からは,県民健康調査が過剰診断(overdiagnosis)であると批判されている。この過剰診断という語は病理医や細胞診専門家は良性病変を癌と診断する様な誤診を示す場合のみに用いている。このように,用語や定義の使用法にくい違いがあるままで用いられるため,種々の誤解が生じている。本稿では県民健康調査そのものの是非を論じることは目的としていない。筆者らの意図は,過剰診断および過剰手術/過剰治療についての定義・用法に関しての病理医と疫学者双方に立場の違いがあることを示し,今日の混乱の解決策を論じることにある。
著者
坂本 穆彦 逸見 正彦 田﨑 和洋 橋本 優子
出版者
特定非営利活動法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.528-531, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
19

2011 年 3 月に発生した東日本大震災による東京電力 (株) 福島第一原子力発電所の事故後, 放射性ヨード (I-131) をふくむ種々の放射性物質が環境中に放出された. この中でもチェルノブイリ原発事故によるデータを参考にすると, 放射性ヨードによる小児甲状腺癌の誘発が危惧された. そのため, 政府ならびに県は福島県立医科大学を拠点とする福島県県民健康管理調査事業の柱の一つに甲状腺検査を設定した. すなわち, 原発事故発生時に 18 歳以下であった全県内居住者約 36 万人をその対象としてスクリーニングのための甲状腺超音波検査をスタートさせた. このうち, 精密検査が要請された場合には, 甲状腺穿刺吸引細胞診が行われる. 2014 年 3 月までに 1 巡目の検査が先行調査として行われ, その後は 5 年ごとの本格調査に移行する. 現在は先行調査が進行中であるが, すでに 75 人が細胞診にて悪性ないし悪性の疑いと判定された. このうち手術をうけた 34 名中 33 名に乳頭癌が見出された. これらの乳頭癌が放射線誘発癌か否かは現段階では判断は困難であり, 今後の推移の中で考察される. 本稿では原発事故に対してとりくまれている健康管理調査の中で甲状腺細胞診が果たしている役割について紹介する.
著者
荒井 祐司 都竹 正文 坂本 穆彦
出版者
特定非営利活動法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.109-114, 1997-03-22 (Released:2011-11-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

組織学的に確定診断の得られた甲状腺低分化型乳頭癌13症例と甲状腺高分化型乳頭癌17症例の穿刺吸引細胞診標本より両型の細胞像を比較し, 低分化型の細胞学的特徴を明らかにすることを目的として検討を行った.低分化型の細胞学的特徴は, 1. 小集塊での出現が主で, 孤立散在傾向も認められる. 2. 集塊は, 細胞配列の乱れと重積性が強く, 一部には結合性の低下 (ほつれ) が認められる. 3. 核は高分化型より大型で楕円形が主体, 大小不同性が強い. 4. 同一標本上に, 高分化型の集塊の出現を認めることがある.また, 正常および良性濾胞上皮細胞, 高分化型, 低分化型との核の形状の比較を行った結果, 核の大きさ, 大小不同性, 核形 (核の丸さ) において濾胞上皮と高分化型および低分化型の間に有意差が認められ (t-検定), 核の形態からも鑑別が可能であることが示唆された.
著者
坂本 穆彦
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.23-27, 2022 (Released:2022-05-24)
参考文献数
24

2011年3月の東日本大震災にひき続いて発生した東京電力第1発電所事故は,その後にいくつもの大きな問題を残した。その1つが小児甲状腺癌発生の危惧であった。これに対し,福島県は福島県「福島県民健康調査」の中で甲状腺検査を施行し,今日に至っている。本稿ではこれまでの甲状腺検査の病理診断(細胞診・組織診)について概略を示す。直近のデータでは,細胞診で“悪性”ないし“悪性の疑い”と判定された266例中,222例がすでに手術をうけた。手術検体の組織学的検索結果によれば,乳頭癌218例,濾胞癌1例などであった。高線量被曝のチェルノブイリ症例と比べるといくつかの相違点がみられている。この調査について“過剰診断”であると批判する立場がある。その意味はわれわれ病理診断に携わる者が用いる“過剰診断”とは異なっている。“過剰診断”という用語の定義と用い方に統一性がない。この解離への対応につき,疫学者とは異なる立場に立つわれわれの見解を示したい。
著者
坂本 穆彦
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.104-107, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
10

日本甲状腺学会は2013年8月に「甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013」を刊行し,その中で穿刺吸引細胞診分類を提起した。わが国ではすでに作成当時の国際標準に準拠した甲状腺細胞診判定基準が「甲状腺癌取扱い規約」第6版(2005年)に掲載されており,このたびの日本甲状腺学会のガイドライン刊行によって,わが国にはあたかも2つの細胞診判定基準が生じたかの様な状態となった。他方,「甲状腺癌取扱い規約」は近年改訂されることになっており,ここでは2008年に米国より示されたベセスダ・システムに基づいた変更が行われる。このことは,「規約」刊行母体の日本甲状腺外科学会ではすでに機関決定されている。この様な状況をふまえ,本稿ではベセスダ・システムの概容と意義について概説する。甲状腺細胞診の判定基準が国内に複数存在するという事態は是非とも回避されねばならない。