著者
松永 昌宏 金子 宏 坪井 宏仁 川西 陽子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.135-140, 2011-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本研究では「幸福感」に着目し,幸福感の脳神経基盤および幸福感が脳と身体の機能的関連に及ぼす影響を明らかにすることを試みた.実験の結果,高幸福群では低幸福群に比べて,ポジティブ感情喚起時の内側前頭前野・腹側線条体(脳内報酬系)活動が有意に高く,報酬系活動を抑制する末梢炎症性サイトカイン濃度が低いことが明らかとなった.また,カンナビノイド受容体遺伝子多型と幸福感との関連を解析した結果,カンナビノイドの受容体に対する結合能が高いCC/CT遺伝子型群では,TT群よりも主観的幸福感が高いこと,末梢炎症性サイトカイン濃度が低いこと,そして内側前頭前野活性が高いことが示された.本研究から,幸福感を維持するメカニズムとして脳内報酬系機能,炎症性サイトカイン,内因性カンナビノイドの関連が示唆された.本研究の研究成果から,今後心身の健康を維持するための予防医学的アプローチなどが展開されていくことが期待される.
著者
坪井 宏仁 近藤 克則 金子 宏 山本 纊子
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-7, 2011 (Released:2014-07-03)
参考文献数
46

心疾患は、本邦では悪性新生物に次ぐ死因の第2位を占め、その多くが「冠動脈疾患(coronary heart disease, CHD)」である。CHDのリスクファクターとして、高血圧・高脂血症・糖尿病など生活習慣に基づくものが一般に知られているが、心理的・社会的・経済的因子も無視できない。多くの欧米諸国では長年にわたり心疾患が死因の第1位であるため、その原因と予防に関する研究も多く、CHDと心理的社会的因子や社会経済的因子に関する研究結果が多く得られている。わが国でもライフスタイルの変化により動脈硬化病変がさらに増加し、CHD罹患率やそれによる死亡率の上昇することが予測される。その予防において、個人の生活習慣以外にCHDの重要なリスクファクターである社会経済的要因を把握することも重要であろう。わが国は、高度成長時代を経て平等と言われる社会を築いてきたが、1990年代後半以降は個人間の社会経済的格差が広がっている。その変化の長短は視点によって異なるところであろうが、社会経済的格差が健康に影響を及ぼすのであれば、格差の変革が疾病予防にもつながるはずである。そこで本稿では、CHDと社会経済的状況(socioeconomic status, SES)の関係について、まず両者の関係を述べ、次に両者をつなぐメカニズムを主に心理社会的側面から触れ、最後にCHD予防の可能性を社会的側面から考察した。CHDは、冠動脈壁に経年的に形成される内膜の肥厚病変とその破裂により発生し、原因は酸化・炎症や交感神経系の亢進などである。一方、SESは収入・教育歴・職業(職の有無、職場での立場も含む)などから成り、さまざまな経路でCHDに影響すると考えられる。健康行動はSESによって差があり、高SES層ほど健康によい行動を取る傾向にある。その差が、健康増進資源・医療へのアクセスの違いにつながり、CHDの発症および予後に影響する。次に、心理社会的経路であるが、この経路では、心理的・社会的特性の差異が自律神経・内分泌・免疫系を介してCHDの成因に影響する。低SES層には、慢性ストレスやライフイベントが多く、抑うつ傾向・怒り・攻撃性・社会的孤立などが認められる一方、高SES層ではコントロール感や自己実現感が高い。このような差違が、視床下部-下垂体-副腎皮質(hypothalamic-pituitary-adrenal, HPA)系または交感神経-副腎髄質(sympathetic-adrenal-medullar, SAM)系を介し、炎症・酸化・血糖の上昇・交感神経系の亢進に影響し、長年の間にCHDイベントのリスクが高まる。また、両親および幼少期のSESが、HPA系およびSAM系の反応を脆弱にしたり、成人後の行動的・心理社会的リスクファクター(喫煙・運動不足・攻撃性・職場での緊張・不健康な心理状態など)に影響を与え、CHDに影響を及ぼす可能性も示唆されている。さて、CHDの予防は、生活習慣予防として特定健康診査・特定保健指導により個人および職場レベルで2008年より行われている。しかしSESとCHDの関連性を考慮すると、社会レベルでの予防策も必要であろう。WHOは、健康を決定する社会的要因として「社会経済環境」「物理環境」「個人の特性と行動」を挙げている。このうち、社会経済環境を整備することがCHD予防につがなる可能性を示した。教育による介入、社会保障制度の整備、人生の節目でのサポートなどが有効であろうことが海外の研究で示されている。SESを改善しCHDを予防する戦略には、エビデンスに基づいた社会疫学的研究が必要であろう。
著者
木村 和子 谷本 剛 坪井 宏仁 吉田 直子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、カウンターフィットドラッグ(偽造薬)について、グローバル化の現状を発展途上国(カンボジア)側から検証した。その結果、先進国と発展途上国における偽造ターゲットは同じだが、実際の偽造薬の発生は、具体的製品、地域とも当該国の流通状況を反映していた。また、発展途上国では、品質不良医薬品の蔓延が非常に深刻であり、製造・流通環境の改善が喫緊であることが明示された。