著者
堀内 義隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.175-187, 1962-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
22

1) 環濠集落は古くから研究された集落であるが,今日なお幾分の問題が残されている.奈良盆地全域に分布する多数の環濠は,他府県のものに比べて,地域性において多少の類似性が認められるとしても,低湿地集落と一概に規定することは困難であると考える.少なくとも現在完全な形で残存しているものは,高度的にも機能においても,若干の相異があると思う.盆地の地域性として水旱両側面をあげることができると思うが,少なくとも環濠の継続的条件より考察するとき,旱ばつ環境との関連性が強く,部落によつては主要な用水源であつた. 2) 環濠は部落周辺の用水系統の一環をなすもので,今日完全な形態の環濠においては,部落としての用水統制は厳重である.貯水量はわずかでも繰り返して利用できることは溜池以上で高く評価されるべきである.環濠集落では一般的に用水に恵まれず,他村に依存せねばならない部落が多く,このような地域ではとくに価値は大きい.この環濠は,さらに貯水兼水路的機能をもつ点に,今日まで継続された要因の一つがあると考える. 3) 水利の近代化に伴つて,環濠の機能が主要用水源的立場より,補助水源へと推移して行く傾向がみられ,これに伴つて堀が次第に耕地,道路,屋敷地などに変化している.この傾向は用水の豊富な地域でもつとも早く行なわれたようで,最近では昭和初期頃から強くあらわれてきた.