著者
堀籠 崇
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.239-250, 2010-10-29 (Released:2010-10-27)
参考文献数
31
被引用文献数
2

本研究の目的は,占領期におけるインターン制度の形成過程という歴史的フィルターを通じて新医師臨床研修制度の課題を明示するところにある。そこで本研究では,インターン制度の狙いの解明に焦点をおく。本研究が用いた資料は,第一にスタンフォード大学フーバー研究所所蔵のSylvan E. Moolten Papers,1945-1986である。本資料により,インターン制度導入意図を解明し,医学教育審議会(CME)内部の連合国最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)と日本側委員との関係性を再検証した。第二に国立国会図書館憲政資料室所蔵のGHQ/SCAP Record内の公衆衛生福祉局(PHW)文書である。本資料に含まれるCME議事録の精査から,CMEの発したインターン制度構想について明示した。結果は次の通りである。インターン制度の真の狙いは,地域医療と医学教育システムとの融合による,最新医療の市民への還元及び開業医のレベルアップにあった。それは,インターン制度を通じた学閥解体とともに国立メディカルセンター計画による医療提供システムの再構築により果たされる予定であったが,前者の,制度としての練りこみ不足と,後者の頓挫とによって失敗に終わった。この結果より,新臨床研修制度が医療提供システムに与える影響の検討と,日本の医療システム全体をいかにデザインするかという視点からの当該制度の見直しの必要性が示唆された。
著者
堀籠 崇
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-25, 2009
参考文献数
77

本稿では、現在日本の医療提供システムに関して、占領期医療制度改革においてGHQの及ぼした影響が大であったという立場から、とりわけ戦後の医療提供体制における公私ミックスのあり方についてのGHQの考えと、それを受けた日本政府の方針選択に焦点を当てて、歴史的な検討を試みた。GHQは公私ミックスに影響を及ぼす直接的な、医療機関の整備・普及策は指示しなかったものの、米国調査団を招聘し、政策方針を決定する際に基礎となり得る考えを提示した。GHQは日本政府の政策方針選択の際、表面上ニュートラルな立場をとったものの、それは本意ではなかった。GHQはその根本に「医師の独立性と医療政策における医師の指導的地位の確保」を医療政策理念として保持し、事業税問題における医師擁護、医薬分業の推進を進めた。一方日本政府はこうしたGHQの医療政策理念を受けつつ、これと合致する形で、日本国内の各種医療政策アクターの利害調整を行った。その結果、戦後当初日本政府が選択した公(特に国)主導の医療提供体制は、質的転換を遂げることとなったのである。