著者
高山 一夫
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.13-26, 2014-12-01 (Released:2017-09-15)

本稿では、TPPを事例に、自由貿易協定FTAが医療制度に及ぼす影響について考察する。TPPは、各国の薬事制度の見直しや知的財産権の保護強化などにより、薬価高騰や医薬品アクセスの制限をもたらすことが懸念される。FTAが医療制度に望ましい成果をもたらすためには、情報の公開とステークホルダーの参加、客観的な政策評価の実施、各国の主権及びグローバルな健康の衡平への配慮といったガバナンス上の取り組みが必要である。
著者
松田 亮三
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.41-52, 2017 (Released:2017-03-10)

よりよき政策形成につながるような政策分析は、いかになされるべきであろうか?本論文は、政策研究という領域の概念とその類型、特に実証主義的研究とポスト実証主義的研究を概観し、さまざまな政策分析の潮流 ―― 政策への助言、民主制への貢献、難しい問題への折り合いの発見、批判―とそれがもつ政治的性格についての議論を紹介した。それをふまえて、日本での医療政策分析のあり方を検討する重要性を指摘した。
著者
鶴田 禎人
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.33-40, 2017

本稿では、計量テキスト分析によって、地域包括ケア研究の動向と今後の課題を明らかにした。まず、地域包括ケア研究が、介護・医療保険制度改革といった政策動向に追従して、量的に増加していることを指摘した。また、内容的には医療、介護、連携、首都圏の分析に偏っており、政策的な展開が不十分である低所得者、周辺地域、住まい、生活支援については研究がほとんど進んでおらず、今後の課題となることを明らかにした。
著者
山本 惠子
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.52-73, 2007-06-15
被引用文献数
1

イングランドでは地方エリア協約(LAA)が2007年から実施に入っている。本稿は中央-地方関係の視点からLAAの構造,「より健康なコミュニティと高齢者」,ハックニーとニューアムのLAAを考察している。そこではナショナル-リージョナル-ローカルのマルチレベルのガバナンスが貫かれ,地方自治体には信賞必罰の形態がとられ,健康の不平等対策の優先順位は低い。中央政府と近隣地域との間に位置するリージョンが重要になると思われる。
著者
松田 亮三
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.17-27, 2016-03-01

医療機構を集合的行為と共通の目的によって舵取りしていく過程を、医療機構の統治のあり方(ガバナンス)の問題と位置づけ、皆保険体制成立後の1970年代を中心に日本における医療供給についての統治のあり方を検討した。そこでは、価格の定められた拡大規制の緩やかな市場と多様なアクターが関与するネットワーク調整が認められた。
著者
井口 克郎
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.5-32, 2017 (Released:2017-03-10)

2012年8月に成立した社会保障制度改革推進法に基づき、介護分野では介護保険サービス給付抑制策(制度後退)と、介護の役割を家族や近隣の「自助」「互助」へ押し戻す施策がいっそう進められている。本稿は、2012年9月に筆者が三重県津市白山地域で実施した「白山地域の地域医療・保健・福祉に関する調査」(対象者3106名、回収率91.6%)の回答者中から、家族介護をになう在宅介護者を中心にその状況(就業状態、労働時間、介護時間、所得、健康状態等)を考察した。その結果、多様な背景からすでに在宅介護者の疲弊が進んでいる実態が明らかになった。その実態から、在宅介護者および要介護者の健康権としての公的介護保障制度の確立・拡充の必要性と方向性について提起した。
著者
井口 克郎
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-27, 2013-03-30
参考文献数
26

介護保険導入以降、介護現場では働き手の確保とケアの質向上が課題となっており、介護の質を評価しそれを労働者の待遇へ反映させる試みが進行している。しかし介護サービスのあり方は本来、労働者の能力だけでなく施設形態や分業体制、労働者の労働条件、延いてはそれらを規定する制度・政策に左右される。以上を筆者による介護労働者のタイムスタディ調査等から明らかにし、ケアの質の把握・向上のために必要な視角を提示する。
著者
松田 亮三
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.3-12, 2014-12-01

医療機構へのグローバル化の影響は医薬品等の限定的な範囲でもっぱら議論されてきた。しかし、メディカル・ツーリズムの急激な台頭や包括的自由貿易協定の拡大にあるように、各国医療機構・体制へのグローバル市場の影響はより深くまた大きくなっていく趨勢にある。本論文はグローバル化が医療政策にどのような影響をもたらすか、各国の医療機構・政策がどのような課題に直面しているか、について概観した。まず、グローバル化を地球規模の相互依存性が増大する過程として把握した上で、その過程において福祉国家は動揺しつつも、基本的には存続しており、医療はその重要な構成部分であり続けていることを指摘した。次いで、グローバル化の医療への影響を、金融、労働、医薬品、医療サービス、知識・情報、理念について検討し、それらの多様で複雑な影響を考察した。最後に、グローバル化の中で特に競争の激化や国際的規制環境の変化により、グローバルな議論と圧力をふまえつつ各国の医療政策を形成することがより強く求められるようになってきている点を指摘した。
著者
堀籠 崇
出版者
日本医療経済学会
雑誌
日本医療経済学会会報 (ISSN:13449176)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-25, 2009
参考文献数
77

本稿では、現在日本の医療提供システムに関して、占領期医療制度改革においてGHQの及ぼした影響が大であったという立場から、とりわけ戦後の医療提供体制における公私ミックスのあり方についてのGHQの考えと、それを受けた日本政府の方針選択に焦点を当てて、歴史的な検討を試みた。GHQは公私ミックスに影響を及ぼす直接的な、医療機関の整備・普及策は指示しなかったものの、米国調査団を招聘し、政策方針を決定する際に基礎となり得る考えを提示した。GHQは日本政府の政策方針選択の際、表面上ニュートラルな立場をとったものの、それは本意ではなかった。GHQはその根本に「医師の独立性と医療政策における医師の指導的地位の確保」を医療政策理念として保持し、事業税問題における医師擁護、医薬分業の推進を進めた。一方日本政府はこうしたGHQの医療政策理念を受けつつ、これと合致する形で、日本国内の各種医療政策アクターの利害調整を行った。その結果、戦後当初日本政府が選択した公(特に国)主導の医療提供体制は、質的転換を遂げることとなったのである。