著者
松井 裕之 多田 隆治 大場 忠道
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.221-233, 1998-07-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
50
被引用文献数
49 73

最終氷期極相期における日本海低塩分化事件を定量的に説明し,陸橋成立の可能性を議論するために,浮遊性有孔虫殻酸素同位体比から日本海表層水古塩分変化を復元した.そして,復元した古塩分変動を定量的に説明するために,塩分収支モデルを用いて日本海へ流入する海水量の時代変化を計算し,それをもとに海峡水深の時代変化を推定した.その結果,LGMにおける対馬海峡の海峡水深は2~9mと見積もられたが,この値は海峡内の海底地形から直接的に推定された値10~30mよりやや浅い.海底地形に基づく海峡水深推定値と調和的な解を求めるためには,古塩分見積値を誤差範囲内で大きめにした上で,対馬海峡における流速を現在の半分まで弱める必要があり,この場合,LGMの推定海峡水深は~10mと求まった.また,最終氷期極相期における海水流入量は500km3/y以下と推定される.このようなわずかな海水流入量は,津軽海峡での潮汐流による海水交換でも説明できることから,最終氷期極相期に対馬海峡が漂砂により埋積した場合,ごく短期間陸橋が成立した可能性を否定できない.
著者
青木 かおり 入野 智久 大場 忠道
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.391-407, 2008-12-01 (Released:2012-03-26)
参考文献数
45
被引用文献数
22 50

本研究は,鹿島沖から採取された長さ約46 mのMD01-2421コアに介在する23枚のテフラについて,岩石学的記載と火山ガラスの主元素組成分析を行い,既知のテフラとの対比を試みたものである.その結果,九州起源のATとAso-4,御岳山を給源とし中部~東北地方に広く分布するOn-Pm1,北関東に分布するAg-KP,南関東に分布するHk-TP,立山カルデラ起源のTt-D,福島県南部と茨城県北部で対比されているNm-Tgが同定された.また,本コアで得られている高分解能の底生有孔虫の酸素同位体層序を使用して,各テフラの噴出年代を算出し,SPECMAP年代に伴う誤差も合わせて示した.対比された7枚のテフラの噴出年代を,報告されている放射年代や花粉分析や海水準変動史から予想されていた噴出年代と比較して議論した.これらはMIS 6.3以降の中部から東北地方南部の標準となるテフラ層序を提供するものである.
著者
大場 忠道
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.115, no.5, pp.652-660, 2006-12-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
11
被引用文献数
4 8

Five distinct paleoenvironmental changes in the Japan Sea over the last 95 ka are revealedfrom the oxygen and carbon isotopes of foraminiferal tests in a piston core recovered from the Oki Ridge. Between 95 and 27 ka, the warm Tsushima Current did not flow into the Japan Sea.The environment at the seafloor fluctuated between anoxic to weakly oxic conditions. Between 27and 17 ka, freshwater input to the Japan Sea, probably from the surrounding land, stratified the water column, and the resulting severe anoxic conditions eliminated most benthic fauna. Between 17 and 10 ka, the cold Oyashio Current flowed into the Japan Sea through the Tsugaru Strait, reestablishing deepwater ventilation. Between 10 and 8 ka, bottom conditions changed from anoxic to oxic. At 10 ka, the warm Tsushima Current started to flow into the Japan Seathrough the Tsushima Strait, establishing the modern oceanographic regime at 8 ka.From high-resolution oxygen and carbon isotope analysis of both benthic and planktonic foraminifera from an IMAGES core collected from off Kashima, central Japan, very large (20°C) sea surface temperature (SST) fluctuations can be reconstructed for the last 150 kyr, with minimum SSTs of 3-4°C during Marine Isotope Stage (MIS) 2 and MIS 6/5e transition, and with peak SSTs of 22-23°C during early MIS 1 and MIS 5a/4, 5c/5b, and 5e/5d transitions. The SSTs varied in parallel with changing carbon isotope differences between Globorotalia inflata and Globigerina bulloides, which suggests that the SST changes were primarily caused by latitudinal displacements of the Kuroshio-Oyashio Currents. A strong correlation between the SST shifts and orbital forcing indicates that latitudinal displacements of the Kuroshio-Oyashio Currents were influenced by summer insolation at 65°N.
著者
大場 忠道 Banakar Virupaxa K.
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.223-234, 2007-06-01 (Released:2008-08-21)
参考文献数
56
被引用文献数
6 7

深海底堆積物コア中の底生有孔虫殻の酸素同位体比カーブは,これまでに数多く報告されてきた.それらは,過去の気候変化と海水準変動にとって充分に確立された信頼のおける指標である.将来の気候で起こりそうな動向を理解するためには,過去の間氷期の記録において最も温暖であった期間を正確に見極めることが必要である.この総説で,われわれは過去の間氷期の温暖な程度を理解するために,過去42万年間のこれまでに報告された9つの高分解能な酸素同位体記録を比較した.その酸素同位体比の変動から描き出された間氷期の暖かさの順番は,海洋同位体ステージ(MIS)5.5>9.3>11.3>1>7.5である.この間氷期の暖かさの順番は,Lisiecki and Raymo(2005)の標準酸素同位体比カーブと,また南極のEPICAドームCの氷床コアの水素同位体比カーブときわめてよく似ている.とくに,MIS 5.5中の最も温暖な期間における相対的な海水準は,MIS 1の期間よりあるいは現在より,おそらく約7±4m高かったであろう.一方,MIS 11.3は,過去の5つの間氷期の中で最も長い温暖期であることが明らかになった.この観察事実は,温暖化が進行している将来の地球環境を予測するためには,MIS 5.5と11.3の詳細な研究が本質的で重要であることを明瞭に示唆している.