著者
大塚 宜一
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.2-7, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
12

特定の食物を食べることで繰り返す湿疹,咳,腹痛,下痢,下血,体重増加不良等の症状をきたす疾患が食物アレルギーである.食物アレルギーは「免疫反応」を介して生じる.人体に対して有害な細菌やウイルスを異物と認識して排除する反応が「免疫反応」だが,生体に必要な特定の食物を誤って異物と認識して「免疫反応」が誘導されることが食物アレルギーである.口から摂取された食物すなわち蛋白質は腸に入り消化酵素により消化・分解される.通常,蛋白質がアミノ酸まで消化されればアレルギー反応は生じない.しかし,十分に消化されない蛋白質(ペプチド)は食物アレルギーの原因抗原となる.特に,離乳食を食べている乳幼児は消化機能が未熟で,食物をアミノ酸まで完全に消化できないことも多く,その結果,アレルギー反応が生じやすいと考えられる.一方,ヒトには,口から摂取した食物に対してアレルギー反応を起こさないようにする「寛容」と呼ばれる機能がある.特に,乳児期の免疫機能は,寛容を誘導しやすいと考えられる.乳児期の消化機能の未熟性は,食物に対する寛容を誘導するための自然の仕組みとも考えられる.アレルギーの予防という観点からは,食物負荷試験により重篤なアレルギー症状が出ないと確認されている食物であれば,少量から積極的に食べることで寛容を誘導することができる(経口免疫寛容).また,卵白は20分程度加熱することで,牛乳はオーブンで加熱することで抗原性が抑えられることが報告されている.アナフィラキシーショックを呈することもあり,注意が必要であるが,医師の管理のもと,より安全な食べ方を見つけ,継続して食べることが食物アレルギーの治療となる.
著者
大塚 宜一 清水 俊明 永田 智
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

食物アレルギーや炎症性腸疾患の病態を解明する目的で、食物の未消化産物との関連を検討した。その結果、未消化産物の明らかな抗原性は確認できなかった。一方、それぞれの消化管粘膜の生検標本を用いmicroarray法、RT-PCR法、免疫組織染法などの検討を行ったところ、新生児・乳児消化管アレルギーにおいてCCL21、CXCL13の、また、小児炎症性腸疾患においてCXCL9、CXCR3などの発現亢進を認め、それぞれの病態に食物の侵入経路であるリンパ濾胞との関わりが示唆された。
著者
大塚 宜一 清水 俊明 鈴木 竜洋
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

新生児一過性好酸球性腸炎(NTEC)、食物過敏性直腸炎(FPIP)、小児炎症性腸疾患の粘膜をMicroarray、RT-PCR、免疫組織染色法を用い解析した。NTEC, FPIPではCCL11、CXCL13の関与が、小児クローン病ではCXCL-9,-10,-11、小児潰瘍性大腸炎ではMMP-1,3,7,10の関与が示唆された。両者で発現亢進が確認されたCXCL13は、B細胞を誘導するリンパ濾胞形成因子であり、新生児期からの食物に対するIgA産生や寛容誘導に深く関わっている。その発現亢進は、小児に欠かせない免疫応答であると考えられる一方、炎症増強に関わっている可能性が示唆された。
著者
大塚 宜一 清水 俊明 藤井 徹 工藤 孝広
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

H.pyloriに感染した小児と成人の胃粘膜に発現する免疫・癌関連分子を、microarrayなどを用いて網羅的に比較検討した。対象は各種消化器症状に対して消化管内視鏡検査を施行した患者とし、H.pylori感染小児群、非感染小児群、感染成人群、非感染成人群の各々6症例、合計24症例の胃粘膜(前庭部・胃体部)を検討した。その結果、成人感染群でより強い発現のもの(OLFM4)、成人・小児感染群で同等に発現するもの(PIM2,REG3A,LCN2,CXCL13)が確認された。発癌の機序として、H.pylori感染に伴う小児期からの癌関連分子の発現の亢進及び慢性炎症性変化の関与が示唆された。
著者
山城 雄一郎 大塚 宜一 永田 智 清水 俊明
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

インフォームド・コンセントの得られた川崎病患児14例中9例の小腸粘膜から,患児末梢血単核球を有意に刺激する4種のグラム陰性桿菌,3種のグラム陽性球菌,3種のグラム陰性球菌を検出した.このうち患児2例からはスーパー抗原活性を有するS.aureusが検出された.また検出された細菌のうち1種は偏性嫌気性菌で通常の咽頭/後鼻腔,便培養では得られない細菌群であった.これらの培養上清を同一患児血清と反応させ,Western blottingにより反応した蛋白成分をIgG抗体を用いて検出した.その結果,9例全例からγグロブリン投与前の血清で検出されなかった各細菌の産生物に対するIgG抗体が投与後の血清にて検出されていた.以上より,小腸粘膜から検出された細菌の産生物が,患児単核球を増殖させ,何らかの免疫学的活性をもたらしていること,しかもその細菌産生物の産生時期は川崎病急性期であること,γグロブリンによりその中和抗体が供給されたことより,川崎病が治癒を迎えた可能性が大きいことが推測され,これら細菌産生物が川崎痛の原因物質であることを強く示唆する結果と考えられた.これらのうち2例から得られた56kDa,47kDa,37kDaの3種のバンドについてのみアミノ酸分析が行い得たが,これらはいずれも細菌の内因性蛋白であった.以上のことから,川崎病の病原菌は単一なものではなく極めてheterogeneousなものであることが推察された.
著者
永田 智 清水 俊明 大塚 宜一
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

肥満群の便では健常児と比較してビフィズス菌の有意な減少と便中酢酸濃度の明らかな低下が認められた。肥満群は、観察期間の前半6ヶ月を食事・運動療法のみ、後半6ヶ月は乳酸菌シロタ株含有飲料を飲用させたところ、飲用1ヶ月後に有意な体重減少が得られた。また、飲用3カ月後に中性脂肪値の有意な低下、1カ月後にHDLコレステロール値の上昇傾向、飲用3カ月後に便中ビフィズス菌の有意な増加と酢酸濃度の有意な上昇が認められた。以上より、シロタ株には肥満抑制効果があることが示唆され、その効果は、シロタ株が腸内のビフィズス菌の増殖を促進して、その代謝産物である酢酸などが脂質代謝に影響している可能性が考えられた。