著者
大山 学
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.505-510, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
22
被引用文献数
2

円形脱毛症は境界明瞭な脱毛斑を呈し,病理組織学的には成長期毛包の毛球部周囲のリンパ球主体の炎症性細胞浸潤を特徴とする自己免疫性疾患である.しかし,この記載は円形脱毛症急性期の病態の一部を捉えているに過ぎない.急性期から慢性期に移行するにつれ,自己免疫応答に引き続いて生じる毛周期の変調により毛包は成長期毛から休止期毛へとその形態を変え,その変化により毛包を標的とする免疫応答も収束していく.したがって円形脱毛症の病期後半ではむしろ毛周期の障害という要素が大きい.つまり,円形脱毛症では臨床経過の移り変わりとともに1)自己免疫応答による毛包の傷害による脱毛(毛球部が萎縮性の変化を示す脱毛,急性期・急性増悪期)2)毛周期の変調による脱毛(毛球部が萎縮性ではないが変調に伴う棍毛主体の脱毛)または再発毛障害による脱毛(慢性期・症状固定期)が生じている.実際には,罹患部の全ての毛包が同期して同じ状態にあるのではなく,個々の毛包により状態は異なる.罹患部に最も多い毛包の状態が脱毛斑の病態を規定する.日本皮膚科学会診療ガイドラインで本症に推奨されている治療法のうち,副腎皮質ステロイド局所注射,外用,点滴静注パルス療法(パルス療法)などは自己免疫応答の直接的抑制が主たる機序と考えられるのに対して局所免疫療法は緩徐な免疫変調により効能を発揮すると思われる.こうした機序を考慮すればパルス療法は急速進行期に,局所免疫療法は慢性期に実施することが理にかなっていることがわかる.また,その他の治療法にも,遷延する毛周期の遅延を解除しうるなど個々に想定される作用機序があり,理論的に適した病期があることが理解できよう.以上から,円形脱毛症の治療効果を最大に得るためには疾患の病態,特に脱毛症状の背後にある毛周期の変調という現象を理解し,症例ごとにそれを考慮しながら治療法を選択していくことが必要である.