著者
大島 一正
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

普段我々が用いている「種」という単位は,伝統的な分類学により形態差に基づいて定義されている場合がほとんどある。一方,種分化研究では隔離機構の有無や遺伝的交流の程度が重視され,形態差が必ずしも考慮されてきたわけではない。さらに DNA バーコーディングの普及により,定義上も実際の分化の程度にも大きな隔たりがある分類基準が混在している状況にある。そこで本研究では,基準間での矛盾が見られる分類群を対象に,交配能力とゲノム分化を指標として,どの程度種分化が進行すれば交尾器形態に別種相当の分化が生じるのか,そしてバーコーディング領域の分化と比べて進行する順序に傾向があるのかを解明する。
著者
大島 一正 佐藤 雅彦 大坪 憲弘 武田 征士
出版者
京都府立大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2017-06-30

植物を餌とする昆虫類の中には,単に植物を食べるだけでなく,自身の住処となり,かつ自らが欲しい栄養成分をふんだんに含んだ「虫こぶ insect gall」と呼ばれる構造を作らせる種が知られている.このような巧みな植物操作がどのように行われ,そしてどのような昆虫の遺伝子が関与しているのかに関しては,興味は持たれていたが,そもそも実験的に飼育できる虫こぶ誘導昆虫自体がほぼ無かったため,大部分は未解明のままであった.そこで本研究では,実験室内で飼育可能な実験系の立ち上げと,モデル植物を用いた虫こぶ誘導能の実験手法を確立することで,虫こぶ形成の謎を解明する突破口を開いた.
著者
薬師川 穂 池田 武文 大島 一正
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.335, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

葉に潜り込み, 葉肉細胞を摂食する昆虫をリーフマイナーと呼ぶ。一般に昆虫が葉を摂食すると, 食べられた箇所の細胞は褐変・枯死するが, リーフマイナーが摂食した葉は緑が維持される。そこで, リーフマイナーと植物の相互関係を探るために, 潜入葉の光学顕微鏡と走査電子顕微鏡による観察及びクロロフィル蛍光を測定した。材料はクルミホソガが潜入したカシグルミの葉(恒温室内)と, 野外採取した5種の葉を用いた。光顕観察では, 葉のマイン部の切片を作製し, サフラニン‐ファストグリーンの二重染色を行った。その結果, カシグルミの葉肉細胞には顕著な活性の低下や壊死は生じていなかった。野外採取の種では, クズを除くすべてで細胞の壊死はみられなかった。いずれのマインにおいても摂食跡はマインのある組織のみであり, まわりの組織への損傷はほとんどなかった。また, クロロフィル蛍光の測定結果から, すべての葉でマイン部分の光合成活性が低下していた。以上から, マイン形成によって葉の光合成活性は低下するが, 細胞それ自体の活性は維持されているようであった。クズのマインは, マインに接する細胞壁がスベリン化していた。