著者
井上 尚英 平田 美由紀 田中 昭代 槇田 裕之 大村 実
出版者
九州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

この研究では、まず、7種類の農薬・同分解産物の雄性生殖毒性の有無をスクリーニングした。そして、雄性生殖毒性が認められた物質について用量作用評価実験によってその最大無作用量を求め、さらに、その物質を含む飲料水を摂取した場合の男性生殖機能への影響についての推定を行った。スクリーニング実験では、7物質(1,3-ジクロロプロペン,フェニトロオキソン,イソプロチオラン,チオベンカルブ,クロロニトロフェン,p,p′-DDE,γ-BHC)のうち、298mg/kgのインプロチオランのラットへの単回経口投与で、精巣重量の減少、精細胞数および精子数の減少、精細管からの精子放出遅延が認められた。次に、100mg/kg〜600mg/kgの投与量でイソプロチオランの雄性生殖毒性についての用量作用評価実験を行った。しかし、この実験ではイソプロチオランの雄性生殖毒性は認められず、その最大無作用量を求めることはできなかった。そこで、飲料水摂取による男性生殖機能への影響の推定では、スクリーニング実験でのイソプロチオランの投与量(298mg/kg)をラットへの単回経口投与での雄性生殖毒性についての最小作用量と仮定した。そして、1回投与量を1日摂取量と考え、1日の摂取では男性生殖機能への影響はないと予測される飲料水中のイソプロチオラン濃度をUSEPAの1日HA値の算定方法に従って求めた。その結果、7.45mg/L〜74.5mg/Lというイソプロチオラン濃度が得られた。この値は、日本の水道水中イソプロチオラン濃度の最高値(2.0μg/L)および環境水中濃度の最高値(69.8μg/L)より100倍から1000倍以上も高い値であり、また、イソプロチオランは塩素滅菌処理で除去されると考えられることから、1日の摂取では、飲料水中のイソプロチオランによる男性生殖機能への影響はないものと考えられた。
著者
粟生 修司 大村 実 大嶋 雄治 長谷川 健 河合 啓介 片渕 俊彦
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1)ビスフェノールAやトリブチルスズの周産期や胎生期曝露の行動の性分化に及ぼす影響を調べた。探索行動の性差は周産期間曝露と同様に消失した。強制水泳試験では、ストレス対処行動の指標であるstruggling時間の性差(雌>雄)が、出産前1週間曝露で消失した。うつ反応の指標であるimmobility時間は、対照群および曝露群ともに性差はなかったが、ビスフェノールA曝露群で有意に延長した。本研究により、内分泌撹乱物質が、探索行動、ストレス対処行動、青斑核、扁桃体内側核領域の喚覚応答の性差を消失させることが明らかになった。さらに、ビスフェノールAがうつおよび不安を増強し、捕食者のニオイに対する警戒応答を増強することを見い出した。2)みどりの香りのストレス応答に対する作用を調べた。捕食者のニオイに曝露した時には、みどりの香りは高架十字迷路試験において総移動距離、平均移動速度を増加させ、活動性を上げた。心理的ストレスに関しては、ストレスに曝露した翌日の飲水量をみどりの香りが著しく減らしていた。高架プラス迷路試験による不安レベルや活動性には差はなかった。身体的ストレスに関しては、ストレスに曝露した翌日の摂食量および飲水量は減少していた。さらに翌々日の摂食量および飲水量も減少していた。高架プラス迷路試験による不安レベルや活動性には差はなかった。以上のことからみどりの香りは、活動性を上昇すること、摂食、飲水量をストレス強度に依存して抑制することがわかった。3)内界環境に応じて変動する摂食調節物質であるオレキシンA、レプチン、2-buten-4-olideが摂食行動だけでなく、学習記憶機能を調節する作用を示すことを水迷路試験や海馬長期増強試験で明らかにした。
著者
大村 実
出版者
日本微量元素学会
雑誌
Biomedical research on trace elements (ISSN:0916717X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.149-157, 2002-09-30