著者
山本 ゆりえ 庄子 雅保 細川 真理子 村上 匡史 田村 奈穂 河合 啓介
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.719-727, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
14

摂食障害患者の下剤乱用は予後不良因子の1つである. 入院治療において薬剤師による下剤乱用や便秘に焦点を当てた教育的指導を実施した後, 下剤の処方量と患者の認識の変化, 退院1年後の下剤乱用量について調査した. 下剤乱用患者33名は入院時処方に比較して, 退院処方では刺激性下剤に関して有意な変化を認めなかった (p=0.435) ものの, 入院前の下剤乱用量を考慮すると刺激性下剤の総量としては減少したと推察する. 医師らと連携しながら薬剤師が教育的指導を実施したところ, 患者の排便や下剤に対するこだわり発言に変化がみられた. 追跡調査として対照群を設定し, 入院前と退院1年後の下剤の乱用量を比較した. 入院前の下剤乱用量が少ないこと (p=0.000), 薬剤師の介入 (p=0.029) は, 退院後の下剤乱用量を減少させる因子であることがわかった. 摂食障害患者に対するチーム医療において, 薬剤師の関わりは有用である.
著者
粟生 修司 大村 実 大嶋 雄治 長谷川 健 河合 啓介 片渕 俊彦
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1)ビスフェノールAやトリブチルスズの周産期や胎生期曝露の行動の性分化に及ぼす影響を調べた。探索行動の性差は周産期間曝露と同様に消失した。強制水泳試験では、ストレス対処行動の指標であるstruggling時間の性差(雌>雄)が、出産前1週間曝露で消失した。うつ反応の指標であるimmobility時間は、対照群および曝露群ともに性差はなかったが、ビスフェノールA曝露群で有意に延長した。本研究により、内分泌撹乱物質が、探索行動、ストレス対処行動、青斑核、扁桃体内側核領域の喚覚応答の性差を消失させることが明らかになった。さらに、ビスフェノールAがうつおよび不安を増強し、捕食者のニオイに対する警戒応答を増強することを見い出した。2)みどりの香りのストレス応答に対する作用を調べた。捕食者のニオイに曝露した時には、みどりの香りは高架十字迷路試験において総移動距離、平均移動速度を増加させ、活動性を上げた。心理的ストレスに関しては、ストレスに曝露した翌日の飲水量をみどりの香りが著しく減らしていた。高架プラス迷路試験による不安レベルや活動性には差はなかった。身体的ストレスに関しては、ストレスに曝露した翌日の摂食量および飲水量は減少していた。さらに翌々日の摂食量および飲水量も減少していた。高架プラス迷路試験による不安レベルや活動性には差はなかった。以上のことからみどりの香りは、活動性を上昇すること、摂食、飲水量をストレス強度に依存して抑制することがわかった。3)内界環境に応じて変動する摂食調節物質であるオレキシンA、レプチン、2-buten-4-olideが摂食行動だけでなく、学習記憶機能を調節する作用を示すことを水迷路試験や海馬長期増強試験で明らかにした。
著者
有村 達之 小牧 元 村上 修二 玉川 恵一 西方 宏昭 河合 啓介 野崎 剛弘 瀧井 正人 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.259-269, 2002-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本研究の目的は,アレキシサイミア評価のための改訂版 Beth Israel Hosoital Psychosomatic Questionnaire構造化面接法(SIBIQ)の開発である.SIBIQはアレキシサイミア評定尺度である改訂版BIQの評定に必要な面接ガイドラインと評定基準を含む半構造化面接である.心療内科を受診した45名の患者にSIBIQを実施し,良好な内的一貫性(α=0.91)と評定音間信頼性(ICC=0.82)を得た.また,アレキシサイミア評価の質問紙であるTAS-20との間に正の相関(r=0.49)があり収束妥当性が支持された.因子分析では(1)アレキシサイミア,(2)空想能力の二因子が抽出された.
著者
井上 建 小坂 浩隆 岡崎 玲子 飯田 直子 磯部 昌憲 稲田 修士 岡田 あゆみ 岡本 百合 香山 雪彦 河合 啓介 河野 次郎 菊地 裕絵 木村 大 越野 由紀 小林 聡幸 清水 真理子 庄司 保子 髙倉 修 高宮 静男 竹林 淳和 林田 麻衣子 樋口 文宏 細木 瑞穂 水田 桂子 米良 貴嗣 山内 常生 山崎 允宏 和田 良久 北島 翼 大谷 良子 永田 利彦 作田 亮一
出版者
日本摂食障害学会
雑誌
日本摂食障害学会雑誌 (ISSN:24360139)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-12, 2023-10-05 (Released:2023-10-05)
参考文献数
19

COVID-19パンデミック下,摂⾷障害患者における社会からの孤立,受診控え,症状の悪化,さらに新規患者の増加などが報告された。そこで我々は,2019,2020,2021年の神経性やせ症(Anorexia Nervosa: AN)および回避/制限性食物摂取障害(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder: ARFID)の新規患者数,入院患者数,性別,年齢層,COVID-19の影響の有無について,国内で摂食障害を専門的に診療している医療機関に対して調査を依頼した。すべての項目に回答のあった28施設の結果について集計・解析した。ANの新規・入院患者数はそれぞれ,2019年は400人,266人,2020年は480人,300人,2021年は610人,309人であった。一方,ARFIDの新規・入院患者数はそれぞれ,2019年は70人,15人,2020年は97人,22人,2021年は112人,17人であった。AN,ARFIDともに2019年と比較して2020年,2021年は新規患者数,入院患者数ともに増加し,これは10代でより顕著であった。さらにANにおいては20代の患者も増加していた。COVID-19 パンデミック下にARFID 患者数の増加が示されたことは重要な知見であると考えた。
著者
河合 啓介
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.834-840, 2013-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
13

本稿では,九州大学病院心療内科での神経性食欲不振症(AN)患者の入院治療を通じて,AN治療の最近の治療上の工夫について心身両面から述べる.身体面:身体的要因による緊急入院治療への取り組みは大きな課題である.われわれは,(1)BMI13〜14kg/m^2までは,飢餓時期においては,脂肪分解によるエネルギー産生が中心となり,それ以下のBMIでは,蛋白異化が中心となること,(2)除脂肪量(筋肉・内臓組織・血液量など)が低下するほど身体的要因による緊急入院のリスクが有意に増加すること,(3)BMIが12〜13kg/m^2以下のANの体重増加期は,脂肪の合成よりも除脂肪合成が優位であること,(4)入院時BMI12kg/m^2以下の症例でも,高リン含有の栄養補助食品(アルジネード^[○!R] 125ml)を併用すると簡便にrefeeding症候群を予防できることを報告し,BMI13kg/m^2をキーポイントとした身体管理の重要性を提言している.心理面:当院では,入院症例に対して多くは「行動制限を用いた認知行動療法」を行っている.体重が増えなければ治療が進まない形式の心身両面への統合的アプローチである.最近は入院治療中に,強い他者批判や社会あるいは家族との関係に課題を持ち続ける事例に対して,内観療法を併用することがある.この2つの心理療法には類似点があり,併用すると相乗効果があると思われる.
著者
岡本 敬司 野崎 剛弘 小牧 元 瀧井 正人 河合 啓介 松本 芳昭 村上 修二 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.369-375, 2001-06-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
16

栄養状態の回復期にカルニチン欠乏および高CPK血症をきたした神経性食欲不振症を報告した.症例は30歳女性.入院時体重は19.6kg(-57%標準体重).入院時より高度の肝機能障害を認めたが, 栄養状態の改善に伴い入院30日目には正常化した.しかし, そのころよりCPKが上昇しはじめ, 入院時は正常範囲にあった血清カルニチン濃度が正常の半分以下まで低下した.その後, 摂食量の増加にもかかわらず, 血清カルニチン濃度はわずかに上昇したのみで, CPKも漸減しただけであった.そこでカルニチン製剤を投与したところ, CPK, カルニチンともに速やかに正常化した.神経性食欲不振症の栄養状態の回復期におけるCPKの上昇とカルニチンの関連を考察した.
著者
波夛 伴和 瀧井 正人 高倉 修 森田 千尋 河合 啓介 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.857-863, 2015-07-01 (Released:2017-08-01)

生活習慣や治療行動(食事や運動など)は糖尿病患者の病状を左右する重要な要素である.患者を適切な治療行動に導くために,従来,糖尿病治療者は教育・指導に注力してきた.近年では,患者の問題解決能力を尊重して,その能力の発揮を援助する考え方(糖尿病エンパワーメントなど)が紹介され,効果も報告されている.しかし,中には自身の能力を発揮するのが難しい患者も存在する.そのような患者を効果的に援助するためには,より深く患者を理解することが必要である.本稿では,糖尿病患者を理解するためのかかわりについて,筆者の学びの過程を示しながら考察した.患者の大きな変化につながるような言葉や,技法が明確な心理療法に注目が集まりやすいが,その前段階の土台作りの重要性についても強調したい.
著者
久保 千春 高倉 修 古賀 泰裕 須藤 信行 河合 啓介 森田 千尋 古川 智一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、定量的PCR法に基づいたYakult Intestinal Flora-Scanを用いて、神経性食欲不振症(AN)女性患者の腸内細菌叢を年齢を一致させた健常女性と比較した。AN患者では健常群と比較し、総細菌数、Clostridium coccoides group、Clostridium leptum subgroup、Bacteroides fragilis group、およびStreptococcusの細菌数が有意に減少していた。AN群では健常者と比べ糞便中の酢酸、プロピオン酸濃度が有意に低かった。以上の結果は、AN患者では腸内細菌叢の異常が存在することを示している。
著者
有村 達之 小牧 元 村上 修二 玉川 恵一 西方 宏昭 河合 啓介 野崎 剛弘 瀧井 正人 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.259-269, 2002-04-01
被引用文献数
4

本研究の目的は,アレキシサイミア評価のための改訂版 Beth Israel Hosoital Psychosomatic Questionnaire構造化面接法(SIBIQ)の開発である.SIBIQはアレキシサイミア評定尺度である改訂版BIQの評定に必要な面接ガイドラインと評定基準を含む半構造化面接である.心療内科を受診した45名の患者にSIBIQを実施し,良好な内的一貫性(α=0.91)と評定音間信頼性(ICC=0.82)を得た.また,アレキシサイミア評価の質問紙であるTAS-20との間に正の相関(r=0.49)があり収束妥当性が支持された.因子分析では(1)アレキシサイミア,(2)空想能力の二因子が抽出された.
著者
館 雅之 野崎 剛弘 瀧井 正人 占部 宏美 高倉 修 河合 啓介 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.803-811, 2007-09-01
被引用文献数
1

大量の下剤乱用を10年間にわたり続けていた神経性食欲不振症の遷延例である.このような症例は難治であり予後も不良とされるが,当科で行っている,「行動制限を用いた認知行動療法」が奏効し,退院後3年半経っても順調に推移しているので,報告する.「行動制限を用いた認知行動療法」では,患者が肥満恐怖に向き合い,体重増加を図っていくと同時に,行動制限中に表出してきた患者の問題行動を適宜扱う.本患者は,入院治療の過程で,現実生活でいやなことから逃げるという「葛藤回避」が自分の本質的な問題であることを認めるようになった.その結果,「葛藤」から逃げることなく,実際に体重を増やすことができ,体重のみならず家族や対人関係における認知や行動に変化がみられるようになった.本稿では,治療を通じて,患者の認知や行動が変化していった経緯と治療上の留意点について述べた.
著者
西方 宏昭 野崎 剛弘 玉川 恵一 河合 宏美 河合 啓介 瀧井 正人 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.699-706, 2003-10-01

選択性緘黙と神経性食欲不振症を合併した症例に対し"三匹の猫"の対話ノートを使った非言語的交流技法を導入した.症例は14歳,中学2年の女子生徒.小学6年(12歳)時よりダイエットを開始し,中学1年(13歳)時,3カ月で29kgから22kgに体重が減少.同時期より家庭以外で話せなくなった.近医小児神経科に入院し点滴,経管栄養および抗うつ剤を投与され25kgで退院したが緘黙症状は悪化,体重も再び減少し当科入院となった.入院時身長134.5cm(骨年齢9歳6カ月),体重22.6kg(BM12.5kg/m^2,肥満度-28%).言語的交流がきわめて限られていたため摂食障害患者をモチーフに三匹の猫を作成した.猫たちとの交流を通じ,患者は初めて感情表現を行うことができた.その後は体重を29kgまで増やし退院した.